フォード・フォーカスST(FF/6MT)【試乗記】
“派手”なオールラウンド・ハイパフォーマー 2006.05.09 試乗記 フォード・フォーカスST(FF/6MT) ……325.0万円 欧州系フォードのハイパフォーマーが冠する名前「ST」。新たに5気筒ターボを積んだ新型「フォーカスST」は、見た目こそハデハデだが、中身は足もエンジンもキッチリつくられたクルマだという。愛好家たちの注目の的
2005年8月にフルモデルチェンジされた「フォード・フォーカス」に、高性能版「ST」が追加された。WRCでの活躍もあり、ホットハッチたるSTの登場は、この手のスポーティモデルを熱望する愛好家たちの注目の的である。
新型フォーカスSTのエンジンは、2.5リッター5気筒DOHCターボにより、最高出力225ps/6000rpm、最大トルクは32.6kgm/1600-4000rpmを発生する。「デュラテックST」エンジンと命名され、“新開発”といわれているが、同じグループ内のボルボが使う直5エンジンを基本にして、フォード流にチューンされていることは容易に想像されるところだ。組み合わされるギアボックスは6段MTのみ。標準車より15mm車高を下げたサスペンションを始め、ブレーキも当然強化されている。ラリーカーと異なり、駆動方式はFFである。
外観上の特徴は、WRカーと同じメッシュ仕上げのグリルが与えられ、ナマズ髭タイプのチンスポイラーにはフォグランプも備わる。リアにも専用のルーフスポイラーを追加し、足元の18インチアルミホイールには225/40R18サイズのタイヤを履く。カラーはオレンジとブルーの2つの特別色が用意されているが、いずれもかなり派手だ。
巧みな“ジオメトリーチューン”
わが国にもこの手の高性能車はいくつか存在する。まあつまり、主にスバルと三菱だが、それらは250ps超のターボエンジンを備えるだけでなく、フルタイム4WDで武装などしているから、スペックを見ただけでは驚かない。
一方、輸入車に目を向けると、フォーカスSTほど“ホット”な車種は、「ルノー・メガーヌRS」や「プジョー 206RC」など、いずれもFFで、4WDはそれほど多くない。デビュー時期を考えて、直接のライバルと目される同種の輸入車のなかには、オンデマンドタイプの4WDと組み合わせた例もあるとはいえ、操縦安定性に貢献しないチューンならばいっそ無いほうがマシだ。フォーカスSTのFFのほうが潔いと思う。
試乗会には特設コースが用意されており、簡単なスラロームも試せるようになっていた。1.5mもある車高の高さがフォーカスのデザイン上の特徴でもあるが、WRCで見受けられるサスペンションで持ち上げたラリーカー独特の車高の高さとは異なり、ロードバージョンのボディの厚みは見た目の重心高の高さゆえか、右へ左へ振り回すには極端に不利に思える。
しかし走り去る姿勢は美しく安定しているのだ。「ロールセンターを十二分に高く設定しているんだろうな……」とは予想するものの、自分で試してみるまでは信じられなかった。乗ってみてようやく、その通りであることを確信できたのだ。スロットルのオン/オフによる姿勢変化が少ないことや、後内輪がリフトする気配がないことも、フォーカスSTが優れた足まわりの持ち主であることを示しているといえよう。
ロールセンターを高めることを、すぐジャッキング(簡単にいうと、踏ん張っている側の足がクルマを持ち上げるような現象)に結び付ける設計者は数多いが、ジャッキングを引き起こすメカニズムはトーインに因るものだ。ポジティブキャンバー化を原因とする考えを改めなければならないことを、このクルマに乗れば知ることになるだろう。サスペンションジオメトリーで、よい足まわりを引き出した好例、ともいえそうだ。
エンジンのキモは中低回転域
速度制限のない特設コースでは、エンジンについてどうしても、フルスロットルで加速したときの高回転域に着目しがちだ。新たに搭載された5気筒は、4気筒よりも多気筒化による滑らかさゆえかのんびり回る感覚となる。
このエンジンは最大トルク発生回転の幅を見てもわかるように、むしろ高回転域でのトルクは低下しており、実用回転域でこそ真価を発揮する。よって一般道での試乗により、その扱い易さとともに、比較的クロースしたレシオを持つ6段トランスミッションを駆使して、早め早めにシフトアップしていったほうが、元気さを味わうことができるとわかった。
高トルク、ハイパワー車ではあるが、FFであることに不満もない。競技などでタイムを争うような使い方ならともかく、一般道で楽しむのならば、パワーが4輪に分散されていくらあっても足りない感覚を味わうよりも、2駆で全パワーをうまく引き出して走るほうが楽しいと思うからだ。
外観の派手さに「コレは……」と引いてしまう人もいるだろうが、ちょっと目をつぶれば、フォーカスSTはトルキーなエンジンのおかげもあり、年配者の日常のアシとしても役にたつ。さらに、昔とった杵柄を味わうもよし、レカロシートは疲れないから長距離もよし。先に述べたジオメトリーチューンにより、スプリングを固める愚を犯していないから乗り心地もよく、タウンユースでも快適なハイパフォーマンスカーである。
(文=笹目二朗/写真=高橋信宏/2006年5月)

笹目 二朗
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