トヨタ・クラウンマジェスタ Cタイプ“Fパッケージ” (FR/6AT)【ブリーフテスト】
トヨタ・クラウンマジェスタ Cタイプ“Fパッケージ” (FR/6AT) 2006.10.12 試乗記 ……731万8500円 総合評価……★★★★ 「セルシオ」がレクサスブランドへ移行することにより、トヨタのフラッグシップモデルとなる「クラウンマジェスタ」。マイナーチェンジを受けさらに装備を充実させた“Fパッケージ“に試乗する。楽しいドライバーズカー
いつのまにかトヨタのホームページから「セルシオ」のコーナーが消えたいま、トヨタブランドの頂点に君臨するのが「クラウンマジェスタ」だ。セルシオが抜けた穴を埋めるためにも、フラッグシップとしての存在感や高級感、そして、高いクオリティの走りがこれまで以上に要求されている。
そのマジェスタがマイナーチェンジを果たしたのを機に試乗。このクラスのクルマが、ドライバーズカーとショファードリブン(運転手付きのクルマ)のふたつの顔を持つことを承知のうえで、今回はドライバーズシートで大半の時間を過ごしたわけだが、運転して退屈どころか、ロングツーリングの運転を買って出たいと思うほど、楽しいドライバーズカーであることが確認できた。もちろん、後席の快適性も高く、前後バランスの優れた(!?)サルーンということができるだろう。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2004年7月5日にフルモデルチェンジされた「クラウン」シリーズのトップグレード。2006年から「セルシオ」がレクサスブランドに移行するのを受けて、トヨタのフラッグシップとなる。
“MJ”ことニューマジェスタは、2003年12月、エンジンやシャシーを一新した12代目「クラウン」のプラットフォームをベースに、従来型よりスポーティに振られた仕様。パワートレインはセルシオ由来の4.3リッターV8に、6段ATを搭載。よりゴージャスな内外装、充実した装備と、最新技術を用いた安全性能などを与えた。全車エアサスペンションを装着することも特徴である。
ハイテク装備もジマン。アクティブセーフティ電子デバイス「VDIM」(Vehicle Dynamics Integrated Management)は、車両の安定性を制御する「VSC」を、ABSや電動パワーステアリングなどと統合したシステムで、車両限界前から制御することで、安全性能と運動性能の両立を実現したという。さらに、30km/hまでの速度域において前車との車間を自動調節、一時停止まで行う「低速追従モード付きレーダークルーズコントロール」や、ミリ波レーダーで車間を測定し、衝突を事前に察知する「プリクラッシュセーフティシステム」に、CMOSカメラの情報を加えた画像フュージョン方式を採用した。
2006年7月3日にマイナーチェンジされ、フロントグリル&バンパー、リアコンビネーションランプのデザインを変更。ボディカラーには新色2種類が加わった。
インテリアでは、シート表皮と色、素材を新たにし、質感と高級感を高めた。装備面では、「G-BOOKアルファ」に対応したHDDナビゲーションシステムを標準装備。さらに、クリアランスソナーをステアリング感応式としたほか、オートエアコンに花粉除去モードを追加するなど、内容を充実させた。「Cタイプ」には、専用プレミアムレザーシート表皮や、6連奏DVD/CDチェンジャーなどが標準で備わる“Fパッケージ”が追加設定された。
(グレード概要)
基本的に「Aタイプ」「Cタイプ」の2グレード構成。Cタイプには、装備の充実した“Fパッケージ”がFRと4WD「i-Four」に設定される。いずれも、トヨタブランドのトップ車種とあって装備は充実する。
ベーシックなAタイプでもオートエアコンやオーディオなど、いわゆるアクセサリー類は標準装備。Cタイプはそれに加えて、電動リアサンシェード&手動式リアドアサンシェード、40/20/40リア分割パワーシート(リクライニング)、アクセサリーソケット・コントロールスイッチ付きリアセンターアームレスト、リアオートエアコンなどが標準で備わる。さらに、テスト車の“Fパッケージ“は、マイコン制御チルト&スライド電動ムーンルーフ、専用プレミアムレザーシート表皮、6連奏DVD/CDチェンジャーなども付与される。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
運転席のドアを開けて室内を覗くと、8インチの大型LCDを中心とした堂々たるセンタークラスターと、そこから広がるダークブラウンの本木目パネル、そしてブラックのレザートリムが落ち着いた雰囲気をつくり上げていた。欲をいえばダッシュボード上部やメーターナセルをレザーで覆ってくれたら、文句のつけようもなかったのに……。
メーターは白の照明が美しい「オプティトロンメーター」が装着され、大型アナログの速度計と回転計が見やすく配置されている。加えて、車速などを表示するヘッドアップディスプレイも標準で採用されるから、走行中はメーターパネルまでいちいち視線を移動させる必要はない。
試乗車にはオプションのナイトビューが搭載される。これは、夜間、必要なときにスイッチをオンにすれば、ヘッドアップディスプレイにかわって、前方の様子を知らせてくれる装置だ。夜の高速で使ってみたら、ロービームで目視できるよりもさらに遠い部分の白線や路側の反射板が確認できて、照明が少ない高速道路などでは十分にその利便性が確認できた。31万5000円とそれなりに値は張るが、「最近、夜目が利かなくなった」という人にはお勧めの装備といえる。
(前席)……★★★★
試乗車の“Fパッケージ”では、ソフトな感触の「プレミアムレザー」でシートが仕立てられている。サイドサポートはなだらかで、スポーティさこそないけれど、そのぶんこのクルマにふさわしいラクシュリーな印象を与えている。座り心地はソフトすぎることなく、適度に張りがあって、しっかりと背中を支えてくれるのがいい。ポジションは、スライド、リクライン、座面のリフト、そしてランバーサポートが電動。ただし、ランバーサポートの位置を上下できないのが惜しい。
(後席)……★★★
後輪駆動レイアウトを守り続けるクラウン マジェスタ、後席スペースはふたまわりほど小さな前輪駆動車と同レベルだが、それでも後輪駆動車としては、足元、膝のまわりともに十分なスペースが確保されている。適度にラウンドしたバックレストはセンターアームレスト部のスイッチによりリクラインが可能で、快適な姿勢を得ることができる。
乗り心地にフワフワした感じはなく、それでいてゴツゴツと路面のショックを伝えてくることもない。ただし、エアサスペンションを「SPORT」モードにすると路面の荒れを伝えるようになるので、後ろに人を乗せているときには注意が必要だ。
(荷室)……★★★
ラゲッジスペースもまた、後輪駆動レイアウトゆえに、ボディサイズから想像するほど広いとはいえないし、リアシートの折り畳み機構も備わらない。しかし、トランクルームの両サイドを可能なかぎりえぐることによって、最大170cmほどの幅を稼ぎ出し、ゴルフバッグなどの収納を容易にしている。トランクのヒンジが荷物に干渉しないのもうれしい点だ。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
スターターボタンを押してエンジンを目覚めさせると、あまりの静かさに驚いてしまった。うっかりすると、アイドリングしていることを忘れてしまいそうである。
その静かさは、走り出してもなお続く。よほど急ぐような場面でなければ、エンジンは2000rpm以下で事足りてしまうからだ。街なかでは1500rpmも回っていれば流れに乗ることができるし、少し加速したいときなどは軽くアクセルペダルを踏み増すだけで、必要なトルクが得られてしまう。その頼もしさは高速でも変わらず、100km/h、6速を1600rpmで巡航するときに聞こえてくるのはロードノイズばかりだ。
しかし、この4.3リッターV8は低回転だけが得意なエンジンではなく、アクセルペダルを深く踏み込んでやれば、フラットで豊かなトルクが高回転まで続き、ストレスのない加速を実現するのだ。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
クラウンマジェスタには標準で電子制御エアサスペンションが装着され、走行状況を予測して減衰力を制御する「AVS=Adaptive Variable Suspension System」が採用されている。
おかげで、街なかでは路面の荒れなどをほぼ完璧に遮断した快適さを示す一方、スピードが上がればボディの上下動を抑えたフラットな乗り心地が手に入る。
エアサスペンションはコンソールのスイッチで「SPORT」モードを選ぶことができる。確かにハードさが増し、高速のレーンチェンジの際にもロールの収まりが向上するが、「NORM」(ノーマル)モードでもダンピングは十分で、落ち着いた挙動を示すことから、案外「SPORT」の出番は少ないかもしれない。
ハンドリングに関しては、ワインディングロードを試したわけではないが、高速コーナーではボディサイズを感じさせない軽快な身のこなしを見せてくれた。ステアリングにクイックさはないものの、決して退屈なわけではなく、乗るほどに楽しみが伝わってくるタイプのクラウンマジェスタである。
(写真=荒川正幸)
【テストデータ】
報告者:生方聡
テスト日:2006年8月8日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2006年式
テスト車の走行距離:1905km
タイヤ:(前)215/55R17 93W(後)同じ(いずれもトーヨーPROXES J33)
オプション装備:プリクラッシュセーフティシステム(レーダー方式/28万3500円)/ナイトビュー(31万5000円)/低速追従モード付レーダークルーズコントロール(10万5000円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(7)
テスト距離:559km
使用燃料:61.2リッター
参考燃費:9.13km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】 2025.9.17 最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。
-
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】 2025.9.16 人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。
-
BMW M235 xDriveグランクーペ(4WD/7AT)【試乗記】 2025.9.15 フルモデルチェンジによってF74の開発コードを得た新型「BMW 2シリーズ グランクーペ」。ラインナップのなかでハイパフォーマンスモデルに位置づけられる「M235 xDrive」を郊外に連れ出し、アップデートされた第2世代の仕上がりと、その走りを確かめた。
-
スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.13 「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”【試乗記】 2025.9.12 レースやラリーで鍛えられた4WDスポーツ「トヨタGRヤリス」が、2025年モデルに進化。強化されたシャシーや新しいパワートレイン制御、新設定のエアロパーツは、その走りにどのような変化をもたらしたのか? クローズドコースで遠慮なく確かめた。
-
NEW
メルセデス・マイバッハS680エディションノーザンライツ
2025.9.19画像・写真2025年9月19日に国内での受注が始まった「メルセデス・マイバッハS680エディションノーザンライツ」は、販売台数5台限定、価格は5700万円という高級サルーン。その特別仕立ての外装・内装を写真で紹介する。 -
NEW
「マツダEZ-6」に「トヨタbZ3X」「日産N7」…… メイド・イン・チャイナの日本車は日本に来るのか?
2025.9.19デイリーコラム中国でふたたび攻勢に出る日本の自動車メーカーだが、「マツダEZ-6」に「トヨタbZ3X」「日産N7」と、その主役は開発、部品調達、製造のすべてが中国で行われる車種だ。驚きのコストパフォーマンスを誇るこれらのモデルが、日本に来ることはあるのだろうか? -
NEW
プジョー408 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2025.9.19試乗記プジョーのクーペSUV「408」に1.2リッター直3ターボエンジンを核とするマイルドハイブリッド車(MHEV)が追加された。ステランティスが搭載を推進する最新のパワーユニットと、スタイリッシュなフレンチクロスオーバーが織りなす走りを確かめた。 -
ロレンツォ視点の「IAAモビリティー2025」 ―未来と不安、ふたつミュンヘンにあり―
2025.9.18画像・写真欧州在住のコラムニスト、大矢アキオが、ドイツの自動車ショー「IAAモビリティー」を写真でリポート。注目の展示車両や盛況な会場内はもちろんのこと、会場の外にも、欧州の今を感じさせる興味深い景色が広がっていた。 -
第845回:「ノイエクラッセ」を名乗るだけある 新型「iX3」はBMWの歴史的転換点だ
2025.9.18エディターから一言BMWがドイツ国際モーターショー(IAA)で新型「iX3」を披露した。ざっくりといえば新型のSUVタイプの電気自動車だが、豪華なブースをしつらえたほか、関係者の鼻息も妙に荒い。BMWにとっての「ノイエクラッセ」の重要度とはいかほどのものなのだろうか。 -
建て替えから一転 ホンダの東京・八重洲への本社移転で旧・青山本社ビル跡地はどうなる?
2025.9.18デイリーコラム本田技研工業は東京・青山一丁目の本社ビル建て替え計画を変更し、東京・八重洲への本社移転を発表した。計画変更に至った背景と理由、そして多くのファンに親しまれた「Hondaウエルカムプラザ青山」の今後を考えてみた。