マセラティ・グランスポーツ(2ペダル6MT)【短評(後編)】
単純な言葉では語れない(後編) 2005.11.11 試乗記 マセラティ・グランスポーツ(2ペダル6MT) ……1396万5000円 マセラティブランドの魅力を探るべく「マセラティ・グランスポーツ」に試乗するの後編。
![]() |
血の通った硬さ
第一印象はやはり、硬い。でも、不快ではない。鋭いショックはうまく丸め込んでくれる一方で、シートやステアリングを通して路面の感触を逐一伝えてくれるからだろう。ドイツ車とは違う、血の通った硬さだ。
自然吸気4.2リッターで400psというとかなりのハイチューンだが、街中を流すようなシーンもわけなくこなせる。しかも、全然退屈ではない。2000rpmあたりから早くもフォーンという快音を聞かせ、アクセルを抜けばブロロ……という共鳴音を響かせる。生の息吹がキャビンに届けられる。
そのまま回していくと、5000rpmあたりで、はっきり吹け上がりが鋭くなる。記憶に残るクーペやスパイダーよりも、活気のあるトップエンドだ。そのときのサウンドは、フェラーリみたいにコーンと抜けがいいものではない。ちょっとしゃがれた音。クーペやスパイダーよりレスポンスが鋭くなったカンビオコルサのバドルを弾き、それを怒濤の加速とともに味わう。
![]() |
スポーツモード
グランスポーツにも、他のマセラティと同じように、スポーツモードがある。サスペンションが硬くなるだけでなく、カンビオコルサの反応は素早くなり、エキゾーストサウンドは豪快さを増し、MSP(マセラティ・スタビリティ・プログラム)の介入まで遅くなる、かなり本格的なモードだ。街中ではマイルドな乗り心地、高速道路では安定した直進性をとってノーマルモードを選びたくなるが、山道ではやっぱり、スポーツモードにしたくなる。
きっちり踏力をかけないと効かない、男っぽいブレーキで速度を落とし、ステアリングを切り込む。反応は鋭すぎず鈍すぎず、アシストもつけすぎていない、自然な手応えだ。ノーマルモードでは気になった姿勢変化はきれいに姿を消して、残ったのは素直なコーナリングだけ。
MSPをカットして、立ち上がりでありあまるパワーを与えれば、当然のようにテールが流れる。でも、それを利用して振り回してやろうという気にはならない。クルマ全体からにじみ出る90年分の重みが、そうする気にさせない。
その目的のために
ビッグモーターサイクルを操るときのように、入り口できちっと減速して、立ち上がりで少しリアを滑らせてやるような乗りかたが、このクルマにはふさわしいように思える。そうやって、きれいに走らせたときのグランスポーツは、乗り手の思いどおりの弧を描いて曲がっていく。全開ではなく、一歩引いたところで速く走らせるのが似合う。
フェラーリのように、走るために走るのではない。なにかの目的のために疾走するのがふさわしい。ハードウェアとしてのユーティリティやフレキシビリティゆえではない。やっぱりマセラティというブランドが、そうさせるのではないだろうか。
若い頃はあちこちで暴れ回り、事業を始めたものの何度も危機に直面し、でもそれを乗り越えて、いまがある。マセラティが歩んできた道のりは、人間にたとえればそんな感じだろう。順風満帆な歴史では醸し出せない味。だからこそ、場面場面によって、いろんな表情を見せてくれる。乗り手はそんな多面性に魅せられ、新しい目的を探し出しては、このクルマを連れ出していく。
スポーツカーとか、グランドツアラーとか、単純な言葉では語り尽くせない世界。この世界を完全に理解し尽くせるまでに、あと何年かかるのだろうか。
(文=森口将之/写真=峰昌宏/2005年11月)
・マセラティ・グランスポーツ(2ペダル6MT)【短評(前編)】
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000017432.html

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。