ポルシェ911カレラ/カレラS(6MT/6MT)【海外試乗記】
予想を超える変貌 2004.09.17 試乗記 ポルシェ911カレラ/カレラS(6MT/6MT) ポルシェの大黒柱「911」がフルモデルチェンジを受けた。空冷時代を彷彿とさせるエクステリアを持つ新型「997型」。外観の印象から、たいした変貌を予想していなかった自動車ジャーナリストの河村康彦だが……。
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驚き、感心
予想を超える変貌ぶりだった。「ポルシェ911」の「996型」が歴代の“集大成”だと思っていたのに、それをあっけないほど、しかもあらゆる点で凌いでしまったのが新しい「997型」だったのだ。
997の“目玉”は、「ひょっとすると原点回帰のごとく丸くなった“目玉”にこそあるのではないか?」 このクルマをテストドライブする以前は、その程度に思っていた。が、それはポルシェに対して失礼だったようだ。新型車のテストドライブでここまで驚き、感心させられたのは、久しぶりのような気がする……。
より大きなシューズを余裕をもって懐に収めるべくフェンダーが膨らんだことで、全幅が38mm拡大されたが、ほぼ“キープサイズ”。997のボディサイズは、全長×全幅×全高=4427×1808×1310mm(カレラSは全高が1300mm)となった。996と比較すると、全幅が約40mm広い程度である。
ただし、冷却用エアの採り入れをより効率よく行うべく、フロント各部のエアダクトを直線的に短くレイアウトし直したり、これまで前輪直前にあったラジエーター通過後のホットエア排出口をホイールハウスシェル内へと改めるなど、微に入り細を穿つリファインが施された。さらに、アンダーボディカバーの面積を拡大、フロントエンドの造形に微妙なリファインを加え、997の空力抵抗係数=Cd値は「996型の0.30に対して0.28に向上した」と謳われる。
本来の姿
ルックスで目を引くのは、これまでの“ティアドロップ型”を廃したヘッドランプの形状だ。「993型」までの歴代モデルを彷彿とさせる丸型ヘッドランプをアイキャッチャーとするフロントマスクを目に、「911は時代を遡っている……」と表現する人もすくなくない。
だが、本当にそうだろうか? ぼくはそうは思わない。「ボクスター」と同様のマスクで登場した996型は、そのタイミングを考えれば、ポルシェが深刻な経営危機に陥っていた時代に“仕込まれた”作品である。言い換えれば、ボクスターとの部品共用率を最大限に高めたクルマ。つまり、合理的なクルマづくりを行わざるを得なかった時代の産物だったと推測できる。
しかし、両車がヒットし、「カイエン」も好調な立ちあがりを示した現在のポルシェ社には、当時とは比べものにならない潤沢な開発資金がある。
すなわち、豊富な資産を用いて、本当にやりたかったスタイルを実現したのが997と読み取れる。そう、911の顔つきは997になって、ようやく「本来の姿に戻った」に違いない! 996では「ちょっとチープ」といわれたインテリアもグンと上質さを増した。
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人車一体
走りはとにかく上質だ。新開発の3.8リッターエンジンを積む「カレラS」に標準、3.6リッターの「カレラ」にオプション設定される、ポルシェ初の可変減衰力ダンパー「PASM」搭載モデルのフットワークテイストに、その印象が強い。ちょっと大袈裟に表現すれば、「これまで経験したすべてのクルマのなかで、あらゆる速度域で最上級の乗り心地を味わわせてくれた」と言ってよいほどである。しかも、フロントに235/35、リアに295/30という、ファットで薄い19インチタイヤを履いてのハナシだから恐れ入る。ただし、スイッチ操作で「スポーツ」モードを選択すると、減衰力が高まり、一般の路面では少々跳ね気味の挙動を示す。
ちなみに、ベーシックサスペンションを採用したカレラの場合、高速域ではPASM搭載車と同等の印象だが、80km/h程度までは、やや路面の凹凸を直接的に伝える傾向がある。まぁ、高速域を得意とするドイツ車にありがちだし、決して不快というほどではないけれど。
997の脚のしなやかさは、快適性だけに貢献するわけではない。路面の変化に執拗なまでに追従するサスペンションは、このクルマに「スポーツカーならでは」といえる高度な“人車一体感”をもたらす。997のステアリングホイールを握っていると、このクルマが「自分の身体の一部になってくれる」ような錯覚すらおぼえる。けっして「身体がクルマの一部になる」感覚ではないところがミソ、というわけだ。
カレラかSか……
ところで、幸福にも997を手に入れようという段階になると、誰もが直面する大問題は「カレラとカレラS、どちらにするか」だろう。
たしかに、カレラSの0-100km/h=4.8秒、最高速度293km/hという超一級の速さは魅力的だ。「ヘルムホルツ・レゾネーター」なる、専用の調音メカニズムを組み込んだフラット6は、より魅惑的なサウンドを聞かせてくれるし、ポルシェ車では定評のあるブレーキも、より大容量のシステムが組み込まれる。
そのうえ、カレラSに比べてカレラが「遅い」実感を免れないかというと、そんなことはない。なんとなれば、ぼくの乗ったカレラはアウトバーン上で無理なく280km/hのデジタル表示をマークしたからだ。カタログ上の動力性能は、0-100km/hでわずかコンマ2秒遅れ、最高速で8km/hのビハインドしかない。ただし、前述のPASMは、比較的低速域を中心にその効果を発揮するので、とくに日本ではカレラの場合にも装着したいアイテムである。日本での価格は、カレラ(6MT)が1046.0万円、カレラS(6MT)は1248.0万円と発表された。
あぁ、それにしても、997の完成度がここまで高いのを知ると、間もなく登場するとウワサされる次期型ボクスターの仕上がりも気になってくる……。
(文=河村康彦/写真=ポルシェジャパン/2004年9月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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