トヨタ・エスティマハイブリッドG 7人乗り(4WD/CVT)【ブリーフテスト】
トヨタ・エスティマハイブリッドG 7人乗り(4WD/CVT) 2006.07.19 試乗記 ……502万2360円 総合評価……★★★★ ミニバンの最大の弱点といえば燃費。その問題を克服すべくトヨタが放った「エスティマハイブリッド」が一新され2代目へと進化した。10・15モード燃費でリッター20kmを達成したという新型の乗り味は……。
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燃費を何とかしてくれ!
ミニバン人気が止まらない。ちょっと前なら「乗用車の基本は4ドア・セダン」という考えが主流だったが、それも今は昔。昨今ではミニバンがそのお株を完全に奪い取った状況だ。
なぜ日本でミニバンが人気者なのか? という話題はまた別の機会に譲るとして、こうしたカテゴリーのモデルが燃費面でだいぶ不利というのは言わずもがなだろう。
背が高く大柄なボディは、重量と空気抵抗を増やし、燃費の足を引っ張る。さらに空調をかければ当然セダンよりも多くのエネルギーを消費することになる。
ミニバンに限らず、日本車のカタログ記載の燃費は「新型車ほど優れた値をマークする」という傾向にあるが、しかしそんな数字は、「最高速(わずか)70km/h、完全暖気済みの状態でスタートし、全テスト時間の3割近くはアイドリング状態」という、10・15モード燃費なる“極端な状態”での成績に過ぎない。
さらにミニバンを好むユーザーは、電動ドアや凝ったAVシステムなど電力消費アイテムを次々と付け加えがちだ。まるで「ネンピなんかくそ食らえ」といわんばかりの使い方。ミニバンが流行する日本が、某大国の“SUV賛美”を笑ってはいられない。
そうした一方で、「ひどいネンピを何とかしてくれ!」と何とも都合の良い要求を口にするユーザーもおり、そんな消費者の“正義の味方”としてあらわれたのが、2000年デビューの「エスティマハイブリッド」だった。
「平成22年燃費基準値」の約2倍という省燃費のこのモデルは、同時に世界初の電気式4WDを実現させたことでも話題となった。今回、ベースとなった「エスティマ」がフルモデルチェンジされたのを受け、ハイブリッド仕様も一新された。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2006年1月に一新された3代目「エスティマ」ベースのハイブリッドバージョンとして同年6月にフルモデルチェンジ。「エスティマハイブリッド」としては2代目となる。
従来のハイブリッドシステム「THS-C」に替わり、「プリウス」や「ハリアー/クルーガーハイブリッド」などが積む新しい「THS II」を搭載。加えて排ガスの熱エネルギーをヒーターやエンジンの暖気に再利用する「排気熱再循環システム」などによりエネルギーロスを低減、2トン未満の車両では、10・15モード燃費「20km/リッター」とした。
動力性能だけでなく、ブレーキや駆動力、ステアリングを統合制御して車両安定性を保つ「VDIM」を全車に標準装備したのもポイントである。
エンジンは、出力が高められた2.4リッター直4で、150ps/6000rpmと19.4kgm/4000rpmを発生。フロントモーターの出力は13kWから105kW(143ps/4500rpm、27.5kgm/0-1500rpm)に、リアモーターは18kWから50kW(68ps/4610−5120rpm、13.3kgm/0−610rpm)と大幅にパワーアップされ、システム全体の出力は140kW(190ps)となった。
ガソリン車と差別化を図るべく、内外装に専用品を採用。エクステリアは、専用フロントグリル&バンパーや、クリアタイプのリアコンビネーションランプ、ハイブリッド専用エンブレムなどを装着、インテリアは、ステアリングホイールなどに木目調のアクセントなどを加えた。メーターは走行系、空調系、電機系のエネルギーメーターが備わるハイブリッド専用タイプとした。
(グレード概要)
グレードはベーシックな「X」と上級「G」の2種類で、それぞれに7人乗りと8人乗りを設定、7人乗りには福祉車両「サイドアップシート装着車」が用意される。
テスト車「G」は、シート表皮が「X」のダブルラッセルからアルカンターラに、ステアリングホイールとシフトレバーは、同じくウレタンから本革&シルバー木目調になる。また、LEDダウンライト、ドアカーテシランプ、クルーズコントロールが標準装備されるのもポイント。サードシートの6:4分割・電動床下格納機能付きシートや、クリアランスソナー、レーダークルーズコントロールはオプション設定となる。
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【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
ミニバンが“普通な存在”となったように、「割と普通だな」と感じさせるのが新型エスティマハイブリッドのインテリアだ。メーターパネルはトヨタが“ハイブリッド・カラー”(?)として好んで用いるブルー色を基調とした表示を踏襲。しかし初代モデルで採用された、「夜明けの星空をイメージした」という、システムONで徐々に輝度を増すような凝った細工はもう見られない。
一方で、駆動/回生のエネルギーフローに加え、空調及びそのほかのアイテムの電力消費を個別にセグメント表示するエネルギー・メーターは新しい。もはやイメージ戦略よりもより実利が優先ということか。ハイブリッドが当たり前になりつつあるのは時代の流れだが、段々と感動が薄れていくのはちょっと寂しい。
ちなみに今回のテスト車は、サードシートの電動格納機能やムーンルーフなど60万円以上のオプションを装着。ちょっと気張るとたちまちオプション価格が片手では留まらなくなるのもミニバンの特徴である。
(前席)……★★★★
ドライバーとしての視点から論じる限り、このポジションでの居心地は“普通のエスティマ”よりも上といえる。「自転車が積めない!」と初代モデルで不評だった駆動用バッテリーパックが、これまでのサードシート下から前席左右シート間へと移動してきたが、幸か不幸かそれが高くて立派なセンターコンソールとしての役割を果たし、通常のミニバンでは望み得ない重厚感と、使い勝手の良いアームレストとしての機能をもたらしてくれるからだ。
その一方で、1〜2列目シート間はもちろん、前席左右間でのウォークスルー機能を奪うという、ミニバンの常識ではあるまじき(!?)結果にもつながった。ミニバンとしては有り得ないレイアウトが、ミニバンを超越した固有の快適性をもたらした、ということか。
(2列目シート)……★★
800mmもスライドするというセカンドシートが、「アレンジによっては旅客機のファーストクラス並みのスペースを実現する」という点には納得できても、実は新型エスティマのこのポジションには大きなウィークポイントが潜んでいることを最近発見した。
それは、特に20km/hにも満たない微低速の前後で、まるでボディの動きが増幅されてシートを低周波で揺らすかのような強い振動を感じるのだ。一人で試乗会に臨んだ際には(当然)気付かなかったこの現象は、どうやら開発陣の間でもすでに認識がある模様。なかでも、そんな傾向がもっとも強くあらわれる8人乗り仕様の左側シートには、すでに一部フレームの仕様変更が施されていると聞く。
(3列目シート)……★★★
サードシートは、床下への格納性を意識してか、シートバック高が低いなど、デザイン的にもやはり“末席”の感は否めず。もちろん乗降も1、2列目ほど楽々とはいかないが、それでも大人が長時間寛ぐに足るスペースは確保されている。
(荷室)……★★★
3列すべてのシートを使うとラゲッジスペースは極小……となりがちなミニバンにあって、新型エスティマハイブリッドのパッケージングはなかなか優秀。特に、スペアタイヤを廃して修理剤対応としたことにより、サードシート後方のフロア下に深さが30cm近いサブトランクを用意できた点がきいている。
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【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
高膨張比のミラーサイクル(吸気弁遅閉じによるアトキンソンサイクル)を用いた2.4リッター4気筒エンジンにハイブリッドシステムを組み合わせたパワーユニットを搭載、後輪をモーター駆動する電気式4WDを採用……というアウトラインは従来型同様。
新しいのは、トランスミッションをプーリー式CVTとしていた従来型とは異なり、フロントユニットに「プリウス」などと同様の「THS II」を採用、さらにリダクションギアでフロントモーターの小型化/高回転化を図るなどリファインを施した点などだ。
そうしたことを知らなくても、スムーズな走り出しの感覚には誰もが感激するはず。特に、エンジン始動時のショックが驚異的に小さいというのは、最近ヨーロッパで何台かの試作ハイブリッド車に乗る機会を得て、改めて感心させられたことだった。
モーターだけで走る“電気自動車モード”でスタートを切る。アクセル開度の小さな日常的な走行領域での静粛性の高さは特筆レベルといえる。だが、アクセル開度が大きくなるとエンジン回転数が一気に高まり、その“落差”ゆえにノイズが目立つのはハイブリッド車であるがゆえの辛い点だろう。
「ハリアーハイブリッド」や「レクサスGS450h」ほどのパンチ力はないが、「0-100km/hは従来型よりも1.5秒以上速い10.8秒」ということからも、加速力に不満はない。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
すべての面で従来型の走りを凌駕、と事前に耳にしていたので期待度が高かったからか、この項目では正直特別な感慨を抱くことはなかった。
路面への当たりは優しいし静粛性も基本的には高いので、うっかりすると騙されそうになる(?)が、パッケージング重量にしておよそ70kgというバッテリーを高い位置に積むこともあってか、その走り味が全般的にどこか浮き足立っている感覚なのだ。
良好な路面ではフラット感もまずまずのフットワークも、大きなうねりに遭遇したり段差を乗り越えると、予想よりもずっと大きなノイズと振動を味わわされたりしてしまうのは、重量増のハンディが大きくきいてしまっているのだろう。
各種の運動性能制御デバイスを統合的にコントロールする「VDIM」を標準装備するが、その前にベース部分でもっと地に足が着いた、安心できる走りの感覚がほしい。
と、そんな注文をココでしても「そういうのは国内専用車ではあまり売りにならないので」と言われてしまうのかもしれないが……。
(写真=郡大二郎)
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【テストデータ】
報告者:河村康彦
テスト日:2006年7月10日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2006年式
テスト車の走行距離:2035km
タイヤ:(前)215/55R17 (後)同じ(いずれもヨコハマ DNA dB)
オプション装備:大型ムーンルーフ(8万9250円)/音声案内クリアランスソナー(4万2000円)/サードシート6:4分割床下電動格納機能付シート(13万7550円)/SRSサイドエアバッグ(前席)&SRSニーエアバッグ(運転席)&SRSカーテンシールドエアバッグ (8万1900円)/HDDナビゲーションシステム<オーディオ>エスティマハイブリッド・パノラミックスーパーライブサウンドシステム&後席9型ワイドディスプレイ(17万2200円)/ガラスアンテナ(1万500円)/G-BOOK ALPHA専用DCM&エンジンイモビライザー+オートアラーム(6万8250円)/ETC(1万4700円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4):高速道路(4):山岳路(2)
テスト距離:342.5km
使用燃料:31リッター
参考燃費:11km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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