プジョー607コンフォート(4AT)【試乗記】
カルさが新しい 2002.05.01 試乗記 プジョー607コンフォート(4AT) ……498.0万円 日本市場での躍進著しいプジョー。本国から3年遅れで、ようやくニューフラッグシップ「607」の導入が開始された。先代「605」を買う算段をしたことがある自動車ライター、下野康史が乗った。「重厚」や「手応え」とは無縁
本国でのデビューは1999年秋、やっとこさ輸入開始されたプジョーのフラッグシップ。こんなに導入が遅れたのは、「販売の55%を占める206とのギャップが大きすぎるから」というのがインポーターの説明だ。この時代に右肩上がりの成長を続け、ついに台数でオペルをしのぐまでになった上り調子のさなかに、余計なリスクを負いたくなかったということでもあるだろう。
その607は、ひとことでいえば、大きなプジョーである。
フラッグシップといっても、エンジンは406系の上級モデルにも使われている3リッターV6。206psのパワーなど、アウトプットにも変更はないが、ZF製4段ATのECUがジーメンスの8ビットからモトローラの32ビットに進化している。
406セダンのV6よりさらに130kg重いために、実用域での加速はわりともっさりしている。だが、ATは新型ECUの霊験あらたかで、あらゆるプジョーのなかでもいちばん変速がナチュラルである。ただし、アクセルペダルの反応は、いかにもスロットル・バイ・ワイヤ的な隔靴掻痒感が残る。これがもうすし自然なら、エンジンのピックアップももっと鋭く感じられるはずだ。
山道での身のこなしはなかなか軽快だが、乗り心地もかなりカルイ。ステアリングの操舵力も低速ではちょっといきすぎくらいに軽い。高級車にずっしりした重厚な乗り味や手応えを求める人には、“タイプのクルマ”ではないかもしれない。
ABSが作動するような急ブレーキ(40km/h以上から7m/s以上の減速度)を踏むと、自動的にハザードランプがつき、後続車に警告する。走行中、ウインカーを消し忘れて30秒以上走ると、作動音が大きくなってそれを知らせてくれる。機構的にとりたてて斬新なところはないものの、そういった気の利いたアイデアは目をひく。
年500台の目標販売台数
バブルのころに日本でも売られた先代の605は、これぞフレンチ・ラグジャリーカーともいうべき悠揚迫らぬ高級セダンだった。走り出した途端、背中がサワサワッとなるような色気のあるクルマで、一時、僕は本気で買う算段をした。
サスペンションなどは基本的に605のキャリーオーバーなのに、なぜか607はだいぶ印象が異なる。カルさが新しいといえば新しいのかもしれないが、605のまったりしたところがなくなってしまったのはちょっと残念である。
とはいえ、全長4875m、全幅1830mの大柄なボディをもつフラッグシップモデルが400万円台で買えるというのが、607のいちばんの売りかもしれない。そういう意味では独特のポジションにあるクルマである。
リアスタイルは間違いなく美しい。日本での年販計画台数は500台。いまや総販売台数でボルボに次ぐ純輸入車第5位のブランドなら、それくらいのお客さんは十分いそうである。
(文=下野康史/写真=郡大二郎/2002年4月)
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下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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