ベントレー・コンチネンタルGT(4WD/6AT)【短評(後編)】
ツイードジャケットを着たターミネーター(後編) 2005.12.10 試乗記 ベントレー・コンチネンタルGT(4WD/6AT) ……2145万円 560psを出力する、VW製「W12エンジン」エンジンを搭載した「コンチネンタルGT」。英国とドイツのタッグは、新たな高級車像を作ったのか。“理想的”という言葉がふさわしい
続いてまわりにあるスイッチに触れていくと、あらゆるものが、絶妙な重さをもって、なめらかに動くことに感動する。ステアリングのチルトとテレスコピックから、オーディオのダイヤル、さらにはエアコンのルーバーまで。こういう手応えを与えることが一朝一夕にできないことぐらい、平民の自分だって知っている。コンチネンタルGTがそのへんのラクシャリーカーとは別の次元にいるのを知ったのは、このときだった。ステアリングやアクセルやブレーキのタッチも同じ。それどころか、エアサスペンションによる乗り心地までも、あらゆるショックを真綿にくるんで送り届けるような感触だ。でも、とらえどころがないのではない。あたりは柔らかいのに、中に太い芯を持っていることが伝わってくる。理想的、という言葉が思わず頭の中に浮かんだ。
ちなみにこのサスペンション、コクピットのスイッチで堅さや車高を変えることができるが、他車の同類のメカニズムのように、どのモードがもっとも快適、というレベルの代物ではない。すべてが快適で、その中で段階を選ぶことができる、というものだった。
高速道路に入ったところで、このクルマの能力をフルに発揮してみた。アクセルペダルを深く踏み込むと、猛獣の唸りのような息吹を響かせながら、猛然とダッシュを始める。6段ATのギアがどこにあろうと関係ない。6リッターW12ツインターボ、560ps/66.3?mの実力を思い知らされる瞬間だ。
角がない加速
首都高速のトンネルで内壁にこだました重低音のエキゾーストサウンドは、ミッレミリアに出走していた戦前のベントレーに通じるものがあったが、それ以外に英国的な情緒を想起させるものはなく、あるのはドイツの完璧主義だけ。ツイードのジャケットを脱ぎ捨てたら、中身はターミネーターだった、という感じだ。
しかし、その加速に角はない。高性能車を高性能車たらしめていた粗削りな演出は微塵もなく、洗練された空気を保ったまま、速度計の針だけが勢いよく振れていく。いままでのクルマの概念が通用しないようなクルマだ。
それはハンドリングについてもいえること。といっても山へ行ってゴリゴリ走ったわけではないが、さすが4WD、2.4トンのボディからあふれてしまいそうなパワーとトルクを、きちっと前進力に変えてくれる。自分レベルの腕の人間が公道上でがんばったところで、スタビリティコントロールの出番はほとんどない。切ったとおりに曲がっていくだけだ。
最強のタッグ
なにもかもが完璧。すばらしくよくできた機械。ペースを上げたときのコンチネンタルGTは、ドイツ車をほめたたえるときに用いる形容詞こそがふさわしい。しかしそのキャビンは、おごそかで控えめな英国趣味で統一されている。もしかしてこれは、ラクシャリーカーにおける最強のタッグなのではないだろうか、と思った。
W12+4WDのベントレーなんて、たしかにマニア受けは悪いかもしれない。でもこの種のクルマを買うのはマニアだけではない。いや、それ以外の人間が圧倒的だ。それにベントレーのマニアはそんなに多くはない。VWはそれをすべて熟知して、マニア的な考えをスッパリ切り捨ててコンチネンタルGTを作った。で、成功を手にした。
長い間、ロールス・ロイスのグリル違いに甘んじ、それゆえに「サイレントスポーツカー」などという妙な愛称で呼ばれていたブランドが、いまや高級車のスタンダードになろうとしている。ベントレーに限れば、改革は成功したのである。
(文=森口将之/写真=荒川正幸/2005年12月)
・ベントレー・コンチネンタルGT(4WD/6AT)【短評(前編)】
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000017546.html

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車は「シトロエンGS」と「ルノー・アヴァンタイム」。