フォード・モンデオST220(6MT)【試乗記】
涼しい顔したすごいヤツ 2005.04.21 試乗記 フォード・モンデオST220(6MT) ……430.5万円 ヨーロッパ・フォードの旗艦「モンデオ」に高性能シリーズ「ST」が追加された。ハイパフォーマンスセダン「モンデオST220」に、自動車ジャーナリストの森口将之が試乗した。「ST」はシブイ
ヨーロッパフォードのスポーツモデル、STシリーズで気に入っているのは、たたずまいの渋さだ。
たとえばこのモンデオST220。シックなブルーをまとったボディは、ベースモデルそのままの端正な3ボックス4ドアセダンだ。ホイールが18インチと大径なので、ハイパフォーマンス・バージョンだとわかるけれど、巨大なエアダムやリアウイングでこれ見よがしにアピールすることはない。
ネーミングも渋い。GTなどのありふれた称号ではなく、スポーツ・テクノロジーズの頭文字をとってST。組み合わせる数字は排気量ではなく、最高出力を示す。わかる人にはわかるというこの名づけかたが、カッコいい。
インテリアは、スポーツセダンとして見ると地味な感じもするけれど、この控えめな演出がいいという人は少なくないはず。それでいてシルバーのメーターやパネルが、クールな雰囲気をほのかにプラスしている。おとなっぽい。
レカロ製のフロントシートは、ひとことでいえばヨーロッパサイズ。身長170cmの典型的日本人にとっては、クッションは前後に長くてひざの裏に圧迫感があるし、腰はしっかりホールドしてくれるのだが、上半身はルーズフィットだったりする。ほかのレカロと同じように、足長で肩幅の広い人を基準にしているようだ。
リズムの合った加速感
3リッターV6エンジンは、いまとなっては懐かし系ともいえる、低くしっとりした鼓動を響かせアイドリングを始めた。足応えはあるが、つながりがわかりやすいクラッチペダルを踏み、確実なタッチの6速MTのシフトレバーをローにセレクトして走り出す。ここでも低周波の落ち着いたサウンドはそのまま。吹け上がりはなめらかだが、その中にV6ならではのビートがほのかにブレンドされていて、それが心地よく響いてくる。
約1.5トンのボディに3リッターだから、低回転のトルクは十分。それを生かして、高めのギアをホールドしたまま、アクセルペダルだけでスピードをコントロールするのも、わけはない。けれども、そのまま回していくと、4000rpmを越えたあたりで吹け上がりが鋭くなり、音もピッチがそろってくる。
だから気分が乗っているときは、このあたりを使って走りたくなる。そこで右足を深く踏み込めば、鋭すぎず鈍すぎずのレスポンスのあとに、力強いダッシュが手に入る。
ひとつひとつの反応があまりにも自然なので、最初はわからないけれど、気がつくと乗り手の気持ちは確実に高揚している。鋭いレスポンスやカン高いサウンドといった、わかりやすい演出はないけれど、人間のリズムに合った加速感だから、素直に心地よいと感じることができるのだろう。
文句なく楽しい
油圧式のパワーステアリングは、速度や舵角で重さや鋭さが変わったりせず、ホッとするような素直な手応えを返してきてくれる。そのステアリングを操って、ワインディングロードに挑むと、ノーズに重いV6を積んでいるとは思えないほど、切ったとおりに曲がっていくのに驚かされる。そして立ち上がりで は、フロントタイヤを暴れさせることなく、226psを前2輪できっちり路面に伝え、きれいに加速していく。
3リッターV6の前輪駆動という、運動性能からいえばきびしい状況にあるクルマとは思えないほど、ST220は涼しい顔をして、当たり前のようにコーナーをこなしていった。しかも乗り心地だって悪くない。硬めだがストロークの長い足が、あらゆるショックをしっとり受け止めてくれる。自分はもしかして、すごいクルマに乗っているのではないか。そんな気持ちが、しだいに盛り上がっていった。
ひとつだけ気になったのはブレーキで、もう少しカチッとしたタッチが欲しいと思った。でもこの感触にさえ慣れれば、絶対的な制動力はあるので、安心してペースを上げることができた。
プレミアムブランドのおもてなしはないし、デザインやサウンドでときめかせてくれるわけでもない。でもモンデオST220は、文句なく楽しい。エンジンもシャシーも、あらゆる部分が自然に動き、高次元の仕事をやってのける。しかも電子制御に頼りすぎず、基本のメカニズムを磨き上げて高性能をものにしている。そんな、いまでは少数派になりつつある正統派のクルマ作りが、ストレートな感動となって押し寄せてくる。
だだっ広い野原で大の字になったときの心地よさ。近海モノの魚を刺身でいただくときのうれしさ。おとなびたたたずまいの内側は、そんな飾り気のないドライビングプレジャーであふれていた。こういうクルマを1台でも多く、少しでも長く残してほしいと、心から願った。
(文=森口将之/写真=峰昌宏/2005年4月)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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