ポルシェ・ケイマンS(MR/6MT)【ブリーフテスト】
ポルシェ・ケイマンS(MR/6MT) 2006.07.08 試乗記 ……822.0万円 総合評価……★★★★★ 完全なクーペボディによる高い剛性と、利便性の高いリアラゲッジスペースをもつ“ボクスタークーペ”こと「ケイマンS」。「911」とあえて(?)差別化されたことで、逆に得られた恩恵があるという。“いい汗”かける、カジュアルな本格派
もし「ケイマンS」が、「ボクスター」にルーフを付けた、単なる(というのも変だが)非常によくできたミドシップスポーツであったなら、「911」というあまりにも眩い光に対して、存在感を確立するのは難しかったはずだ。しかし、そこに大容量のラゲッジスペースとテールゲートを、おそらくはボディ剛性や重量バランスなど、スポーツカーの資質という面ではマイナスであるにもかかわらずあえて加えることで、ケイマンSは911にはない、イイ意味で軽い存在感や日常性を手に入れた。
エンジン性能も旋回性も、パフォーマンスの面ではケイマンSは、911に対して明確に差がつけられている。しかし、それはスーパースポーツとしてどんどん進化した結果、逆に気軽に手を出しにくくなってきた911との差別化を考えれば、むしろプラス。ギリギリ使い切れそうな、まさにちょうどよいパワーと癖のない操縦性も相まって、ワインディングロードで多くの人が冷や汗ではなく“いい汗”をかけそうな絶妙の走りっぷりを実現している。
911の持つ“社会的成功の証”のような記号性や、圧倒的な高性能ぶりにはちょっと退いてしまうが、かといってボクスターのようなオープンの必要はない。もっと気軽な、けれど本格的なポルシェが欲しいという人に、ケイマンSはぴたりとハマる。ある意味でかつての「924」や「944」のような“カジュアル・ポルシェ”の現代版と呼ぶべき1台である。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2005年5月23日、独ポルシェAGが発表した“ボクスタークーペ”とウワサされてきたニューモデルが「ケイマンS」。正式には同年9月のフランクフルトショーでお披露目、日本には2005年秋に導入された。
2シーターミドシップクーペのケイマンSは、ボクスター同様、ボディ前後にラゲッジスペースを備えるが、リアコンパートメントに大きなハッチゲートを備えたことにより、荷室容量は前後合わせて410リッターを確保。ポルシェは「2シータースポーツに真の機能性とエレガントなフォルムを両立した」と謳う。
エンジンは、ボクスターSより200cc大きい3.4リッター水平対向6気筒を搭載(07年モデルから、ボクスターSも同じエンジンを積む)。295psの最高出力と、34.7kgmの最大トルクを発生する。トランスミッションは6MT、または5AT「ティプトロニックS」が用意される。
(グレード概要)
2006年7月現在、ケイマンのラインナップは3.4リッターモデル「ケイマンS」のみ。ただし、2006年5月、独ポルシェAGは2.7リッターモデル「ケイマン」の追加を発表した。
ポルシェの常(?)か、素のケイマンSの装備は、手動調節式のスポーツシートが標準、エアコンはマニュアル式、オーディオはCD付きラジオなど、比較的簡素なもの。一方、膨大な数のオプションが用意されており、それぞれを組み合わせれば“ほぼ自分だけの仕様”にすることも可能だ。
テスト車はメタリックペイント、バイキセノンヘッドライト、レザースポーツシート、フルオートエアコンが装着され、オプションの合計額は45万円である。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
ドライバー正面に配置された三眼のメーターは、中央に回転計、左に速度計を置き、さらに回転計のなかにデジタル速度計を備える。よって普段はほぼ正面だけ見ていればいい。運転に余計な神経を遣わせない姿勢は、スポーツカーとしてというよりクルマとして正しい。ステアリングホイールのリムは今どきにしては細身で革の巻き加減もキツめ。9時15分のところに余計な凸凹もないから、掌で接地状況を感じ、繊細に操作するには非常に具合がいい。唯一、残念なのは空調パネルが操作しにくいこと。集中して運転したいクルマである。温度や風量、あるいは内気/外気の切り替えはボタンではなく手探りで操作できるダイヤルやレバーのほうがありがたい。
(前席)……★★★★
試乗車はオプションの「レザースポーツシート」が装着されていたが、ポジション調整はリクライニングのみ電動となる。スライドやハイト調整は手動式だが、それぞれの動きが非常にスムーズなこともあって、上質感はまったく損なわれることはない。
ポジションは基本的に低く足を投げ出したスポーツカーらしいものだが、調整代がたっぷりあるので、アジャストは容易。ただし、ステアリングコラムの調整レバーのリターンスプリングはいくらなんでも強過ぎる。剛性確保という理由はわかるが、これではいつか爪を折ってしまいそうだ。シートクッションは硬めで、表皮がピンと張っていることもあって、乗り込んでしばらくは今ひとつ身体にフィットしない感じがするが、走り出してしまえば、いつしかそんなことは忘れてしまえるくらい、心地よく馴染む。サイドサポートはワインディングロードやサーキットでは物足りなさを覚えそうだが、普段使いなら十分だろう。
(荷室)……★★★★★
容量の大きなラゲッジスペースは、ケイマンSの大きな魅力のひとつだ。フロント150リッター、リア260リッターの計410リッターという数値は、一般的な中型セダンをも上まわる。フロントは間口こそ小さめだが深さがあり、かなり使いでがある。専用のスーツケースも用意されるとは、いかにもポルシェらしい。一方、リアのスペースは天地には浅いが、大きく開くハッチゲートのおかげで、こちらも使い勝手は悪くない。重い荷物を積むことだけ考えると、見切り線がもう少し低めなら……と言いたくなるところだが、スポーツカーのボディにそこまで求めるべきではないだろう。さらに、エンジン上部のネットが張ってある部分までフルに使えば、小サイズのゴルフバッグを積むこともできそうだ。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
いかにも水平対向エンジンらしい、非常に滑らかな吹け上がりが心地よいエンジンは、全域どこにも重たげなところがなく、軽々としたレスポンス。印象的なのは、実用域のトルクが際立って充実していることだ。911のそれと較べて、ほんのわずかウェットな手応えを返す6速MTの軽く確実な操作感と、重さもストロークも適切で扱いやすいクラッチとの相乗効果で、MTでも扱いにくさとは無縁。それどころか下手なMTの国産スポーティセダンより、はるかに乗りやすいとすらいえる。これならATとのマッチングにも心配はなさそうだ。
唯一、低中速の力強さや、その抜けの良い咆哮から期待するほどには高回転域でパワーの炸裂感がないのは、911との差別化を考えてパワーを絞っているからでは……というのは考え過ぎだろうか?
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★★
「PASM」の装着されていない試乗車の乗り心地は装着車より硬め。しかし、無駄に突き上げてくるわけではなく姿勢を常にフラットに保とうとする、スポーツカーとして心地よく感じる種類の硬さである。より適正値に近い前後重量バランスと長いホイールベースのおかげでピッチング方向の余計な動きが少なく、高速巡航時の快適性に優れるのもケイマンSの美点だ。
一方、ワインディングロードなどではPASM装着車より挙動変化は大きめと感じられる。こちらのほうが車高がわずかに高く、またスプリングもソフトなのかもしれない。しかし、それらの動きは強力なダンパーによってしっかりコントロールされているため動きは掴みやすく、自信をもって限界に近づいていける。その抜群の走らせやすさには、軽快感などの余計な演出を挟まず、徹頭徹尾リニアな反応を示すステアリングやスロットルなどの操作系も効いているに違いない。
ハンドリング自体もリアエンジンの911に較べれば癖はない。911の鋭利なターンインと絶大なトラクションが奏でる走りの濃厚な個性を思うと、淡白に思える部分はある。しかし、よりフレンドリーで限界に近づきやすい特性は、それはそれで大いに魅力的なのも確かだ。
(写真=荒川正幸)
【テストデータ】
報告者:島下泰久
テスト日:2006年6月22日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2006年型
テスト車の走行距離:14588km
タイヤ:(前)235/40R18(後)265/40R18(いずれもミシュラン・パイロットスポーツ)
オプション装備:アークティックシルバーメタリックボディペイント(14万5000円)/バイキセノンヘッドライト(16万5000円)/レザースポーツシート(6万円)/フルオートエアコン(8万円)
形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(7)
テスト距離:278.7km
使用燃料:44.7リッター
参考燃費:6.23km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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