フォード・モンデオST220(FF/6MT)【試乗記】
ホンモノ度の高い“稀有な存在” 2006.07.07 試乗記 フォード・モンデオST220(FF/6MT) ……450.0万円 2006年からカタログモデルとなった、「チームRS」が手がけたフォードのスポーティスペシャル「ST」シリーズ。ミドルサルーン「モンデオST220」は、派手さこそないが、随所にプロの業が感じられるクルマだった。「モンデオ」の1グレードではない
限定たったの20台――2005年の初頭になんとも弱気(?)な計画で販売がスタートした日本における「モンデオST220」だが、2006年には正式なカタログモデルに“昇格”した。
欧州フォードのエンジニア集団で、ハイパフォーマンスなロードカーの開発を手掛けてきた「SVE(Special Vehicle Engineering)」が、コンペティションモデルの製作を担当してきた「フォード・レーシング」と統合され、2003年に「チームRS」ができた。
ST=Sport Technologiesは、このチームRSがノーマルのベース車をチューニングしスポーティに仕立てたスペシャルバージョンだ。「上質な乗り心地と高い運動性能を融合したグランドツアラー」を謳うモンデオST220は、彼の地では2002年デビューゆえにSVE時代のものとなるが、同じ系譜のモデルであることはいうまでもない。
「フィエスタ」「フォーカス」にも設定されるSTは、それぞれの車種の1グレードというよりは、「フォードのひとつのブランド」として確立されることを目指しているようだ。
フォードのブランド力アップを熱望する日本のインポーターが、このモデルを限定バージョンから常設モデルへと切り換え、2代目フォーカスSTも早々に導入するなど、このところSTシリーズに熱心であるのは、きっとそうした理由もあるのだろう。
随所に見られる「プロの仕事」
たんなるモンデオの1グレードではないということは、いかにも気合いを込めて開発されたことがわかるチューニングの内容を見れば納得できる。
まずエンジンでは、可動パーツのバランス取りと吸排気抵抗の徹底的な低減を実施。バルブリフト量を大きく採るためにカムプロファイルもリファインされ、大型ラジエーターやエンジンオイル・クーラーも装備された。
サスペンションは、225/40R18サイズのタイヤのポテンシャルを活かすべく、スプリングレートやダンパー減衰力などを徹底的にチューニング。フロントサスペンションのナックルアームやAアーム、ストラットのマウント位置変更なども行ったというから、こちらもたんに「強化した」などというフレーズでは済まされない。
内外装のドレスアップも怠らない。実際、このクルマをひと目見れば、多くの人がイメージするであろう“フォード車”のレベルを大きく凌ぐルックスであることに気づくはずだ。
とはいえ、エクステリアには派手なエアロパーツ類が与えられているわけではないし、インテリアも追加の補助メーターが並ぶなどといった、いわゆるスパルタンな雰囲気は控えめ。だが、これみよがしな演出を避けたそんなスタンスが、むしろ“ホンモノ度”の高さを増幅させている。
控えめだけど、ハイレベル
今回、モンデオST220におよそ1年半ぶりに乗った。
ドライビングポジションを決めると、まずは視界の広さが好印象である。昨今、セダンでもショートノーズのプロポーションを演じようとAピラーが妙に前出しされたクルマが少なくないが、そんなモデルに限って運転視界に大きく割り込んでくる死角が気になるもの。モンデオの“正統的”なセダン・ルックは、機能面でも意味のあるスグレモノなのだ。
走り出すと、フリクションの取れたフットワークが生み出す、想像よりも快適な乗り味。大きなうねり路面を通過すると一瞬ダンピングが甘いようにも錯覚するが、実はボディの動きはよくコントロールされたもので、無用な挙動はしっかりと抑えられている。
剛性感は高いのに弾性感も強めで、軽快感と重厚感が同居しているような……そんなテイストだ。
荒れた路面で、ときにわずかなキックバックを感じる場面もあるが、ステアリングを切れば切ったぶんだけ、正確にノーズが動く素直なハンドリングの感覚はこのクルマの動的性能上の美点だ。ただし、回転落ちがやや鈍くサウンドも控えめ、エモーショナルなテイストにはやや欠けるエンジンのフィーリングは、“グランドツアラー”への適性を意識し過ぎた、ということか。
しっかり踏めば確実に効くものの、以前街なかで「うわっ、効かない!」とびっくりさせられたブレーキだが、今回のテスト車ではそんな違和感もなくなっていた。1年前の国内試乗会で、英国からやって来たエンジニア氏にこのブレーキの点を指摘すると、「そうした認識はある」と語っていたから、その後ブースター特性を変更したのでは、と思われる。
一方、1年前に装着を訴えたフットレストは未設定のままだった。フォードは、なぜかフットレストの必要性をなかなか認めない(?)メーカーなのだ。フォーカスST、フィエスタSTも、左足の置き場にちょっと困る。
ナビゲーションシステムもなしで450.0万円という価格には、正直「あと30万円ほど安ければ……」という思いも残る。が、いかにも大人のための本格スポーツセダンという内容を具現したこのモデルは、それはそれで“稀有な存在”なのである。
(文=河村康彦/写真=峰昌宏/2006年7月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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