メルセデス・ベンツS500ロング(FR/7AT)【試乗記】
安楽にして、走りの歓びも備える高速クルーザー 2006.03.09 試乗記 メルセデス・ベンツS500ロング(FR/7AT) ……1482万6000円 7年ぶりのフルモデルチェンジを受けた、メルセデス・ベンツのフラッグシップ「Sクラス」。そのトップグレードで、ロングホイールベースの「S500ロング」に試乗した。後席でマッサージを受けるのもいいが、ステアリングホイールを握っても……。注目のインテリア
さすが発表前からすでに1500台もの受注を集めたというくらいで、メルセデス・ベンツの新型Sクラスは瞬く間に街で見かける機会が増えた。しかし、最初に写真を見たときに感じたほどはエグい格好に感じないのは、目が慣れたからばかりではない気がする。たしかに先代と較べると存在感は強まっているのだが、かといってそれは威圧感を強めているのとイコールではない、そんな風に思うのだ。確かにディテールはアグレッシブ。けれど、やたらに押し出すばかりでなく線や面には繊細さも宿る。マイバッハにしてもそうだが、どこかに和の匂いを感じるのは気のせいではないと思う。
インテリアも大きな変化を遂げた。目立っているのはステアリングコラムへと移されたATセレクターと、そこに代わって置かれたダイヤル式コントローラーで操作するコマンドシステムと呼ばれるナビやオーディオ、エアコンなどの集中操作系。さらに必要な情報を適宜スーパーインポーズするため、アナログ計に見えて実は液晶モニターのメーターパネルや、夜になるとトリムの隙間から妖しく光が漏れるイルミネーションなど、ほかにも注目すべき箇所が満載である。
そんなわけで一瞬はたじろぐものの、そこはさすがメルセデスというべきか、基本操作はマニュアルなど見なくてもすぐに習得でき、少なくとも走り出すことにすら戸惑うということは無い。しかし、注文をつけたい箇所は残念ながら少なくないのも事実だ。
コマンドシステムの操作に問題あり
コマンドシステムのメニューや階層構造、そしてコントローラーのクリック設定は、基本的に目で見ながら操作した時のわかりやすさを重視している。これはこれでとっつきやすくもあり悪くない。問題は、逆に慣れてもBMWのiDriveのように、ブラインドタッチで操作するのは難しいということである。
たとえば、大の渋滞嫌いな僕はラジオの交通情報を頻繁に聞くのだが、その時に画面を見ながらダイヤルを押し下げてクリックして回して……というのはとても鬱陶しい。音声認識機能を発達させるか、よく使う機能はすぐ呼び出せるようカスタマイズできるようにするかしてほしいところ。じゃなければ、コントローラーのすぐ脇にあるエアサスペンションのモード切り替えスイッチと入れ替えてくれないだろうか。どうせ滅多に使わないのだから。
滅多に使わないと言いきれるのは、基本のC(コンフォート)モードでも、走りに十分満足でき、S(スポーツ)や、ましてやM(マニュアル)モードを選びたくなることがほとんど無いからだ。乗り心地はとてもソフトだが、闇雲に柔らかく落ち着かないわけではなく、豊かなストロークの中を泳ぐ速度は完璧にコントロールされているという印象。乗り味はとてもしっとりとして落ち着いている。大きなうねりを突破した時などには、エアサスペンション特有の突っ張り感が顔を出すものの、まあ目くじらを立てるほどのことはない。
ただ、ステアリングの中立付近は、ここまで敏感でなくてもいいかなとは思う。画面を見ないと操作できないコマンドシステムを操作しながら運転していると、進路が微妙に泳いでしまうのだ。視線を多少そらそうとも、掌に伝わる手応えだけで直進が明瞭にわかってこそメルセデスなのではないだろうか。
意思を裏切らない動き
しかし、その点を除けば高速クルーザーとしての資質は、やはりさすがである。運転はこれでいいのかと思うくらい安楽なのだが、とはいえそれは眠りを誘う退屈なものではない。疲れず安楽なのは、加減速にしても曲がりにしても、クルマの動きがとにかくこちらの意思を裏切らないから。ライトウェイトスポーツの一体感とは意味が違うが、たとえ長距離でも、新幹線ではなく自分でステアリングを握り走らせていこうと思わせるだけの走りの歓びは、そこに確かにある。
それはひとつには新しい4バルブDOHCの5.5リッターV8エンジンが、思いのほかスポーティな咆哮を聞かせてくれるからでもある。が、もっと大きな意味で、やはり日本人の感覚からすれば相当な距離でも、移動手段のファーストプライオリティがクルマにある国で生まれたクルマに、あらかじめ備わった資質なのだろう。
もっとも、後席に関していえば話は別である。心地良いホールド感のシートに座り、ヨーロッパの立派な体格のVIPの背中をも揉みほぐさんと設えられた強力なマッサージ機能をオンにすれば、夢の世界へと誘われるまでは、まさにあっという間なのだ。
(文=島下泰久/写真=高橋信宏/2006年3月)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
フィアット500トリノ ハイブリッド(FF/6MT)【試乗記】 2026.10.13 電気自動車からエンジン搭載車へと華麗に変身! 日本では珍しい、4代目「フィアット500」のマイルドハイブリッドモデルに試乗。1リッターの自然吸気エンジンを6段MTで駆るイタリアンコンパクトは、今のクルマが忘れてしまった楽しさに満ちていた。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.10.12 ボルボの電気自動車(BEV)「ES90」のトップモデル「ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」を駆り、東京から初秋の新潟へ。往復700kmを超えるロングドライブで分かった新型5ドアハッチバックモデルの実力と、BEVで気になる充電環境のリアルな今を報告する。
-
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.10.8 フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。
-
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】 2026.10.7 新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。
-
スバル・レヴォーグ レイバック プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)【試乗記】 2026.10.6 「スバル・レヴォーグ レイバック」にストロングハイブリッド搭載モデルが登場。高効率なパワーユニットが積まれたのはもちろんのこと、既存の純エンジン車とはデザインやボディーサイズも違っているというから興味深い。上位グレードの「プレミアムS:HEV EX」を試す。
-
NEW
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
NEW
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
NEW
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。 -
スズキの未来を徹底検証! 技術戦略説明会から“10年先のスズキの姿”を夢想する
2026.10.16デイリーコラム年間生産500万台で、Dセグメントまでカバーする巨大メーカーに!? スズキが発表した「10年先を見据えた技術戦略2026」を徹底検証。技術開発に製品開発、インドを核としたグローバル戦略などの中身を通して、「10年先のスズキの姿」を予想した。 -
賢い選択 ――キャデラック「LYRIQ」フラットプランのすゝめ――
2026.10.15投資家も太鼓判! 「キャデラック・リリック」×フラットプランという最適解<AD>クルマが変わり、時代も変われば“持ち方”だって変化する? お金のプロである投資家が、「キャデラック・リリック」の残価保証型リースを勧める理由とは? 夢の「2台持ち」をかなえる、最新電気自動車の賢い選び方を考えた。 -
間もなく正式発表 ミツオカの新型2シータースポーツカー「LA1」を予測する
2026.10.15デイリーコラム光岡自動車が2026年11月26日に正式発表を予定しているアメリカンスタイルの新型2シータースポーツカー「LA1」。現在公開されているLA1の画像とティーザーサイトに掲載された情報から、その特徴を分析する。


































