アストンマーティンDB9(6AT)【海外試乗記(後編)】
優しいハイパフォーマー(後編) 2004.03.29 試乗記 アストンマーティンDB9(6AT) 450psの12気筒と、すばらしい6段AT。『webCG』コンテンツエディターのアオキが、南仏はニース北の山道を、アストンマーティン「DB9」でドライブ、ドライブ!
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ビューティフル
今回のプレス試乗会には、南仏ニースから、北の山岳路と高速道路を組み合わせた、約330kmのコースが用意された。基点となったホテルを出ると、さっそく細い曲がりくねった道が待っていた。左手側は断崖、右手は白っぽく乾燥した岩山である。空が青い。
可変吸気、可変バルブタイミングといった機構をもたないコンベンショナルなパワープラントは、「12シリンダーのスムーズネス」を強調するより、5.9リッターの排気量を納得させるよう、力強く、野太く回る。
450psのピークパワーは、500ps級モンスターが輩出する昨今のパワーウォーズのなかでは突出したスペックではないけれど、1800kgボディを、停止状態からわずか5.1秒で100km/hまで運ぶパフォーマンスに、なんの不満があろう。ちなみに、カタログ上の最高速度は300km/hと記される。
ギアチェンジの“滑らかさ”と“切れのよさ”を鮮やかに使いわける6段ATは「SPORT」モードを備え、トンネルコンソール後部のボタンで切り替えられる。すると、ギアは完全にホールドされ、レブリミットに達しても自動ではシフトアップしなくなる。
エンジンをフルスケール使って、ステアリングホイール奥にあるパドルでギアを上げていくと、手の込んだ、立体的なアルミのリングで囲まれたタコメーターの針は、5000rpmより下に落ちることがない。悍馬は足を休めない。目眩をおぼえる加速。
とはいえ、フォード“デュラテック”V6と同じ、89.0×79.5mmのボア×ストロークをもつV12は、刹那的に高回転域をむさぼるより、大排気量からくる太いトルクを右足で感じながら、スポーティに、しかし余裕をもって走るのに適している、と思った。実際、フォーカム12気筒からは、1500rpmも回せば最大トルクの85%が供給されるのだ。
一方、脳天を突き抜けるほどエクサイティングなのが排気音。ステアリングホイールを握っていてはできないが、外から聞くと、特にすばらしい。競技車両と聞き間違うばかりに、レーシィなサウンド。撮影中のDB9が同じ道を行き来するのを、道の脇のパーキングスペースで見ながら、カメラカーを運転してくれているスコットランド人と目を合わせて、ニンマリする。
「ビューティフル!」
彼が、自分の耳を指さして笑った。
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ナチュラル
アストンマーティンDB9の美質は、気負うことなくハイパフォーマンスを堪能でき、のんびり走っていても上質なドライブフィールを味わえることだ。前235/40ZR19、後275/35ZR19というスポーティなタイヤ(ブリヂストン・ポテンザRE050A)を履きながら、荒れた舗装の山道でも、乗り心地はけっして悪くない。
ホテルのロビーに置かれたカットモデル−−進行方向向かって右半分のボディパネルほかがはずされ構造材が見える−−を前に、エンジニアの方から説明を受けたせいだろうか。DB9のアルミボディは、路面からの入力をどこかしんなり跳ね返し、突き上げの先を鈍くする……ように感じた。
アストンマーティンDB9のサスペンションは、4輪ダブルウィッシュボーン。アーム類はもちろんアルミニウム。リアはブッシュを介して吊られるが、フロントはフロントセクションの構造材に直づけされる。路面のうねりにみごとに追従して破綻することがない。ジャガー「XKシリーズ」とシャシーを共有したDB7でときに感じられた、リアの微妙な“ゆらぎ”は、DB9でまったく姿を消した。ソリッドな足まわりだ。
全長4.7mの新型アストンは、絶対的にはコンパクトとはいいかねるけれど、トランスアクスルの恩恵で重量バランスは抜群。細かい“曲がり”もしなやかにこなす。速度感応式の油圧パワーステアリングは、ときどき「人工的に重い」不自然さを感じさせるが、ハンドリングそのものはまったくナチュラルで、意識せずともハイペースで丘を上り、山を駆け下ることができる。タイヤを鳴らしたり、挙動の乱れを楽しむ……といったことをしたいなら、サーキットに持ち込んだ方が無難だ。
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21世紀の1959年
予想通り、というか、おそらく日本では実力の半分も出せないに違いない高速性能の一端を確認したのち、ホテルに戻った。
アストンマーティンDB9、成功するんじゃないでしょうか。控えめに派手だし、運転は苦労しらず。そのうえ高性能が弾けすぎないから、2000万円級の高級スポーツカーを求める懐の暖かいご尽のアシとして、最適。フェラーリのオルタナティブとして、十二分のポテンシャルをもつ、とリポーターは確信する。
ゲイドンに本社を移した新生アストンマーティンは、2004年度の計画として、市販がスタートしたDB9を2200台、ヴァンキッシュほかとあわせ、約2500台の販売を計上する。翌2005年には、妹分V8モデルの加勢を得て、なんと! イタリアのライバルを上まわる5000台を売ろうというのだ。1993年には、“年”産43台にまで落ち込んだアストンマーティンが、である。
勢いにのる(予定の)アストンマーティンは、DB9をベースにしたモータースポーツへの参戦もアナウンス済み。赤い跳ね馬に一泡吹かせた1959年を、21世紀に再現しようというわけ。もちろん一泡吹かせるのは、エグゾーストノート響くレースコース上でだけ、ではないはずだ。
(文=webCGアオキ/写真=野間智(IMC)/2004年3月)
・アストンマーティンDB9(6AT)【海外試乗記(前編)】
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000015023.html
・アストンマーティンDB9(6AT)【海外試乗記(中編)】
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000015024.html

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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