ボルボS40 T-5 AWD(5AT)/V50 T-5 AWD (5AT)【試乗記】
平常心で乗るハイパワー 2004.11.08 試乗記 ボルボS40 T-5 AWD(5AT)/V50 T-5 AWD (5AT) ……462万円/498万7500円 ボルボの新世代エントリーモデル「S40」と「V50」のラインナップ最後に、2.5リッターターボを積むハイパフォーマンス版「T-5」の4WDモデル「T-5 AWD」が加わった。自動車ジャーナリスト生方聡のインプレッション。ボルボらしくなった
なにを隠そう、モデルチェンジした「S40」「V50」に乗るのはこれが初めてである。先代の「S40」「V40」が、ボルボっぽくないエクステリアだったのとは打って変わって、この新型は一目見てボルボファミリーの一員とすぐにわかるデザインが印象的だ。
とくに、エステートのV50はそう感じた。先代のV40はエステートというより、ハッチバックの延長線上という存在で、正直なところエステートとしては中途半端だった。しかしV50は、テールゲートひとつとっても、荷室のフロアレベルから開くデザインになった。エントリーモデルとはいえ、ボルボの基本をきちんと押さえているのがカタチに現れている。
さて、今回追加されたのは、S40、V50のトップグレード「T-5」にAWD、すなわちフルタイム4WDを採用した「T-5 AWD」。T-5が2521ccの直列5気筒DOHCターボエンジンで前輪を駆動していたのに対して、このT-5 AWDは、スウェーデンのハルデックス社が開発した油圧クラッチ「ハルデックスカップリング」が、前後に駆動力を配分する。通常は前輪に約95%の駆動力を伝えるが、ホイールの接地状況をシステムが監視し、必要とあれば瞬時に後輪への駆動力を増やして、トラクションを確保するのだ。
T-5 AWDの特徴を頭に入れた後、さっそく迎えた試乗時間、まずはV50に乗り込む。張りのあるファブリック「T-テック」素材でできたシートは、腰とお尻の部分がリブ状になっていて、適度なサポートが心地いい。アルミパネルで仕上げられた「フリーフローティング・センタースタック」は北欧らしいデザインと素材感で、ドライバーを豊かな気持ちにしてくれる。
220psの実力は?
衝突の際にドライバーの膝が接触しないようにとの配慮から、ダッシュボードに移されたイグニッションキーを捻ってエンジンをスタート、試乗会場を後にする。最高出力220ps/5000rpm、最大トルク32.6kgm/1500〜4800rpmを誇るターボエンジンは、発進こそジェントルだが、アクセルペダルをさほど踏み込まなくても、1570kgのボディをやすやすと加速させていく。実に扱いやすい特性である。
もちろん、アクセルペダルを深く踏み込んでやれば、ドライバーの期待に十分応えてくれる。このエンジンの特徴は1500rpmの低回転から4800rpmという実に広い範囲で、最大トルクを発揮する点だ。いいかえれば、どんな回転数でも、ターボさえ効いてしまえばこっちのもの! という性格の持ち主である。ターボラグは小さくはないが、必要なときに必要なだけのトルクが、アクセルの踏み加減一つで手にはいるのだ。
このようなフラットなトルク特性を持つターボエンジンはヨーロッパ勢に目立ち、実用性も高い。反面、スポーティな印象に乏しいことが多く、V50もその例に漏れないのが惜しいところだ。
![]() |
![]() |
AWDの意味
試乗の当日は“あいにく”のドライコンディションで、AWDの実力を存分に試す機会はなかったが、ドライの状況では、AWDを意識することなく運転することができた。乗り心地は、タイヤサイズが205/50R17にもかかわらず、コンチスポーツコンタクト2は“あたり”にゴツゴツした印象がない。そのわりに、ワインディングロードでは適度に締め上げられたサスペンションのおかげで、コーナリングの姿勢も安定している。ターボエンジンゆえエンジン回転数が低くても走れるためノイズも抑えられており、ロードノイズを含めて、キャビンは後に乗ったベーシックモデル「2.4」よりも静かなくらいだ。
試乗会では、同時に「S40 T-5 AWD」のステアリングを握る機会があった。ボディが軽いぶん、挙動に機敏さが感じられるものの、乗り心地にやや硬さが残り、バランスはV50のほうが多少上に思えた。
とはいえ、S40もV50も基本的な性格にさほど違いはない。結局のところどちらを選ぶかは、買う人のライフスタイル次第だ。いずれのタイプでも、余裕あるエンジンの実力を手軽に、そして、安全に使いこなすことができるのがこのT-5である。AWDを組み合わせたことで、さらなる安心を手に入れたという意味では、このフルタイム「T-5 AWD」がもっともボルボらしい選択なのかもしれない。
(文=生方聡/写真=峰昌宏/2004年11月)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。