スバル・ステラL(FF/CVT)/ステラカスタムRS(FF/CVT)【試乗速報】
「遠回り」ゆえのアドバンテージ 2006.06.27 試乗記 スバル・ステラL(FF/CVT)/ステラカスタムRS(FF/CVT) ……110万4600円/152万2500円 軽自動車のスタンダードとなったハイトワゴンが、ようやくスバルからも登場した。「ワゴンR」「ムーヴ」「ライフ」と強力なライバルが居並ぶ中で、「ステラ/ステラカスタム」が激戦区で戦うための武器とはいかなるものか。
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見慣れた風景?
「ステラカスタムRS」の運転席に収まってみると、初めて乗るクルマのような気がしなかった。見慣れた風景なのだ。メーターパネルの造形が、NAVIの長期リポートでいつも乗っている「R1」と同じである。それどころかインストゥルメントパネル全体のデザインが、R1そのままと言っていい。エアコンの操作スイッチや吹き出し口の形も、ATのセレクターの位置も一緒だから、乗っていてまったく違和感がない。
それもそのはず、ステラ/ステラカスタムはそのかなりの部分がR1/R2の共用パーツで構成されている。デザイン志向で勝負をかけたR1/R2が不発に終わり、スバルの軽自動車販売はこのところ低迷している。その理由はスバルもよく承知していて、要するにいちばんの売れ筋であるハイトワゴンがラインナップされていないことが問題なのだ。売れるかどうかわからないスタイリッシュな軽自動車をなぜか優先してしまったのだけれど、遅ればせながらそれを土台にして販売を見込めそうなモデルを急いで開発してきたわけである。多額の費用をかけることはできないから、共用パーツが増えるのは当然のことだ。
「スズキ・ワゴンR」に始まるスペース効率を追求したモデルが軽自動車の中で主流となって久しい。ダイハツから「ムーヴ」、ホンダからは「ライフ」が発売されていて、「タント」や「ゼスト」など同一プラットフォームで趣向を変えたものも加わっている激戦区だ。バリエーションが出尽くした感もある中で、ステラがユーザーに訴えかけるポイントは何なのか。室内空間の広さはそろそろ限界に近づいているから、そこで単純に勝負するのは避け、適度な空間の中で手の届く範囲での使い勝手を追求したのだという。「たのしい関係空間」「みんなが安心して乗れる」などと、スバルらしからぬフレーズが並ぶ、と言ったら失礼だろうか。しかし、つい技術方面に暴走してしまうイメージがあることを考えると、ちょっと変身したような印象を受ける。
使い勝手に気を遣ったシート
軽の枠の中でスペースを確保することが至上命題なのだから、外観の工夫には限界がある。特徴としては、大きく張り出したヘッドランプの形状、視界のよさそうな大きなグラスエリアが挙げられるだろう。前後ホイールアーチのくっきりとしたラインも印象的だ。シンプルなデザインのステラ、スポーティな表情を狙ったステラカスタムと、2種類のエクステリアデザインを用意している。インテリアもそれぞれ分かれていて、ステラはアイボリー、ステラカスタムはブラックの内装となっている。
R1の素晴らしい座り心地に慣れている身には、ベンチタイプのシートはちょっと物足りない。ただ、運転席の後ろに車検証を入れるスペースを作ったり、助手席を水平に倒す機構を備えたりと、使い勝手には気を遣っている。後席は座面長が足りないように思えたが、これもこのクラスの軽では致し方ない。当然ながら室内高をたっぷりとった空間は広々としていて、R1とは別世界の居心地である。
ステラカスタムRSはワゴンRならばターボ版の「RR」にあたる元気っぷりがウリのモデルである。スバルの軽自動車は他メーカーとは違って3気筒ではなく4気筒のエンジンを持つことがアドバンテージだが、それにスーパーチャージャーを付けたパワーユニットは想像以上に活発だ。アクセルを踏み込むと、いきなり始動からスムーズに加速して交通の流れをリードできる。スーパーチャージャー+CVTの組み合わせの恩恵が十分に実感される場面である。ただし、経験上そのパワーを目一杯に使う走り方をしていると軽らしからぬガソリン消費にあきれる結果となることが多いので、抑制が必要だろう。また、スーパーチャージャーとエンジンが奏でるオーケストラの音量もかなりのもので、勇ましい気分が満ちあふれる。
加速時と巡航時では別のクルマ
NAエンジンのステラだって、動力性能はたいしたものだ。ガタイは大きいが重量ではR1/R2と大差はなく、街中では十分なスピードを得ている。高速道路でも、100キロ巡航は静かなものである。ただし、加速に移ると途端に騒音レベルは跳ね上がるのだ。街中でも高速でも、アクセルペダルを一定にしている限りでは静粛性に高得点を与えられる。加速時と巡航時では、別のクルマのようである。もちろん、このクルマの用途を考えるならば、必要な性能が実現されていると言うことができる。ブレーキもハンドリングも、実用という領域で考えるならば、破綻を見つけることはできなかった。
乗り心地のよさも、ステラの取り柄のひとつだ。バタバタ、ドタドタという安っぽい動きは、よく抑えられていると思う。ユーザーの声の中に、特に後席の乗り心地を向上させることを求めるものが多かったのだという。子供やお年寄りが乗るのは主に後席だから当然の要望なわけだが、そういう声に耳を傾けたことにスバルの変化がある。ドアの形状を決めるのに、チャイルドシートを後席に取り付ける際にお母さんが作業しやすいことを考慮したという話もあった。インプレッサやレガシィとは用途が違うのだから、これは正しい姿勢である。
普通に考えれば、今までこの種のクルマを出さなかったことは、失策なのかもしれない。事実、大きなマーケットを逃してしまっていたのだ。ステラ/ステラカスタムは、発売後1週間で5438台を受注したのだそうだ。好調な出だしである。お客さんの中には、「プレオ」や「ヴィヴィオ」からの買い替えが多いらしい。スバルファンの中には、浮気せずにハイトワゴンの登場を待っていた人がたくさんいたのだ。
確かに、遅きに失した感はある。しかし、寄り道したゆえのアドバンテージだってある。R1/R2で贅沢な軽自動車作りを経験したことは、ステラのクオリティに好影響を及ぼしているように見える。評価の高い内装デザインも、そのまま流用することができたのだ。ちょっと遠回りだったけど、その間いい勉強をしていた、とポジティブに受け止めよう。
(文=別冊単行本編集室・鈴木真人/写真=峰昌宏/2006年6月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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