ポルシェ・ケイマンS(MR/6MT)【試乗記】
911と比べなくてもいいではないか 2006.03.22 試乗記 ポルシェ・ケイマンS(MR/6MT) ……1063万5000円 ポルシェ・ボクスターのクーペ版「ケイマンS」。剛性感を高めたボディのミドに、3.4リッターエンジンを積んだニューモデルの魅力に迫る。スポーツカー以外の何物でもない
走らせたときの高揚感、あるいは五感に訴えてくるドライビングの悦び。スポーツカーの魅力はこれに尽きる。単なる移動手段でもなければ、動く応接間でもない。走ることを第一に考えて作られたクルマがスポーツカーである。ポルシェ・ケイマンはまさにこれ。スポーツカー以外の何物でもない。
言うまでもなくケイマンはボクスターのクーペ版である。ボクスターのソフトトップをフィクストヘッドに替えたクルマだ。だからフロント周りのデザインもコクピットの雰囲気も、ミドシップ・レイアウトを採る基本的なメカニズムもボクスターから受け継いでいる。しかし、クーペボディに生まれ変わったことで、ボクスターよりもずっとスポーツカー濃度が高まっている。
ボディ・サイズに対して小さめの室内は、2シーター・スポーツカーならではの適度なタイト感に溢れている。すっぽりと体を包んでくれるシートに身を委ね、ギアを1速に送り込む。クルマがすっと動き出した瞬間、とは言わないが、荒れた道を少しばかり走れば、ボディの剛性感の高さ、駆動系の硬質感がドライバーに伝わってきた。さすがだなと思う。右足の微妙な動きに応じてリニアにシャープに吹け上がる3.4リッター・エンジンは、ポルシェ・フラット6独特のサウンドを奏で、さらにスロットルを開けると1380kgのボディを猛然とダッシュさせる。サウンドを楽しむ間もなく、気が付けば非日常的なスピード域に達してしまう。911よりもパワーが控えめだとはいえ、十二分に速い。“ゼロヨン”13秒台というメーカー発表値を納得させられるだけの加速性能に思わず頬が緩むほどだ。
ミドシップの真骨頂
ワインディングロードに足を踏み入れてみれば、ケイマンの楽しさは決定的なものになる。クイックで正確なステアリングをほんのわずか切り込むだけで、コーナーを面白いように駆け抜けられる。狙ったラインを忠実にトレースしながらクルマがひらりひらりと動いてくれるのだ。これぞミドシップ・スポーツカーの真骨頂。ステアリングの応答性のよさと素晴らしい回頭性のよさに脱帽である。操っているというより、クルマのほうがドライバーに歩み寄ってくれているような、心なしか運転がうまくなったと錯覚させられるほどの小気味よい動きを示す。確かなストッピングパワーを備えていることも山坂を飛ばすときの強い味方で、安心して速いコーナリングを味わえる。出来のいいスポーツセダンよりも確実に2割ほど速い。6MTを駆使しながらの気持ちいいドライビングに快哉を叫びたくなる。
鋭いフットワークと同時に乗り心地に優れることもケイマンの美点である。かっちりとしたボディと絶妙なサスペンション・セッティングのコンビネーションのなせるわざだ。サスペンションは基本的に硬めとはいえ、動きはしなやかなのだ。ミドシップなのにリアに有効な広さの荷室が確保されていることもケイマンの嬉しいところ。純スポーツカーでありながら、実用的側面への配慮も怠りない。テールゲートを備えるから日常での使い勝手もとてもよい。
それでは兄貴分の911と比較したらどうか。たしかに911ほどの限界性能の高さは期待できないだろう。コーナーを攻め込んでいったときの征服感に似た充実感は得られないかもしれない。しかし、私にはリラックスした気分で飛ばせるケイマンの性格が好ましく感じられる。なにも911と比べなくてもいいではないかとも思うのだ。ケイマンはたしかに911とは違うが、どこからみても完成度の高いスポーツカーであることに変わりないのだから。
(文=二玄社自動車部門編集局長 阪和明/写真=峰昌宏/2006年3月)

阪 和明
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