ボルボV70ブラックサファイア(5AT)【試乗記】
クール&ジェントル 2003.12.25 試乗記 ボルボV70ブラックサファイア(5AT) ……456.0万円 「ブラックサファイア」というベタな名前がウレシハズカシの「V70」800台限定特別モデル。2004年度のスタートダッシュがかかった黒いボルボに、『webCG』コンテンツエディターのアオキが乗った。
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モノトーン調ボルボ
「恥ずかしいくらい映り込むなァ」と、カメラマンのミネさんが苦笑いする。ホテルのプールサイドで、黒いボルボのエステートを撮影している。あいにくの雨のなか、水滴が転がるサイドボディに、それでも自分の姿が映ってしまうというのだ。
大丈夫、ミネさん。ばっちりキマってますよ……クルマが。
2003年12月18日に発表された800台の限定モデル「ボルボV70BLACK SAPPHIRE」のプレス試乗会が、大分県で開催された。その名の通り「ブラックサファイアメタリック」という黒く、しかし発色のよい華やかな色にペイントされた特別仕様車で、ノンターボの2.4リッター5気筒エンジン(140ps)を積むベーシックな「V70」をベースモデルとする。
前後パンパーおよびサイドをチタニウムグレーのモールでモノトーン調に飾り、足もとはブラッククロームの17インチ「Thor(トゥール)」ホイールでしめる。薄く巻かれるのは、225のヨンゴータイヤ。
そのほか「バイキセノンヘッドランプ」「フロントフォグランプ」「ルーフレール」を装着、インテリアにレザー内装、アルミパネル、そして8スピーカーのCD/MDハイパフォーマンス・オーディオシステムを奢って、車両本体価格は455.0万円。
ちなみに、“素”のV70(400.0万円)に、メーカーオプションの「レザーパッケージ(本革シート+革巻ステアリングホイール+運転席パワーシート+メタリック塗装)」を選択すると426.0万円である。
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黒いV70でスタートダッシュ
ホテルの駐車場に試乗車が並ぶ。ブラックタイ姿のボルボが何台も。
今回の特別仕様車のテーマは「Modern Scandinavian Design in Shiny Black」なんだそうだが、それはともかく、“クールな北欧”といえば、いままで同郷の自動車メーカー「サーブ」にその印象が強かったが、四角四面だったボルボも、すこしずつ角がとれ、世慣れてきた。
もっとも、商売のほうでは以前から自他とも認める(?)手練れで、けっして多くないモデルラインナップを上手にやりくりして、消費者のボルボへの関心を途切れさせない。絶妙なスペシャルバージョンを創造して、個々のモデルの鮮度を可能な限り落とさない。“ヒトとは違うV70”で“都会派”を気取りたい(潜在)ボルボファンには、今度のクロボルボの登場は、「待ってました!」といったところだろう。
試乗前のブリーフィングで、「……(販売台数では)プジョーにお尻をカジられそうですが」とボルボスタッフの方が言ったあとに提示した資料が、300万円以上のプレミアムステーションワゴンの市場動向。ボルボV70は、BMW3シリーズ、アウディA4、メルセデスベンツCクラスのそれぞれワゴン版を抑えて……は、まぁ順当なれど、「トヨタ・クラウンエステート」の2倍近い5815台を売っている(2003年1-10月)のにはビックリ。もちろんボルボの方は口にはしなかったけれど、「小商いのプジョーとは土俵が違う」と言いたかったに違いない。もっと品のいい言葉で。
2003年1-11月間のいわゆる純輸入車市場において、ボルボは、フォルクスワーゲン、メルセデスベンツ、BMWについで、第4位。登録台数はビーエムの半分以下だから、ドイツ御三家とはだいぶ水を空けられているけれど、セカンドグループの先頭を競りながら、健闘している。
なにはともあれ、V70ブラックサファイアで、2004年度のスタートダッシュを決めたいボルボジャパンである。
加速と乗り心地
ブラックサファイアの運転席は、8wayのパワーシート。アイボリーとオフブラックを組み合わせたインテリアは、外観によくマッチしていて、北欧的にカッコいい。クール!
ところが、エンジンをかけて、走り始めると、「ああ、ボルボだなぁ」と可笑しくなる。1991年デビューの「850」以来の5気筒は、ココロして回すとそれなりにスポーティなサウンドを発するのだが、普通の街乗りでは、くぐもった声でノンビリとボディを追い立てるだけ。「1560kg+3人乗車+機材」に140psだから、絶対的な加速力は“それなり”である。
一方、「ずいぶんとよくなった」と感じるのが足まわりで、17インチを履きながら、かつてのT5Rのような「穏和なスカジナビアン変じて暴れん坊に」的なオモシロさ……じゃなかった、アンバランスさがなくなった。たしかに路面によっては乗り心地がゴツゴツするけれど、格段に上がったボディ剛性の恩恵で、安心してドライブできる。
ちょっと気取っているけれど
ブラックサファイアは、本国ボルボのSV(スペシャル・ヴィークル)というディヴィジョンで企画されたそうで、日本以外でも同じ内外装でデリバリーされる。ただし、モデルの位置づけは各国のボルボに任されていて、ターボを積んでスポーティバージョンと定義する市場もあれば、カタログモデルに組み込むところもあるという。個人的には、「スペシャルな外観に合わせて“速い”V70にした方がいい」と考えたが、ボルボジャパンは、ターボモデル「T-5sport」との喰い合いを嫌い、また、価格を抑えて販売台数を重視したわけだ。
「やまなみハイウェイ」は適度なカーブが次々と現れる素敵なドライブコースで、黒いボルボで流すのが楽しい。別府に向かう途中では、温泉地らしく、蒸気がたちこめていたりする。ボルボのいいところは、いかなるときでもドライバーをせき立てないことで、ステアリングホイールを握りながら、外の景色を楽しめる。もちろん、前方に注意しながら。
ブラックサファイアは、ちょっと気取っているけれど、「退屈」を「リラックス」に変えるV70の特徴を、しっかり備えた特別仕様車だ。見かけは「クール」だけど、運転すると「ジェントル」であたたかい。
(文=webCGアオキ/写真=峰 昌宏/2003年12月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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