クライスラー・クロスファイアロードスター(5AT)【海外試乗記】
クーペ以上に…… 2004.09.09 試乗記 クライスラー・クロスファイアロードスター(5AT) ダイムラーとクライスラーの血を受けた「クロスファイア」にオープンモデルが追加され、日本でも2004年9月4日に発売された。一足先に海外で試乗した、自動車ジャーナリストの森口将之は、なにを思ったか?なにもしていない
クーペをベースとしてロードスターをつくるとき問題になるのが「補強」だ。ルーフがあったときと同等のボディ剛性を備え、万一横転したときなどに乗員を守る強さがなければならない。
個人的には、屋根のないクルマの剛性や安全性が落ちるのは当然と思っているのだが、最近のメーカーはそれが許せないらしい。ほとんどのオープンモデルは、どれだけ対策を施したかをアピールする。
そこへいくと、クライスラーの「クロスファイアロードスター」の対策は、とてもあっさりしている。フロアの下に補強のメンバーを追加して、2つのシートの背後に小さなロールバーを装着しただけ。横転対策の必須条件のように思われているAピラーの補強は? という質問には、「なにもしていない」と答えた。
一瞬、「こんなことでいいのか?」と思ったが、直後に考えが変わった。「クロスファイア」は、初代「メルセデスベンツSLK」のプラットフォームを流用している。SLKはバリオルーフと呼ばれる電動開閉式ハードトップを備えたロードスターであるうえ、メルセデスの名にかけて、補強はしっかり行っている。それを基本とするからこそ、フロアの下にメンバーを入れるだけで済んだのだ。
ロードスターは、2003年末から日本に導入されている、クロスファイアのクーペと同時に開発された。補強が最小限で済んだのは、基本設計のときに織り込んであったこともあるだろう。ちなみに、重量増加はわずか30kgに抑えられた。
メルセデスの血
問題は乗ってどうかだが、たしかにこれで十分だった。タイヤはフロントが225/40ZR18、リアが255/35ZR19と大径&超扁平サイズ。しかしメルセデス設計のサスペンションがしっとりストロークするおかげで、衝撃を巧みにいなす。おかげできしみ音などは発生しないだけでなく、オープンモデル特有の微妙なしなりがショックを和らげてくれる。そのためクーペよりマイルドな乗り心地が味わえた。
しっかりしたシャシーを持っていることで想像できる通り、ハンドリングはクーペに限りなく近い。2400mmというショートホイールベースの後輪駆動車で、過渡特性では不利なタイヤサイズを選んでいるとは思えないほど、安定指向が強い。おっとりした切れ味のリサーキュレーティング・ボール式ステアリングや、早めに効かせるESPなど、メルセデスの血を感じさせる性格だ。
クーペのDNAを受け継いだのは走りだけではない。デザインもそうだ。ルーフからリアにかけて、緩くスロープしたラインこそないが、いちばんのアピールポイントである「ボートテール」はそのまま。速度可変式リアスポイラーはクーペとは別物。ロードスターのトランクリッドは、開口幅がクーペのリアゲートより広いなど、専用設計の部分はけっこう多く、機能と美しさを両立させようというこだわりを感じる。
聴かせるサウンド
ドイツのカルマン社が生産を担当するのも、クロスファイアの特徴。ロードスターは、コーチビルダーが手がけたことを証明する部分がある。ソフトトップの開閉方法がそれ。ルーフ前端中央のハンドルを引っ張って回しロックを解除したあと、電動スイッチを押すという手順は、「フォルクスワーゲン・ニュービートルカブリオレ」にそっくりだ。開閉時間は22秒とまずまず。反面、風の巻き込みは多めで、高速道路でルーフを開けようという気になれなかったのが残念だ。とはいえ、一般道ではオープンカーならではの爽快感を堪能できた。
パワートレインはクーペと同じで、218ps、31.6kgmのパワーとトルクを発生するメルセデス製3.2リッターV6 SOHC18バルブに、5段ATを組み合わせている。車両重量がクーペと30kgしか違わないので、加速性能もほとんど同じだ。下から上までフラットにトルクを盛り上げていく実用的な性格だが、「アウディTTロードスター」や「BMW Z4」など、ライバルと同等のダッシュ力は備える。
クーペと大きく異なるのはエグゾーストサウンドだ。クライスラー独自のチューニングがなされた排気音は、クーペではあまり耳に入らなかったが、ロードスターはオープンボディなのでダイレクトにキャビンに届く。予想を上まわる快音だったのが嬉しい限り。最近のメルセデス製エンジンでは1、2を争う「聴かせる音」だった。
日本には9月に上陸した、クライスラーとメルセデスのミクストブラッド・ロードスターは、クロスファイアのDNAをキープしたうえで、オープンカーならではの光と風と音の楽しさを盛り込んでいた。それがこのクルマを、クーペ以上にスポーツカーらしい乗り物に仕立てている。
(文=森口将之/写真=ダイムラークライスラー/2004年9月)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】 2026.1.17 BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
NEW
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
NEW
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
NEW
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。 -
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】
2026.1.17試乗記BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。 -
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る
2026.1.16デイリーコラム英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。












