クライスラー300C 5.7V8【海外試乗記】
品があり、味もある 2004.09.25 試乗記 クライスラー300C 5.7V8(5AT) ダイムラーとクライスラーの、(身内)共同開発第2弾「クライスラー300C」。「300M」の後を継ぐモデルは、まさにアメリカンなセダンだと、自動車ジャーナリストの森口将之は語る。そのワケは……。10年ぶりのFR
「クライスラー300C」は、「クロスファイア」に続く、メルセデスベンツのハードウェアを用いたクライスラー車の第2弾。といっても共用部分は前回よりすくなくなっていて、メーカー発表ではトランスミッション以降の駆動系と、サスペンションぐらいだ。ちなみに、どちらも「メルセデスベンツEクラス」からの流用である。
ただし、サスペンションにエアスプリングは導入されておらず、ATは7段式「7Gトロニック」ではない。だから厳密には“先代の”Eクラスといったほうがいいかもしれない。そういえばクロスファイアも、プラットフォームやエンジンは“旧型”「SLK」と共通だった。クライスラーファンにしてみれば、「お下がり」を使う事実に抵抗感もあるだろうが、メルセデスをプレミアムブランドとして維持していくためには、同世代コンポーネンツの共用は許されなかったのかもしれない。
プラットフォームは専用だ、とクライスラーはいう。サスペンションが共用なのにどうして? と疑問を持つかもしれないが、「プラットフォームの共用」とは、最初から複数の車種に使うことを前提で設計したものを指すのが一般的。今回の場合、旧型Eクラスがデビューしたときは、まだダイムラーベンツとクライスラーが合併する前だったから、新設計だと主張したのだろう。
ちなみにホイールベースは旧型Eクラスの2835mmはおろか、現行型の2855mmよりはるかに長く、3048mmに達する。そして駆動方式は、旧型にあたる「300M」の前輪駆動から後輪駆動になった。クライスラーブランドのセダンが後輪駆動を採用するのは、約10年ぶりのことだという。
300Cはまず、2003年4月のニューヨークショーでセダンが発表されたあと、9月のフランクフルトショーでは「ツーリング」と呼ばれるワゴンも登場した。ツーリングは欧州市場専用で、駆動方式は4WDのみになるという。日本へは今年2004年の秋以降にまず左ハンドル、来2005年夏に右ハンドルという順で、セダンが輸入されるとのことだ。
居場所を見つけた
300Cには、2.7、3.5リッターと2種類のV6も用意されるが、今回試乗したのは5.7リッターV8(340ps、53.6kgm)。その加速は力強く、かつ洗練されていた。タイトなつながりが特徴のメルセデス製5段ATのおかげもあって、発進直後から1840kgのボディをダイナミックにダッシュさせていく。
サウンドは昔のアメリカ車のようなドロドロしたものではなく、控えめなビートとともにスムーズに吹け上がっていく。このV8は、燃費を稼ぐために、シチュエーションに応じて、V8がV4になる。しかし、8気筒と4気筒の切り替えは、半日間の試乗ではまったくわからず、この点でも上質な印象を受けた。
乗り心地はEクラスと違っていた。サスペンションは共通だが、前後ともサブフレームを介してボディに取り付けられていることや、225/60R18という大径で厚みのあるタイヤのおかげで、メルセデスのような緻密な感じはなく、いい意味でルーズなフィーリングになっている。デザインと同じように、アメリカ車そのものといえる乗り味だった。
それでいて、ハンドリングのレベルはけっこう高い。ステアリングの切れ味はおっとりしているが、しなやかな動きと豊かなストロークを持つサスペンションは、信頼できる接地感をもたらしてくれる。前後のグリップバランスは良く、5.7リッターのトルクをフルに与えても、フロントが膨らんだりリアが滑ったりすることはめったにない。ビッグパワーの後輪駆動車ならではの楽しさを満喫できた。この点については、かつてのアメリカ車とは別次元にあった。
メルセデスベンツという最高レベルの素材を使える立場にありながら、クライスラーはそれに頼りすぎなかった。彼らなりのアレンジを行い、エンジンは自製にこだわって、品があり味もある21世紀のアメリカン・ビッグセダンをつくりあげた。ダイムラークライスラーが結成されて6年、クライスラーブランドは自分たちの居場所をしっかり見つけたようだ。300Cに乗ってそんな思いを抱いた。
(文=森口将之/写真=ダイムラークライスラー/2004年9月)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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