クライスラー・クロスファイア(5AT)【試乗記】
いかにも、アメ車っぽい 2004.01.29 試乗記 クライスラー・クロスファイア(5AT) ……490.0万円 ダイムラーとクライスラーが合併した恩恵で(?)生まれた、「メルセデスベンツSLK」ベースのクライスラー車「クロスファイア」。自動車ジャーナリストの渡辺慎太郎は、“SLK風味”が濃いアメ車に乗って、あることに気が付いた。ウソつき……?
あれは1999年の7月頃だったと思う。当時在籍していた『Car Graphic』誌でメルセデスベンツの特集をやることになって、独シュトゥットガルトとその近郊に約2週間滞在した。
取材の目玉は当時のメルセデスの2トップ、ユルゲン・フベルト氏(現メルセデス・ベンツ乗用車部門統括)とディーター・ツェッチェ氏(現クライスラー部門最高経営責任者)へのインタビューである。ダイムラー・ベンツ社とクライスラー社の合併が決まった直後だったので、おふたりにどうしても聞きたい(確認しておきたい)ことがあった。それは「メルセデスのプラットフォームをクライスラーと共用することはあるのか?」ということだ。
この質問について彼らは口を揃えて「No」と答えた。フベルト氏は「中身は同じで、違うボディを被せて売るようなことは絶対にしません」(『CG』1999年11月号参照)とまで断言した。
それから約5年。クライスラーからクロスファイアという量産車が登場した。その中身は、紛れもないメルセデス・ベンツSLKだった。
彼らはウソをついたのだろうか。
ドイツ製アメ車
「クロスファイア」という名のクルマがこの世に初めて姿を現したのは、2001年1月のデトロイトショーである。カーボンファイバーのボディを持つコンセプトカーで、2.7リッターのV6スーパーチャージャ付きエンジンを搭載。フロントに19インチ、リアには21インチという大足の持ち主だが、ボディサイズは4mを切り、意外にコンパクトだった。
反響は予想以上に良好で、クライスラーはそれから数週間後に量産化の可能性を模索、同年8月に正式決定したという。
翌2002年のロサンゼルスショーでは早くも生産型の車両を展示。これを手がけたドイツ・カルマン社が生産も担当することになり、2003年2月3日、クロスファイアの生産が開始されたそうだ。コンセプトモデルの発表から量産型の生産開始まで、およそ2年でこぎ着けられたのは、SLKをベースにできたからだろう。
ヘッドライトの形状が縦から横になったこと以外、クライスラーのデザイナーは、コンセプトモデルのエッセンスをほとんどすべて具現化することに成功している。もちろん、多くのデザイナーの力を結集した成果だが、そのなかにフリーマン・トーマスの名を見つけた。アウディTTやVWニュービートルを手がけた「ジーニアス」と呼ばれるデザイナーである。クロスファイアの全長と全幅がアウディTTとまったく同じなのは単なる偶然か。
ちょっと興ざめ
試乗会は東京・お台場で開催され、撮影時間も含めて90分という限られた時間だったため、今回の評価は第一印象の域を超えないものであることをはじめに「お断り」しておく。
クロスファイアを目の前にして「これが最新のアメ車のデザインなんだぁ」としみじみ思った。元々、アメ車が嫌いではない私はこれはすんなりと受け入れることができ、今度はインテリアデザインへの期待が高まった。
ところが運転席に座った途端、その期待ははかなくも裏切られることになる。
「これってSLKのまんまだ」
厳密に言えば「まんま」ではない。ドアノブやステアリング、メーターの「針」やスイッチの「一部」はクロスファイアのオリジナルだけれど、メーターパネルやセンターコンソールのレイアウト、ウインカーレバー、ヘッドライトスイッチ、サイドブレーキレバー、シフトゲート、ブレーキペダル、アクセルペダル、ハザードスイッチなどはSLKとまったく同じである。これには正直なところ、ちょっと興ざめした。室内でアメ車っぽいと感じたのは、標準装備のインフィニティ社製オーディオの「ドンシャリ」サウンドだけだ。百歩譲って中身は同じでもいいから、見える部分はオリジナルの意匠で勝負して欲しかった。
走り出すと“SLK風味”の印象はさらに強くなった。乗り味までもそっくりだったからである。ホイールベース(2400mm)、前後のサスペンション(前ダブルウイッシュボーン/後マルチリンク)、エンジン(型式を含むすべてのスペック)、トランスミッション(最終減速比を含むすべてのギア比)、車両重量(1400kg)、燃料タンク容量(60リッター)が同じなのだ。タイヤ&ホイールサイズや前後トレッドとそれに伴うサスペンションのセッティング変更があったとはいえ、乗った印象に大きな変化がないのはあたりまえである。
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SLKよりイイかも
ただし、SLKより好印象を得た部分もある。SLKは、格納式ハードトップ「バリオルーフ」を背負っているため重心が高く、先代のCクラスから流用したリアサスのロール剛性が特に低い。よって、このサイズの後輪駆動2ドアモデルにしてはロール速度が速く量も多かった。対してクロスファイアは、SLKほど重心は高くなく、ロールの速度/量ともにSLKよりはまともになっている。それでもハンドリングマシンというより、むしろ真っ直ぐ走ることのほうが得意な味付けになっていた。エンジンの出力/トルクは必要以上で、アクセルペダルを床まで踏み込めば、パワフルな加速が期待できる。電動リアスポイラー(90km/h以上で作動、60km/hで格納)が立ち上がるまで、あっという間だ。
試乗会の後、同じくクロスファイアに乗った友人が「いかにもアメ車っぽくてよかったですね」と感想を語った。一瞬耳を疑ったが、聞けば彼はSLKに乗ったことがないという。
そこで、自分の頭の中を整理してみて気が付いた。思えばSLKというクルマ、その雰囲気はアメ車に似ていたとも言える。曲がるよりも真っ直ぐ走っているほうが気持ちいい。そういう観点から言えば、クロスファイアのベースにSLKを選んだのは賢い選択だったのかもしれない。それになにより、当のメルセデスはすでに、新型SLKをフォトデビューさせた。
だから、フベルト氏やツェッチェ氏は、嘘をついたわけではないと思う。
「“既存”プラットフォームの流用は、約束通りやっていませんよ」
彼らの「言い訳」は、たぶんこんな感じになるのではないだろうか。
(文=渡辺慎太郎/写真=郡大二郎/2004年1月)

渡辺 慎太郎
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