フォルクスワーゲン・ゴルフトゥーランE(6AT)【ブリーフテスト】
フォルクスワーゲン・ゴルフ トゥーラン E(6AT) 2004.03.02 試乗記 ……270.0万円 総合評価……★★★★ フルラインメーカーへの転身を図るフォルクスワーゲンが、ミニバン大国ニッポンに送り込んだ「ゴルフ トゥーラン」。「ゴルフV」ベースのコンパクトミニバンに、自動車ジャーナリストの生方聡が試乗した。
|
ゴルフ感覚で乗れる
日本では「ゴルフ」ファミリーの一員として売り出される、フォルクスワーゲン初のコンパクトミニバン「ゴルフトゥーラン」。ドイツ本国では、単に「トゥーラン」と呼ばれる。
5代目「ゴルフV」に先駆けて日本デビューしたトゥーランは、エンジンや足まわりなど、基本となる部分の設計を新型ゴルフと共用する。そのことと、“ゴルフ”の車名が定着したこともあってか、日本ではゴルフブランドを借りることになった。
実際乗ってみると、その名前にふさわしい内容を備えている。すなわち、親しみやすいエクステリアデザインと質感の高いインテリア、高いボディ剛性、重厚な乗り心地、充実の安全装備など。ゴルフの特徴といえる部分のほぼすべてが、トゥーランに受け継がれた。
7人乗り3列シートのミニバンとしては、室内スペースや細かい使い勝手において、同クラスの日本車のほうが進んでいる部分がある。価格も、日本のライバル車に比べて割高なのはたしかだ。しかし、ゴルフの感覚で乗れるコンパクトミニバンが登場したことは、ゴルフオーナーや、家族構成上ゴルフをあきらめていた人にはうれしいかぎり。かくいう私も、トゥーランの登場を心から歓迎するひとりである。
|
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2003年のジュネーブモーターショーでデビューした「トゥーラン」は、「ゴルフV」のプラットフォームをベースにつくられたコンパクトミニバン。本国では単にトゥーランと呼ばれるが、日本ではブランド戦略上からか、馴染みのある「ゴルフ」の名をつけ、「ゴルフトゥーラン」として販売される。
日本に導入されるのは、1.6リッターと2リッターの直噴ガソリンエンジンを積む2グレード。それぞれ「E」と「GLi」と呼ばれる。トランスミッションは、いずれにもアイシン製の横置きティプトロニック6段ATが組み合わされ、前輪を駆動する。シートレイアウトは、本国ではオプションの3列7人乗りのみだ。
ハードウェアのポイントは、約70cmにおよぶレーザー溶接、高張力鋼板を使用して剛性と安全性を高めたボディ、高出力と高燃費を両立したという直噴「FSI」エンジンと、アイシン製6段ATなど。ミニバンのウリであるシートレイアウトは、3席を独立して取り外せるセカンドシートにより、多彩なシートアレンジを実現した。3列目はレバー操作で、床面とフラットに格納できる。
(グレード概要)
日本に導入されるトゥーランは、1.6リッターと2リッターの直噴「FSI」ユニットを積む2グレード。本国にラインナップするディーゼル仕様(1.9と2.0)は導入されない。
グレード間に装備品の差異はほとんどなく、2リッターはフォグランプ、クロームフレール、アルミホイール(1.6はスチールホイール+キャップ)が標準。インテリアは、2リッターにサイドサポートのついたスポーツシート、フルオートエアコン(1.6はセミオート)や本革巻きステアリングホイール&シフトノブ、アルミパネル装飾が備わる。
全6個のエアバッグ、アクティブヘッドレスト、7席ぶんの3点式シートベルトなど、安全装備は全車共通。ESP、EBD付きABS、ブレーキアシストなど、電子デバイスも、グレードにかかわらず標準装備される。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
ゴルフ トゥーランという名前からもわかるように、このクルマのメーターパネルやダッシュボードのデザインは、新型ゴルフと共通のイメージを持つ。よく見ると、新型ゴルフとは細部でデザインが異なるが、高い質感のプラスチックやアルミパネルの採用により、すっきりとしながらも高級感のあるコクピットに仕上がっている。VWデザインの文法どおりだ。
大型の速度計&回転計は、目盛りの部分が立体的なデザインで、ライト点灯時にブルーのイルミネーションで照らされるのが大きな特徴。2つのメーターの間には、シフトポジションや各種情報を表示する「マルチファンクションインジケーター」が、グレードを問わず装着される。
トゥーランのベーシックな仕様、1.6リッターエンジンを積む「E」グレードでも、装備に関しては上級モデルの「GLi」にヒケをとらない。差といえば、本革巻きのステアリングホイールやシフトレバーが省かれたり、エアコンがセミオートタイプになる程度だ。グレードによって安全装備に差をつけないのも、VWの良心といえる。
(前席)……★★★★
サイドサポートの張り出したスポーツシートを装着する「GLi」に対して、Eグレードのシートはコンフォートシート。スポーツシートに比べるとサポートはやや控えめになるが、そのぶんゆったりとした印象だ。それでいて、しっかりした座り心地はいかにもドイツ車という感じである。ヒップポジションが631mmと、乗用車に較べて高いため、オルガン式のアクセルペダルを上から踏みつける感覚に、やや違和感を覚えた。とはいえ、空調のスイッチが大きくて操作しやすかったり、運転席まわりに収納が多いなど、使い勝手は良好である。
(2列目シート)……★★★★
3人分の場所が用意されるセカンドシートは、それぞれが独立してリクライン、スライド、折りたたみ、そして、取り外しが可能。3席並べた状態でも窮屈な感じはない。中央席を外し、両側の席を内側に移動することもできる。横方向の余裕が増すとともに、リクラインの量も大きくなるから、4人乗車ならこの状態が便利だ。両側のシートにはISOFIX対応チャイルドシート用の固定装置が備り、従来のフォルクスワーゲンのモデルより取り付けやすくなったのがうれしい。中央にこの固定装置は用意されないが、ヘッドレストや3点式シートベルトは標準装着される。
(3列目シート)……★★
サードシートはドイツ本国ではオプションだが、日本仕様は全車標準で装着される。2名分のシートはそれぞれ独立して折りたたみが可能で、横方向のスペースは問題ない。だが、足もとに余裕がなく、座面の位置が低いため、どうしても膝を抱える格好となり、大人が長時間乗るには窮屈だ。小さな子供には必要十分なスペースといえるものの、リアタイアからのロードノイズが気になるし、1列目、2列目に比べると上下動が目立つので、車酔いしやすい子供には不向きかもしれない。短距離移動用のシートと割り切ったほうがいいだろう。
(荷室)……★★★★
サードシートを使う場合のラゲッジスペースは、容量121リッターとミニマム。6人以上の荷物を積んで、泊まりがけの旅行に出かけるのは難しいだろう。4〜5人で使うなら、サードシートをフロアに収納するだけで、幅、奥行き、そして、高さとも十分なラゲッジスペースが現れるので不満はない。いざとなれば、セカンドシートを取り外してさらに広い空間を手に入れることもできる。地上からラゲッジスペースのフロアまでの位置が高すぎないのも、使いやすい点だ。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
「アウディA3」が先んじて投入したが、フォルクスワーゲンとしては、日本初導入となるガソリン直噴の「FSI」エンジン。トゥーランEには、排気量1.6リッターの直列4気筒、最高出力116ps/5800rpm、最大トルク15.8kgm/4000rpmのユニットが搭載される。最高出力は、現行「ゴルフLプラス」が積む2リッター直4SOHCエンジン(116ps、17.5kgm)に匹敵するが、低回転域でのトルクが不足気味で、1530kgのボディを発進させるには物足りない。一方、高回転域では、余裕こそないが、必要なだけのパワーは持ちあわせている。ストップ・アンド・ゴーの多い都内よりも、比較的平均速度の高い郊外を走るような人向きのブレードといえる。6段オートマチックはシフトチェンジこそスムーズだが、低回転ではエンジンのトルクの細さをカバーするために、どうしてもシフトダウンが多くなってしまう。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
低速ではやや硬めで、道路の凹凸を拾う傾向のあるトゥーランの足まわり。だが、スピードが上がってくると、フラットさを増し、落ち着いた乗り心地を示すようになる。新採用の電動パワーステアリングは、必要なときだけ電動アシストする構造で、省エネルギーに貢献するはやりの機構。個人的に、低速での操舵力が軽すぎるように思ったが、速度を上げていくと、落ち着いた印象に変わる。高速巡航時は舵のすわりがよく、軽く手を添えるだけで直進を続ける。一方、中立付近のアソビがないので、ステアリング操作に即座に反応する軽快さもある。
新開発の4リンク式リアサスペンションと、改良が加えられたフロント、マクファーソン・ストラットサスペンションのおかげで、従来のゴルフとは一線を画すハンドリングを手に入れたのは、トゥーランの「売り」のひとつ。高速でレーンチェンジをする際でも、ロールを抑えながらきびきびと向きを変えていく様子に、(ゴルフと)トゥーランの進化を見た。
(写真=清水健太)
【テストデータ】
報告者:生方聡
テスト日:2004年2月20日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2004年型
テスト車の走行距離:--
タイヤ:(前) 185/55R1205/55R16(後)同じ(いずれもミシュラン ENERGY)
オプション装備:チルト機構付電動ガラス スライディングルーフ(11.0万円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5):高速道路(5)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション/ルークスX【試乗記】 2025.12.15 フルモデルチェンジで4代目に進化した日産の軽自動車「ルークス」に試乗。「かどまる四角」をモチーフとしたエクステリアデザインや、リビングルームのような心地よさをうたうインテリアの仕上がり、そして姉妹車「三菱デリカミニ」との違いを確かめた。
-
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.13 「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
NEW
ホンダN-ONE e:G(FWD)【試乗記】
2025.12.17試乗記「ホンダN-ONE e:」の一充電走行距離(WLTCモード)は295kmとされている。額面どおりに走れないのは当然ながら、電気自動車にとっては過酷な時期である真冬のロングドライブではどれくらいが目安になるのだろうか。「e:G」グレードの仕上がりとともにリポートする。 -
NEW
人気なのになぜ? アルピーヌA110」が生産終了になる不思議
2025.12.17デイリーコラム現行型「アルピーヌA110」のモデルライフが間もなく終わる。(比較的)手ごろな価格やあつかいやすいサイズ&パワーなどで愛され、このカテゴリーとして人気の部類に入るはずだが、生産が終わってしまうのはなぜだろうか。 -
NEW
第96回:レクサスとセンチュリー(後編) ―レクサスよどこへ行く!? 6輪ミニバンと走る通天閣が示した未来―
2025.12.17カーデザイン曼荼羅業界をあっと言わせた、トヨタの新たな5ブランド戦略。しかし、センチュリーがブランドに“格上げ”されたとなると、気になるのが既存のプレミアムブランドであるレクサスの今後だ。新時代のレクサスに課せられた使命を、カーデザインの識者と考えた。 -
車両開発者は日本カー・オブ・ザ・イヤーをどう意識している?
2025.12.16あの多田哲哉のクルマQ&Aその年の最優秀車を決める日本カー・オブ・ザ・イヤー。同賞を、メーカーの車両開発者はどのように意識しているのだろうか? トヨタでさまざまなクルマの開発をとりまとめてきた多田哲哉さんに、話を聞いた。 -
スバル・クロストレック ツーリング ウィルダネスエディション(4WD/CVT)【試乗記】
2025.12.16試乗記これは、“本気仕様”の日本導入を前にした、観測気球なのか? スバルが数量限定・期間限定で販売した「クロストレック ウィルダネスエディション」に試乗。その強烈なアピアランスと、存外にスマートな走りをリポートする。 -
GRとレクサスから同時発表! なぜトヨタは今、スーパースポーツモデルをつくるのか?
2025.12.15デイリーコラム2027年の発売に先駆けて、スーパースポーツ「GR GT」「GR GT3」「レクサスLFAコンセプト」を同時発表したトヨタ。なぜこのタイミングでこれらの高性能車を開発するのか? その事情や背景を考察する。






























