キャディラックXLR(5AT)【海外試乗記】
キャディラックの挑戦 2004.01.24 試乗記 キャディラックXLR(5AT) 新しいキャディラック・デザイン「アート&サイエンス」を色濃く反映したボディに、4.6リッターV8「ノーススター」エンジンを積む、2座オープン「XLR」。アメリカで試乗した、『webCG』エグゼクティブディレクターの大川悠は、従来のアメリカン・スポーツを凌駕する性能に驚いた。“キャディラック・ルネッサンス”の尖兵
ヨーロッパ製のライバルと真っ向から比べて判断するか、それともまったく新しいアメリカ製スポーツカーとして、独自の価値を求めるか。それによって、「キャディラックXLR」の評価は違ってくる。実際に乗った印象は、予想以上によかった。だが、日本にもってきて、同価格帯のヨーロッパ車とまともに比較すると、1150.0万円という正札がついたこのクルマは、どの程度のマーケットが期待できるだろうか?
日本導入に先駆けて、アメリカ・ロスアンゼルスの南で新世代キャディラックのトップモデル「XLR」に試乗した後、かなり複雑な気持ちが残った。
見方によれば、そういう気持ちを抱かせるほど、このクルマはよくできていたということでもある。従来のアメリカ製スポーツカーなら、それを単独で評価はしても、あえて国際的なライバルと比較することはなかった。だがXLRは、国際的に通用するだけの内容を持って登場しただけに、かえって辛い競争に巻き込まれつつある。それが率直な感想である。
実は、乗った距離も時間も限られている。フリーウェイと主要一般道は、それぞれ20マイル(約32km)程度。速度制限も厳しいから、最高出力324psを誇るこのクルマの本質までわかったわけではない。それでも、このクルマが相当の力作であることを理解するには十分な体験だった。
周知のように、XLRは1999年のデトロイトショーで発表されたコンセプトカー「エボーク」の市販モデルであり、エボークに始まった“キャディラック・ルネッサンス”の中枢を担うクルマでもある。狙うは、アメリカとして初の“ウルトラ・ラクシュリー・ロードスター市場”。アメリカで聞いた説明によれば、「メルセデスベンツSL500」「ジャガーXK8」そして「レクサスSC」(ソアラ)がライバルだという。彼の地では7万ドル(約750万円)からの価格だが、実際はオプションがついて9万ドル(約963万円)程度になるだろう。つまり、やはり1000万円クラスで戦わなければならないのである。
高い剛性のボディ構造
XLRでフリーウェイを走り始めたとき、真っ先に感心したのはボディ剛性がしっかりしているがゆえの乗り心地と、スタビリティの高さだった。XLRは、GM得意のハイドロフォーム(水圧成形)スティールによるペリメーターを主体に、アルミのバルクヘッド、樹脂のフロアなどから形成。強靱なわりには車重1670kgと、比較的軽い2シーター・オープンのボディを持つ。
さすがにGMもこの製法に慣れたのだろうか、軽いわりにはピシッとした剛性感が見事に実現されていた。ボディ外皮がブルブルしたり、上と下で別な動きをするような、昔のアメリカン・スポーツとはまったく異なるソリッド感を得た。
同時に、乗り心地そのものは比較的ソフト、というかフラットだ。これは、GMが誇るアクティブダンパー「マグネッティク・コントロール」に大きく助けられている。通称「MRダンパー」といわれるこれは、ダンパーの作動を電気信号として読みとり、それを磁気に変換。ダンパーオイル内部の鉄粉を繊維状に並べることで、オイルの抵抗、つまり減衰力を変化させるというものだ。1000分の1秒で対応できる、つまり、一瞬でレートを高めることができるから、通常ではかなりソフトなセッティングが可能になる。
高い剛性は、安定したハンドリングにも貢献する。ステアロングシステムは「マグナステア」と呼ばれる、磁気を用いた速度感応可変式。低速ではやや手応えがありすぎて、人工的な味わいを感じる。とはいえ、すくなくとも一般道を流す限りにおいて、XLRはライバルに劣らぬスタビリティと、よりソフトな乗り心地を与える。
誰でも扱えるグランツーリズモ
キャディラック独自の4.6リッターツインカム「ノーススターV8」は、RWD化に備えて第2世代に発展し、可変バルブタイミング機構などが与えられた。ヨーロッパのライバルほどスポーティではないが、きちんとトルクをフィードするタイプ。324psの最高出力を発する6400rpmまでスムーズにまわるものの、高回転で特にエキサイティングというわけではない。
パワートレインレイアウトは前後重量配分に配慮して、5段ATがリアディファレンシャルと結合した、トランスアクスル方式を採用。ATのレスポンスはよく、さらに、自己学習プログラムが入っている。ドライビングスタイルによって、ブレーキング後にリフトしても下のギアをキープしたり、コーナー脱出時には無用なシフトアップをしないなど、かなりインテリジェントだった。
ソフトな乗り心地、扱いやすいエンジン特性などを備えたXLRの最大の魅力は、誰でも気楽に使えるグランツーリスモという性格にあるだろう。ヨーロッパのライバルより乗りやすいと思われる場合もあった。約30秒で、完全自動で閉まるトップを上げれば、非常に快適なクーペである。ブルガリ・デザインのメーターも見やすいし、四隅の視界もとてもいい。シートは相当に快適である。
唯一困るのは、自動開閉トップをあまりにも丁寧につくったため、シート背後のスペースがまったく無いこと。グローブボックスや、センタートンネルの小物入れなどはあるが、事実上室内には何も置けない。シート後ろには風切りプレートを設置する場所もないから、オープンで走るとかなり後ろから風を巻き込んだ。
だが、全体をみれば、キャディラック初のラクシュリー・スポーツとしては、相当に頑張ってつくられたクルマだ。しかも、キャディラック独自のデザインや、アメリカ的な味わいも残されている。もうすこし時間をかけて細部をどんどん煮詰めれば、場合によっては、世界の市場で独自のユーザーを開拓できるのではないかと思った。
(文=大川悠/写真=日本ゼネラルモーターズ/2004年1月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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