トヨタ・エスティマハイブリッド アエラス スマート(4WD/CVT)
貴族のミニバン 2016.09.01 試乗記 マイナーチェンジが施された、トヨタのミニバン「エスティマ」に試乗。登場から11年目を迎えたロングセラーモデルは、どのようにリファインされたのか。走りや乗り心地を、ハイブリッドモデルで確かめた。縁の切れない長寿モデル
トヨタという会社は辛抱強くて情に厚い。登場から11年目のエスティマを消滅させるどころか、ビッグマイナーチェンジを行うとは!
もちろんその裏には、冷徹な経営判断があるんだろう。販売が落ちたとはいっても、直近でも月に1000台くらい売れていた。10年間も売っていれば保有台数は膨大だ。それを切り捨てるなんてお客さまに失礼だしあり得ない。新型を開発するのは厳しいが、ビッグマイナーならもう一度需要を掘り起こせる。そういうことだろう。
と言いつつ、世の中にはよくできたクルマがゴロゴロあるのだから、個人的には「いまさらエスティマの新車を買うなんてあり得ない」とも思う。
実を言えばこの私、20年以上前、初代エスティマの「ルシーダ」を買った経験があるのだが、あれはこれまでで一番つまらないクルマだった。初代エスティマは専門家に絶賛されたが、私としては生涯最大の失敗だった。
なにしろ身のこなしがあまりにもトロくてどんくさくて燃費も悪かった。便利だと思った回転対座シートで家人はクルマ酔いした。あれ以来、「もうミニバンは二度と買うまい」と天に誓ったほどである。そんな私がエスティマの試乗記を書いていいのだろうか。申し訳ありません。
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ほかとは違う上質感
一切期待せず、10年前の登場時以来約10年ぶりに乗ったエスティマは、意外に悪くなかった。というより意外に良かった。
まず、10年以上フルモデルチェンジをしていない時点で、いい意味で生活感が薄れ、浮世離れした雰囲気がある。いわば貴族である。
マイナーチェンジの内容は主に内外装の質感アップで、ヘッドライト(最新型のLED)、ボンネット、フロントグリル、フロントフェンダーなどを変更したほか、外板色にトヨタのミニバンで初のツートーン仕様を新設定。内装も品よくまとめられている。また、衝突回避支援パッケージ「Toyota Safety Sense C」を全車標準としている。
「それだけ!?」という気がしないでもないが、これがまた欲の小さい貴族的なビッグマイナーチェンジにも感じるのである。
顔つきは最近のトヨタらしいキーンルックで、微妙に浮いている気がしないでもないが、フォルム全体としては”天才たまご”の系譜を継ぐだけのことはあり、現代のコテコテ系ミニバンと対比させると圧倒的にノーブル。インテリアにも落ち着いた上質さがある。
エスティマは2年前に、いわゆる「シロガネーゼ」層をターゲットにした特別仕様車を出しているが、今度のエスティマの狙いもそこに近く、「コテコテ感を嫌う上品なミニバン愛好者層」というニッチなのだろう。
“身のこなし”には進化が見える
試乗したのはハイブリッドモデル。ガソリンモデルより100万円も高く、総額約500万円という高級車である。つまりこれをお買い上げになる方は、10年前登場のモデルに500万円も出すわけで、その事実だけで貴族的。「お金じゃないよ、心だよ」という、根っからのエスティマファンという気がしてくる。
基本的なメカニズムに変更はない。つまり10年前と同じだ。
2.4リッターガソリンエンジンに前後モーターを組み合わせた4WD(E-Four)システムは、約2トンのボディーに対してそれほど力持ちとはいえない。ハイブリッドユニットは基本的にキャリーオーバーで、2.4リッター4気筒エンジンは全開時に相変わらず耳障りなうなりを発し、燃費は高速巡航でせいぜい12km/リッターと目覚ましくない。10年前に試乗した時は、「とにかく重い!」という印象だったが、動力性能は何も変わっていない。
が今回は、加減速での重さは相変わらずながら、ハンドリングが軽やかで、身のこなしが軽快に感じた。10年前の登場時の記憶はもはや薄れかかっているが、この点は間違いなく改良されている。もちろん私が乗っていたルシーダとは比べるべくもなし。
ちょっと昔の高級車のよう
基本が古い分ボディーの剛性感は高いとはいえず、路面からの突き上げやコーナリングでブルブルワナワナする面もある。そんな時は「やっぱり古いなー」と思うのだが、しかしステア特性がビックリするほどニュートラルで、ロールも思いのほか少なめなので、結果的にGの変化が割合少ない。つまり、「ボディー緩めのちょっと昔の高級車っぽい」のである。
2列目シートに座っていても快適性は高い。たまごの殻の中の適度な包まれ感とともに、運転席と助手席の間のセンターコンソール下に内蔵されたバイブリッドバッテリーを中心に素直に旋回する感覚が心地よい。3列目はまあそれなりですが、大人が普通に座れるスペースにはなっている。
今回のマイナーチェンジに伴って、フロントにはパフォーマンスダンパーが装着され、足まわりも改良されているが、つまりそういう小さな積み重ねで、エスティマの乗り味は随分と良くなっている。
長年エスティマを愛用しているノーブル志向のエスティマファンが、「10年たっちゃったけど、またエスティマがいいな」と思った場合、このビッグマイナーチェンジモデルは、その期待にしっかり応えるのではないか。地味ながらなかなか上品な一部改良なのでありました。
(文=清水草一/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
トヨタ・エスティマハイブリッド アエラス スマート
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4820×1810×1760mm
ホイールベース:2950mm
車重:1990kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
最高出力:150ps(110kW)/6000rpm
最大トルク:19.4kgm(190Nm)/4000rpm
フロントモーター最高出力:143ps(105kW)
フロントモーター最大トルク:27.5kgm(270Nm)
リアモーター最高出力:68ps(50kW)
リアモーター最大トルク:13.3kgm(130Nm)
タイヤ:(前)215/60R17 96H /(後)215/60R17 96H(トーヨー・トランパスJ48)
燃費:18.0km/リッター(JC08モード)
価格:453万2073円/テスト車=542万0697円
オプション装備:ボディーカラー<ブラック×アイスチタニウムマイカメタリック>+215/60R17 96Hスチールラジアルタイヤ<17×7J切削光輝アルミホイール>&センターオーナメント ブラック塗装(5万4000円)/フロントパフォーマンスタンパー(3万2400円)/6:4分割床下格納機能付きシート<電動>(8万6400円)/パワーバックドア<イージークローザー挟み込み防止機能付き>(5万9400円)/クリアランスソナー&バックソナー(4万3200円)/SRSサイドエアバッグ<フロントシート>&SRSニーエアバッグ<運転席>&SRSカーテンシールドエアバッグ<フロントシート・セカンドシート・サードシート>(8万1000円)/盗難防止システム<国土交通省認可品>イモビライザー+オートアラーム(5400円) ※以下、販売店オプション T-Connectナビ9インチモデル DCMパッケージ(28万4580円)/マルチビューバックガイドモニター(3万0240円)/11型後席ディスプレイ(9万7200円)/ITSスポット対応DSRCユニット<ビルトインタイプ>・ナビ連動タイプ<ETC・VICS機能付き>(3万2724円)/フロアマット<ラグジュアリータイプ>エントランスマット付き(8万2080円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:4245km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:185.9km
使用燃料:15.4リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:12.1km/リッター(満タン法)/12.7km/リッター(車載燃費計計測値)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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