プジョー607コンフォート(4AT)【試乗記】
奥が深く、味わいの濃いクルマ 2004.04.23 試乗記 プジョー607コンフォート(4AT) ……522万9000円 プジョーのトップレンジ「607」。ラクシャリーモデル「607コンフォート」に、『webCG』エグゼクティブディレクターの大川悠が試乗した。大きなフランス車
どうもフランス製の大型サルーンは日本で人気がない。いやヨーロッパ内でも精彩を欠いている。小さなフランス車たちがプジョーもルノーもシトロエンも、結構ヨーロッパや日本で元気なのに比べると、Dセグメント以上になると、フランス車はとたんにマイナーな存在になる。
ルノーの「ヴェルサティス」はすでに失敗作という声もあるし、シトロエンは「C5」以上にはなかなか踏み切れない。最近ヨーロッパだけでなく日本でもマーケットを伸ばしてきたプジョーも、やはり大きな“6系”になると、そう簡単にはドイツ車からなるエスタブリッシュメントのなかに食い込めない。
とはいえ、たまに大きなフランス車に乗ると、ドイツ車とも日本車とも違った味わいを発見できることがある。久しぶりに乗ったプジョーの旗艦「607」も奥が深く味わいの濃いクルマだった。
メルセデスのフランス的解釈
最初乗り出した瞬間に、メルセデス的な感覚を受けた。ひと頃、といってもだいぶ前の1970年代ぐらいまでだが、プジョーはその製品思想や製造思想でメルセデスとの共通点を指摘されたものである。高い部品の内製率、息が長く、きちんと煮詰める技術方針、カスタマー・ロイヤリティの高さなどで、プジョーとメルセデスは似たところが多かった。
その後、ともに企業間競争のなかで本来の思想は薄まってきているが、やはりその根には上記のような共通点を、依然として持っていると思う。
それがいったいどう製品に反映されているかは難しいが、走り出した瞬間の一種の安心感に、メルセデスに似たものを感じた。さらに細部でいえば、径が大きなステアリングホイール、比較的踏みはじめが重いスロットル、全体的にフラットなライドなどもメルセデスに共通している。やはり全体的にクルマを信頼して、リラックスして移動できるところがもっとも似た感覚だろう。
気持ちが安らぐ室内
個人的に、一番気に入ったのはインテリアだった。広く快適で、シックで上品。気持ちが安らいで、優雅な気分でドライブしたくなる。
テスト車は明るいアイボリーレザーの室内を持っていて、これがいい。同じアイボリーベージュでもシートにはやや濃い茶色のパイピングが入るし、ダッシュボードは明るく、そこに配されたウッドパネルとの配色もいい。国産の安価な製品を無理矢理流用した小さな画面のカーナビや、パワーウィンドウ/ライトスイッチなどの感触が安っぽいのが難点だが、そのくらいは気持ちよく背中を包み込むシートに免じて許したくなる。
リアのルームがまたいい。2800mmという「Eクラス」並のホイールベースの恩恵もあり、とても広々としている。シート座面が前より高いことは、見晴らしだけでなく、レッグスペース面でも有利になる。しかもルーフ内側がかなりえぐられるような造形になっているから、これだけシートが高くてもヘッドルームに余裕がある。
スペーシィなことはトランクルームにもいえる。まずとても奥行きが深い。フルサイズのゴルフバッグを縦に飲み込むほど深いのだ。それだけでなく上下にも充分なサイズがあるし、幅もたっぷりしている。そのうえ、その気ならリアシートを6:4で分割して倒せるのだから、さすがにクルマに何でも積みたがるフランス人も文句を言わないだろう。
ただしこれだけトランクをとったためにせり出したリアのデッキは、後方視界を犠牲にしている。
常に快適な移動感覚
そして路上でも607はとても快適だった。前述のように高速ではフラットライドを提供するし、都内の荒れた路面でもかなりしっとりとしている。ひとつにはミシュランのMXMが、225/55-16とやたらに扁平でないためもあるだろうし、プジョー伝統の質のいいダンパーも貢献している。
やや重めのステアリングは、いざ切るとかなりシャープだし、そんなにロールは見せず、大きめなボディは快調に走る。その時に助かるのがエンジンの中低速トルクで、この3リッターV6は、基本的にスポーティなユニットではないにせよ、特に2000rpmぐらいから、あたかもターボが付いているかのように分厚いトルクをフィードしてくれる。
乗っていてふたつ残念だったのは、シートのバックレストのガタなど、室内の各部が伝えるノイズと、ATが4速しかないということ。前者は多分、パセンジャーが乗っていたら出なかっただろう。後者はエンジンの低速トルクがあるだけに惜しい。優れた5段ATを付ければ、607はドイツのライバルに充分に対抗できるはずなのである。
最近、自分の足として様々なクルマを考えているが、ボディがもうすこし小さければ、このプジョーはかなり魅力的に思えた。ということは新しい「407」に期待すべきだろうか。
(文=大川悠/写真=峰昌宏/2004年4月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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