BMW Z4 3.0i(5AT)【試乗記】
安売りはしない 2003.06.04 試乗記 BMW Z4 3.0i(5AT) ……646.0万円 斬新なスタイリングで賛否両論を巻き起こした、2002年パリサロンデビューの「Z4」。スマッシュヒットを飛ばした2シーターオープン「Z3」の“上級車種”として、いよいよ日本でもデリバリーが開始される。『webCG』記者による試乗報告。
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お互いの髪がザンバラに
「タイヤひところがりでピタリとわかる」……わけじゃあないが、「BMW Z4 3.0i」のステアリングホイールを握って走り出したとたん、「こりゃあ、いいクルマだあ!」と思った。車両本体価格550.0万円もするクルマだから、もちろん「よくないと困る」が、それはそれとして、エンジンはスムーズでトルキー。乗り心地もなめらかで、“プレミアム”具合がまことにわかりやすい。舌触りがよくて、能弁。
ソフトトップをおろすのには、10秒もかからない。センターコンソールの「開」ボタンを押すだけの、フロントスクリーン上面のレバーをはずす手間さえいらない、まったくのワンタッチ。明るい日差しのなか、相模湾を横目に西湘バイパスを行く。クルマは少なく、流れが速い。
ブリヂストンのランフラットタイヤを標準で(!)履く足まわりは、オープンエアが楽しい80km/h前後では多少バタつく。助手席のカメラマンと撮影の打ち合わせをしているうち、お互いの髪がやけにザンバラになり、一方「乗り心地がずいぶんフラットになったなァ」と感じたら、ちょっとトバしすぎてた。ただちにスピードを落とし、「セッティングの想定速度が間違っている……」とブツブツつぶやく。
ハナシが前後するが、試乗が終わったのちBMWのヒトにそのむね告げると、「オプションの18インチを履いているせいでは」とのこと。テスト車のタイヤサイズは、前:後=225/40R18 80W:255/35R18 90Wで、銘柄はいずれもブリヂストンのポテンザRE050Aだった。標準サイズは、前後とも225/45R17である。
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忘れたこと
驚いたのは、箱根ターンパイクを駆け上がったとき。Z4、いかにも前後のバランスよく、クルマが手の内に入っているかのようにカーブをこなす。勇まし排気音。ガスペダルを踏みつけながら、次のコーナーが待ち遠しい。
個人的には、「絶対的にはじゃっかん足りないパワーながら、フィールのいいエンジンとよくしつけられた足まわりで理知的に“スポーティ”を演出する」というのが、一般的な“ビーエムの味”(除くMシリーズ)と勝手に解釈していたが、231psの3リッターストレート6を積んだZ4 3.0iは、遠慮なく(?)速い。しかも、オープンモデルらしい軽快感をもっているのがイイ。バイエルンのエンジンメーカーは、なんとまあ「ファン・トゥ・ドライブ」がうまいのだろう!
……反省することがある。予想以上のZ4に有頂天になって、目玉テクノロジーのひとつ「DDC(ドライビング・ダイナミック・コントロール)」をテストするのを忘れてしまった。これは、エンジン出力とペダル開度を関連づける制御マップを変更するもので、シフター前のボタンを押すと、より早く大きなアウトプットが得られ、かつステアリングへのパワーアシストも変更される。つまり(言い訳をするなら)、ノーマルのままでも、「もっとスポーティに……」と、なんとか“走り”を強化するデバイスを探す必要がなかったということだ。
なお、新しいロードスターには、BMWブランドとして初めて電動式のパワーステアリングが与えられた。ステアリングホイールを回しながら、“かすかな浮遊感”とでも形容すべき独特の軽さを感じることはあるが、総じて自然で、「運転の楽しみ」をスポイルすることはない。
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105万円の差
BMW Z4は、2002年のパリサロンで正式に披露されたオープン2シーターである。「Z3の後継」というよりは、「グレードが1階級上がった」というのが、BMWの主張。ホイールベースは50mm長い2490mmになり、ボディサイズは、全長×全幅×全高=4100×1780×1285mmと、Z3よりわずかに大きくなった。
肝心なのは、生まれたときからすでにシャシーが1世代古かったZ3と比較して、こちらは現行3シリーズのものをうまく活用していること。サスペンションは、フロントがマクファーソンストラット、リアは「セントラルアーム」と呼ばれるマルチリンク式を採る。
初出のパリサロン以来、各地のモーターショー会場で見るたび「どうなっちゃうのか」と心配になったスタイリングだが、いざ市販され、太陽の下に引っ張り出してみると、比較的カッコいい。ただ、素人目には、依然として、ちょっぴり、変。きっと、長めのモデルライフを貫徹するには、これくらい新しくしないといけないのだろう。
Z4の生産は、Z3同様、アメリカはサウスカロライナ州のスパータンバーグ工場。エンジン、トランスミッションをヨーロッパから輸入し、新大陸で組み立てられる。メインマーケットたる北米では、昨02年10月から販売が開始されたが、わが国では、03年1月10日に導入がアナウンスされ、デリバリーは6月下旬が予定される。
エンジンは、2.5リッター直6(192ps、25.0kgm)の「2.5i」(450.0万円)と、3リッター(231ps、30.6kgm)「3.0i」(550.0万円)の2種類。いずれも右ハンドルで、トランスミッションはシーケンシャルモードをもつ5段ATが組み合わされる。また、2ペダルMTたる「SMG」搭載モデルの予約注文も受け付けており、こちらは左右ハンドルが選べ、価格は560.0万円。納車が始まるのは、8月末以降になるという。
続いて、16インチホイールの「2.5i」に乗ったが、3リッターモデルの後では気の毒だったかな。「無理して大排気量を積んだ」とは微塵も感じなかった上級グレードの後だから。
2.5iの、100万円安い値付けが絶妙である。製品原価として100万円の差異があるとは思えないが、“駆けぬける歓び”を考えると、3.0iにはそれだけの価値があるんじゃないでしょうか。
「上手いねぇ、やっぱり。安売りはしないんだねぇ」というのが、峰カメラマンの感想である。
(文=webCGアオキ/写真=峰 昌宏/2003年6月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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