ポルシェ・ボクスターS(MR/6MT)【試乗記】
ピュアスポーツとしても一級品 2005.06.09 試乗記 ポルシェ・ボクスターS(MR/6MT) ……892万3250円 フルモデルチェンジをうけて、「ボクスター」はさらにスポーツカーとしての資質を向上させた。それではオープンカーとしては、どのように評価されるべきなのか。自動車ジャーナリストの島下泰久は、「理想の姿を体現」しているという。 拡大 |
拡大 |
オープンカーらしからぬ安心感
新しくなったボクスター、写真を見る限りは、ディテールの違いこそあれ全体的には「あまり変わり映えしないなぁ」と思っていたのだが、実車を前にすると、これが意外なほど新しさを感じる。とても立派になって、あるいは従来のカジュアル感は薄まったかもしれないけれど、その代わり風格みたいなものを感じさせたのだ。実際のボディサイズは、先代に較べて全長で10mm、全幅で20mmほどしか大きくなっていない。スタイリングも、誰の目にもボクスターに見える。それでいて、この存在感。新しいファンを魅了すると同時に、旧型のオーナーに落胆はさせずに羨望は抱かせる。そのデザイナーの仕事ぶりは見事と言うほかない。
見事な仕事をしたのはスタイリストだけではない。新型ボクスター、走りっぷりも手放しで賞賛したくなる素晴らしさだ。まずはすべての基本、ボディがとてもしっかりしている。しかも、ガチッと固い殻に覆われているようなオープンカーらしからぬ安心感をもたらす一方で、軽快感も捨てていないのが良い。
巧みにセットアップされたサスペンションも、その軽快感を強調する要素だ。試乗車はオプションの電子制御ダンパー、PASMを装備していたが、これをノーマルモードで乗っている限りは、すべての入力を無理矢理抑え込むのではなく、4輪を適度にストロークさせてそれらをうまくいなしながら、でも無駄な動きはしっかり排除するという絶妙なサジ加減の乗り味を堪能できる。
際立った素直さ
しかも快適性だって想像以上だ。試乗車は19インチタイヤを履いていたが、それがにわかには信じられないほど。オープンエアドライビングをゆったり満喫しようという時も、乗り心地には何の不満も抱くことはないはずだ。ソフトトップはロックだけが手動で、あとは電動開閉式。試乗車はオプションの、ロールバーの間を渡すウインドディフレクターが備わっていたこともあって風の巻き込みは適度で、フロントスクリーンの上端までがドライバーの頭から適度に遠く、爽快感だけを存分に楽しめる。
そして当然のごとく、曲がりの一体感、楽しさも一級品だ。そのステアリングは、いかにもポルシェらしい精度の高さを感じさせる。走り出してすぐ、クルマに全幅の信頼をおけるのは、微舵どころか舵を入れようと力を加えるその瞬間から、路面の状況をありありと掌に伝え、そしてそのわずかな力加減にも、しっかりとした手応えを返してくる、おそろしく精度の高い応答性のおかげだ。そのステアリングを切り込んでいくと、まさに思った分だけそれ以上でも以下でもなく車体の向きが変わっていく。
その一連の挙動は、ノーズがインを向くというよりは、自分を中心にノーズがインを向くと同時にリアが回り込んでいく、いかにもミドシップらしいもの。だからといって危なっかしさは一切なく、すべては絶大な安心感のもとに展開されるから、気付くとどんどんペースが上がってしまう。この際立った素直さは、まさにピュアスポーツと呼ぶにふさわしい。
![]() |
ベタ褒めも仕方がない
ボクスターSが積む最高出力280psを発生する3.2リッターユニットも、パワーはもちろん吹け上がりの鋭さ、サウンドなど、すべての面でスポーツエンジンとして文句のつけようがない。今や280psなんてセダンでもザラだが、水冷フラット6のパワーは、その密度が違う。ただボクスターの2.7リッターも相当できがいいだけに、こちらが6段MTだということを差し引いても、100万円の差は微妙なところかもしれない。
とはいっても新型ボクスター、実は全モデルとも先代より価格は引き下げた。このユーロ高のなか、あらゆる点で進化を果たして、PSMやヘッドエアバッグなど装備も充実させての値下げなのだから、もう脱帽である。ほとんどベタ褒めになってしまったが、本当だから仕方がない。まさしくこのボクスターこそ、風と心地よく戯れながらコーナーの連続を軽快にクリアしていくオープンスポーツカーの理想の姿を体現した存在なのだ。
(文=島下泰久/写真=高橋信宏/2005年6月)月刊『webCG』セレクション/オープンカー特集
「星空のために幌を開けよう!〜カジュアル・オープンカーライフのススメ」

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】 2026.6.2 かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.6.1 「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。
-
トヨタRAV4 GRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】 2026.5.30 新型「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッド車ではEV走行換算距離が約150kmにまで到達。もちろん電池容量の拡大によるところも大きいが、何よりも最新のハイブリッドシステムによる効率向上が効いている。「GRスポーツ」をドライブした印象をリポートする。
-
キャデラック・リリックV(4WD)【試乗記】 2026.5.29 キャデラック初の電気自動車(BEV)「リリック」に、最高出力646PSのハイパフォーマンスモデル「リリックV」が登場。“ブランド史上最速”をうたう豪速SUVだが、実際に乗ってみると、高い動力性能がもたらすゆとりや心地よさにも魅力を感じる一台となっていた。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD)【試乗記】 2026.5.28 前衛を身上とするフランスのラグジュアリーブランド、DSオートモビルから、新たなハイエンドモデル「DS N°8(ナンバーエイト)」が登場。当代屈指の性能を誇る電気自動車であり、かの地では大統領専用車にも選ばれる一台の、独創の魅力に触れた。
-
NEW
第290回:商用バンで砂漠を行く親子が向かうのは天国か地獄か 『シラート』
2026.6.4読んでますカー、観てますカー失踪した娘を探して親子はモロッコの砂漠へ。砂漠で開催されていたレイブパーティーが最高潮に達した頃、軍隊がやってきて中止させられる。親子が乗るFFの商用バンは次のパーティー会場にたどり着けるのか……。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(前編)
2026.6.4あの多田哲哉の自動車放談ひさびさに日本市場に戻ってきた、ホンダを代表するSUV「CR-V」。最新世代の仕上がりを、トヨタの車両開発者だった多田哲哉さんはどう評価する? まずは、ワインディングロードを走らせた第一印象から。 -
NEW
第964回:フィアットグッズのコレクターから学ぶ人生訓
2026.6.4マッキナ あらモーダ!イタリア在住の大矢アキオが、トリノで著名なフィアットグッズのコレクターを取材。若き日の苦労を経て大成した人物が語る、人生で大切なものとは? フィアットやイタリアの歴史を物語る、貴重なコレクションの数々とともに紹介する。 -
NEW
気づけばすでに4モデル スバルのBEV戦略と水平対向エンジンの未来を考える
2026.6.4デイリーコラム「ソルテラ」に続き、「トレイルシーカー」「アンチャーテッド」「ゲッタウェイ」と、いつの間にか4モデルが顔をそろえたスバルのBEV。伝統的な水平対向エンジンやシンメトリカルAWDはこの先どうなるのか? スバルの未来戦略を探る。 -
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。






























