ランチア・イプシロン Bカラー(FF/5MT)【試乗記】
ストーリーを持つ1台 2005.09.01 試乗記 ランチア・イプシロン Bカラー(5MT)……249.9万円
「フィアット・プント」をベースにしながら、ハっとする内外装に仕立てた「ランチア・イプシロン」。ツートーンカラーをまとう「Bカラー」は、ただ見た目の違うコンパクトではないという。
一発でヤラれる
それにしてもすごいボディカラーに、最初に対面したときには本当にびっくりした。ベージュとボルドーで大胆に塗り分けた「Bカラー」と呼ばれる2トーンカラーは、しかし見れば見るほど魅入られてしまう。スタイリング自体もそう。最初は正直、「前衛的だった先代の方がいいな……」と思っていたのに、登場して間もない頃、実物を目の前にした途端、一発でヤラレてしまったのを覚えている。コンパクトカーなのに、これほどまでの凛とした存在感。巧みなディテールはもちろん、全長に対してゆったり取られた全幅など、余計な制約を取り払ったプロポーション作りも、その堂々とした存在感に繋がっているのだろう。
同じ色合いでまとめられたファブリックシートをおごったインテリアも、どことなくクラシカルな雰囲気がより強調されていて、これまたイイ感じだ。書体にまでこだわったクロームリング付きのメーターなども、そんな印象を色濃いものにする。実際は樹脂の質感など、よく見れば大したことはないのである。なのに、ここまでの気品と落ち着きをもたらす、その造形や配色のセンスは、非常に陳腐な言い方だが、さすがイタリアだなと思わずにはいられない。
こんな世界もあったのか
そんな設えから抱く印象を、まったく裏切ることがないのが走りっぷりである。その足さばきを一言で表現するなら「優美」あるいは「たおやか」なんて言葉になるのだろうか。身体全体を心地よく受けとめてくれるシートのおかげもあって、路面との当たりは実に頃合いに柔らかく、そして重厚。それでいて法定速度プラスアルファくらいまでなら、妙にユラユラするようなこともなく、案外フラット感も高かったりする。かと思えば、高速道路の導入路のような場面では、あれ? っと思うくらい機敏にノーズが反応してくれるのだからタマラナイ。電動パワーステアリングも違和感まったくなし。上質な手応えをもたらしてくれる。
1.4リッターエンジンは最高出力95ps。組み合わされるのは、「D.F.N」と呼ばれる2ペダル5MTではなく普通の5段MTだったが、低速域からきっちりトルクが立ち上がり、かつ歯切れよく回るエンジンと、小気味よいタッチのシフトを連携させて走らせるのは、街なかでもまったく苦ではない。流れるような操作が可能な、各部のタッチの綿密なチューニングによって、ホットハッチ的な世界を想像させる小排気量エンジン+MTでありながら、クルマのキャラクター通り、優雅に走らせることもできる。こんな走りの世界もあったのかと、軽い感動に見舞われることは請け合いだ。
ハードルはあるが
僕は、特に“よかった頃”のランチアについて、よく知る世代ではない。けれど、イプシロンを見て、乗ったあとには、「ランチアってこうだよね」なんて解ったようなことを口にしたくなっている自分がいた。いや、それは多分、解ったようではなく解ったんだと思う。つまりイプシロンは、その小さな体躯の内に、ランチアというブランドの歴史なり哲学なりをすべて織り込んだ、ひとつの完結したストーリーをしっかり持っている。そういうことではないだろうか。
装備の豪華な、あるいはデザインに凝ったコンパクトカーはいくつもある。けれど、そこでしっかり独自の世界を見せてくれるものは決して多くない。けれどイプシロンには、まさにそれがある。左ハンドルしかない、いわゆる並行輸入車ということで、実際に手にしようとなればそれなりのハードルを越える必要があるクルマではある。だが、そこには間違いなく、それを乗り越えてでも手にするだけの意味や価値が備わっているのだ。
(文=島下泰久/写真=峰昌宏/2005年9月)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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