ダイハツ・ムーヴXリミテッド(FF/CVT)/ムーヴカスタムRS(FF/CVT)【試乗速報】
Thanks、Thanks、Thanks、Thanks、ソニカ! 2006.10.20 試乗記 ダイハツ・ムーヴXリミテッド(FF/CVT)/ムーヴカスタムRS(FF/CVT) ……128万1000円/161万1750円 4代目となる「ムーヴ/ムーヴカスタム」は、大きく変貌を遂げていた。ワンモーションフォルムとなり、外観を一新したのはすぐわかるが、それ以上に中身の変化には目を見張るものがあった。また広くなった
「4年ぶりにフルモデルチェンジを受けたニュームーヴでは、新しいプラットフォームを採用し、ホイールベースを従来比で30mmストレッチ。室内空間を幅で80mm拡大し『圧倒的な広々感を実現した』(広報資料)」。これは、ムーヴのフルモデルチェンジに関するwebCGの記事である。ただし、2002年、先代モデルがデビューした時のもの。「前後オーバーハングはほとんどなく、外観を見ただけで広さを追求した努力がうかがえる」とも書かれていて、スペース効率の追求はさすがに限界かと思えるが、新しいムーヴはさらに室内幅が50mm拡大され、ホイールベースに至ってはなんと100mmもストレッチされている。そして室内長は190mmも長くなって、2110mmとなった。軽自動車の規格いっぱいである全長×全幅は3395×1475mmと変わっていないのだから、いったいどうやってこれだけの空間をひねり出したのかとあきれてしまう。
「スズキ・ワゴンR」「ホンダ・ライフ」などと激しい販売合戦を繰り広げるトールワゴンのジャンルでは、空間の広さが最大のウリとなる。わずか4年前に採用したばかりのプラットフォームをあっさりと捨てて一新したのも、そんな至上課題があるからだ。また、常に月間1万台をはるかに超える販売を維持しているモデルだからできる業でもある。
見た目も、ずいぶん変わった。カクカクした実用一辺倒然としたスタイルから、カドのないワンモーションフォルムに一変した。サーフボード型のサイドウィンドウは、“爽快ツアラー”こと「ソニカ」を思わせる。縦長のリアコンビネーションランプの意匠は受け継がれたが、デザイン性は大幅にアップした。運転席からの眺めもまったく別物だ。メーターはセンターに設えられ、ゆるやかなアーチがインストゥルメントパネル全体の上部を覆う。センターコンソールのアルミ風パネルが少々安っぽいのは大目に見るとすれば、若返ってスタイリッシュな仕上がりになった。
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加速も燃費もCVTが有利
先に試乗したのは、ムーヴカスタムRSである。4灯式ヘッドランプは先代同様で、精悍さを前面に出したスタイリングだ。新色のアストラルブラックパールマイカに塗られた外板は、日の光が当たると緑色にキラキラ輝いて高級浅草海苔みたいだ。内装はブラック一色で、自発光式のメーターには回転計も備わる。ステアリングスイッチを装備したMOMO製革巻きステアリングホイールを奢った最上級モデルである。キーフリーシステムで鍵を用いずにドアの施錠・解錠が行えたりイグニッションノブをまわしてエンジン始動が行えたりすることは、軽といえどももう驚くべき要素ではないらしい。プッシュボタンスタートを可能にするオプションすらある。
ターボモデルの軽が速いことには今さら何とも思わないが、ムーヴカスタムは荒々しさを見せないところに好感が持てた。小さな排気量の中で最大のパフォーマンスを引き出そうとするから、どうしてもジェントルな振る舞いにはなりにくい。このクルマはいかにもパワフルというあざとさを見せず、軽やかなフィールをうまく演出している。ターボエンジン+CVTの組み合わせは、すでにソニカで経験している。さすがにあの低重心・軽量にはかなわないが、心地よい運転感覚が得られた。そして、ソニカの欠点であった高回転でのノイズの高まりが、相当に緩和されている。あまりに耳障りでエンジンをまわすのをためらうほどだったのに、ムーヴカスタムでは少なくとも不快に感じることはなかった。やはりユーザーから騒音に関しては不満が寄せられていて、さまざまな対策を講じたのだという。短期間で、よくここまで修正できたものだ。
標準車のムーヴは、空力付加物がない分、スタイルの変化がわかりやすい。端整さとかわいらしさがうまくバランスして、万人受けしそうなデザインだ。内装は黒とグレーのツートーンで、おとなしめのシートと合わせて地味な印象を受ける。インパネで冒険した分、少し抑えめにしたのだろう。カスタムと違ってムーヴに搭載されるのは58psのNAエンジンのみだ。ダイハツでは、このNAエンジンとCVTを組み合わせるのは初めてのことになる。トルクの薄い領域で、どうしてもエンジンの回転数を上げなくてはならず、リニアな加速感を演出できるかどうかが課題だったそうだ。
結論を言うと、懸念されるようなことはまったくなかった。さすがに低速ではもたつくものの、ちょっと飛ばし気味の場面ではターボモデルに遜色ないほどの走りが楽しめた。NAエンジン+4ATの「エッセ」に乗ったときには坂道で多少もどかしい思いをした記憶があるが、ムーヴは軽快に走るのだ。CVTの特性として、エンジン回転数とスピードとの関係をきめ細かく制御できるから、よいバランス点を見つけたのだろう。加速でも燃費でも、軽自動車に関する限り、すでにCVTの優位は確固たるものになっている。
「LS」もかくやの広さ
後席に座ると、あらためて広さをカラダで確認できる。シートもたっぷりとしていて、255mmのロングスライドを利して足元の空間は「LS」もかくやというレベルだ。前に少しずらせば、だらしないほどのリクライニング姿勢をとることもできる。この広々とした空間を手に入れてしまうと、もう狭いクルマに乗る気がしなくなるのはよくわかる。それに加えて、そこそこ真っ当な走りの実力が得られてしまうのだから、弱点を探すのが難しい。
もちろん、アラを探せばないわけではない。エンジン始動時には軽々しい音で興を削がれる。質感が上がったとはいうものの、収納部品等にコストダウンの結果があからさまに出てしまっているところもある。しかし、このサイズ、この価格で、ここまで自動車としての品質を確保しているのは立派なことであるに違いない。普通車不振の中で軽自動車の販売が拡大し、ますます競争が熾烈になっていることが良い結果をもたらしているのだ。
ダイハツでは、「コペン」に続き、走りの楽しさを謳うソニカを登場させた。もちろん本流とはいえず、月販は約3000台に過ぎない。しかし、ムーヴの走りを支えているのは、ソニカで培った経験なのだという。だとすれば、ソニカは主戦場であるトールワゴンの分野で戦うために大いに役立ったといえる。軽自動車が日本で今いちばん元気なジャンルであることが、ここにも表れているのだ。
(文=別冊単行本編集室・鈴木真人/写真=郡大二郎/2006年10月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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