トヨタ・ヴィッツシリーズ【試乗速報(前編)】
これが本命? 「トヨタが作った欧州車」(前編) 2005.02.08 試乗記 トヨタ・ヴィッツ1.0F(CVT)/1.3F(CVT) ……145万4250円 /143万9550円 コンパクトカーの基準車ともいえる「ヴィッツ」が、6年ぶりにフルモデルチェンジを受けた。デザインもメカニズムもヨーロッパを強く意識して開発された「世界戦略車」のインプレッションを、『NAVI』編集委員鈴木真人がお届けする。「知性」を表すコンパクトカー
コンパクトカーは、今やメーカーの技術と意地が激突する主戦場だ。「フィット」、「マーチ」、「デミオ」、「スイフト」、「コルト」と、各社力の入ったモデルが並ぶ。価格コンシャスな商品だけに、利益率はさほど良くないはずだ。しかし、このクラスに魅力的なモデルを持つことができないと、メーカー全体のイメージが低下するのは避けられない。ユーザーの数が多いというだけでなく、コンパクトカーの出来は自動車メーカーの「知性」の指標とも捉えられているからである。環境や都市交通の問題にきちんと取り組んでいるかが問われるのだ。
日本でこのセグメントに大きな一石を投じたのが、1999年1月に発表された初代「ヴィッツ」だった。コンパクトな外寸からは想像のつかない広い室内、日本車離れしたデザイン、驚異的な燃費のよさなど、インパクトのある要素がいくつもあったのだ。そしてヴィッツは、ヨーロッパでは「ヤリス」の名で販売されるという「世界戦略車」でもあり、「イスト」「ファンカーゴ」などの派生車のベースともなっている。トヨタにとって、極めて重要な位置を占めるモデルなのだ。そして、ライバル車が実力をつける中、満を持して6年ぶりにヴィッツのフルモデルチェンジが行われた。
「世界戦略エンジン」の弱点
エンジンバリエーションは、1リッター、1.3リッター、1.5リッターの3種である。トランスミッションはCVTが主だが、4WDには4段ATが組み合わされ、スポーティグレードのRSは5段MTを選ぶこともできる。すべて5ドアハッチバックで、今のところ3ドア版は用意されていない。価格は105万円から159万6000円で、82万円という超廉価車があった先代には及ばないが、軽自動車と互角に戦える価格帯だ。ちなみに、ヴィッツよりも小さい「パッソ」は102万9000円から130万2000円である。
1リッターエンジンは、そのパッソに採用された3気筒と同じもの。プジョーにも載るという「世界戦略エンジン」だ。3気筒だけにどうしてもアイドリング時の振動は感じられるが、中低回転域でのトルクでは有利に働く。実際、横浜の市街地で行われた試乗会では、非力さを感じることはなかった。高速道路や山道ではツラい場面もあるだろうが、主な用途となるのは街乗りだろう。
1.3リッターモデルに乗ると、多少余裕が感じられる。それよりも大きなアドバンテージとなるのは、回転の滑らかさだ。やはり、ガサついた音や振動が抑えられていると、気分的には大きな違いがある。ほとんど同装備の1.0Fと1.3Fで比べての価格差6万3000円は、1リッターを選ぶ理由としてはちょっと弱い気がする。燃費は10・15モードで1.0Fが22.0km/リッター、1.3Fが21.5km/リッターと、相変わらず優秀な数値をたたき出している。
日本車になかった鮮やかなカラー
外寸は、先代と比べるとかなり大きい。全長は110ミリ延び、全幅は35ミリ拡大されて5ナンバー枠いっぱいとなった。パッソの全幅が先代ヴィッツよりも5ミリ広いのだから、こうなるのも致し方ない。全長が延びたことで、プロポーションは伸びやかになった。写真で見るといろいろな線が入り交じって煩雑に感じたが、実物を見ると印象が違う。適度にたわんだサイドのショルダーラインのエッジの立て方はよりエレガントになったし、陰影の付け方もマイルドで好ましい。
リアは先代のイメージを受け継いでいるが、フロントのデザインは大きく変わった。「アベンシス」と同じくボンネットからバンパーに縦のラインが2本通されていて、強いキャラクターとなっている。同じ意匠であっても、サイズのせいか、アベンシスよりもはっきりとデザイン上の主張になって表れている。初代も「欧州風味」のデザインが評判となったが、新型はさらにヨーロッパ車テイストのデザインとなった。
ボディカラーは11色で、気合の入ったセレクトがなされている。初代ヴィッツでは、専用色として開発されたピンクが女性に人気を博し、販売増につながっていた。今回のラインナップの中では、鮮やかなグリーンとパープルが目を惹く。今まで日本車にはなかった色調で、フォルムをよりヨーロッパ的に感じさせる効果があるように思えた。乗り手を選ぶだろうが、色の冒険をするのがコンパクトカーの楽しみの一つだ。
インテリアは、コントラストを強調した造りになった。天井からAピラーを経てドアアームレスト部をホワイトでつなげ、ブラック基調の室内を確然と区切っている。インパネのセンターには縦に長くシルバーのパネルが貼られ、センターメーターとあいまってシンメトリーを強調している。先代よりも明らかにシンプルな面で構成され、より大人っぽい設えになった。(後編につづく)
(文=NAVI鈴木真人/写真=荒川正幸(A)、河野敦樹(K)/2005年1月)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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