ダイハツ・タントL/タントR(FF/4AT)【試乗記】
逆転への具 2003.12.08 試乗記 ダイハツ・タントL/タントR(4AT/4AT) ……104.3万円/127.5万円 軽NO.1のスズキに追いつけ、追い越せのダイハツが、スペース効率を重視したニューモデル「タント」を発表した。千葉県は幕張で開かれたプレス向け試乗会で、「ムーヴ」をベースにつくられた軽ミニバンに『webCG』記者がちょい乗り。イイとこ取り
ダイハツのニューモデル「タント」は、同社いうところのコアモデル「ムーヴ」をベースに、室内スペースを最大限に確保したモデルだ。軽には、「アトレー」やスズキ「エブリィ」、スバル「サンバー」など、商用車ベースの“ワンボックス”は存在するが、タントはFF乗用車ベース。本格的な(?)ピープルムーバー、もしくはミニバン、である。
ダイハツのエンジニアの方は、こんなことを言っていた。
たとえばアトレーの荷室は広いとはいえ、乗員より荷物優先のパッケージングのため、前席スペースがフロントに押しやられ、ドライビングポジションはトラックのようなハンドルを抱え込む姿勢になりがち。積載量が大きいからリアサスペンションは硬く、乗り心地も悪い。そもそも後輪駆動のため、ドライブシャフトが通る床面は高い。それに、なによりスタイリッシュじゃない。ムーヴのような乗用軽は、乗員スペースは十分な一方、荷室が小さく、特に奥行きの狭さがタマにキズだった。FF乗用車ベースのタントを、商品開発スタッフは「商用と乗用のイイとこ取り」と主張する。
とはいえ、ボディサイズに制限のある軽自動車ゆえ、縦横寸法を大きくすることはできない。タントのボディサイズは全高のみムーヴより95mm高い、全長×全幅×全高=3395×1475×1725mmである。ピョコンと背の高いデザインからは、働くクルマの雰囲気は感じられない。短いボンネットやボディ上半分を占める広いグラスエリアなどにより、ホンダ「モビリオ」やフィアット「ムルティプラ」に近い、楽しげなクルマに見える。
“軽最大級”を謳うホイールベースは、ムーヴ比50mmも増加した2440mm。ムーヴもキャビンを大きく採るため、ボディのギリギリにタイヤを配置したが、タントではさらに、前輪を30mm、後輪は20mm前後へ移動させたのである。リポーターは新型ムーヴを見て、「前後オーバーハングほとんどなし」((http://www.webcg.net/WEBCG/news/000012170.html))と思ったが、まだ余裕が残されていたとは……。
そのうえで、エンジンルームと室内を隔てるインパネ裏の構造部材を縮小。ダッシュボードの張り出しをムーヴより抑え、室内長を80mm延長した。2mの室内長は、2リッターセダンに匹敵するという。もちろん、“軽最大級”である。
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2度ビックリ
タントのラインナップは、0.66リッター直3自然吸気エンジン(54ps)が「L」「X」「Xリミテッド」、ターボ(64ps)には「R」と「RS」、合計5つのグレードを設定。いずれもFFと4WDが用意され、FFに4AT、4WDには3ATが組み合わされる。基本的に、ムーヴからの流用だが、約50Kg増加した重量に対応するため、NAトランスミッションの最終減速比がやや加速重視に設定される。
まず、NA/FFの「L」に乗った。車両価格が99.8万円の、もっともベーシックなグレードで、ドアミラーがブラックになるほか、エアコンがマニュアル式となる。
ムーヴ同様、90度まで大きく開くドアを開けて乗り込む。95mm高くなったおかげで、乗り込む際に頭をブツける心配はいらず、たとえば、雨の日に車内へ駆け込んだりするにも便利だろう。そして室内は、広い。切り立ったAピラーからの眺めは、乗用車というよりバスのようで、頭上の余裕も手伝って開放感は抜群だ。フロントクォーターウィンドウは、デザイン上も見切りのよさにも貢献する。ひさしや出っ張りのないプレーンなダッシュボード中央にメーターが収まり、前席乗員の視界をさまたげるモノがないのも、クルマっぽくない雰囲気を醸し出す。
リアシートは、ビックリするほど広かった。スライド量は、ムーヴより10mm増えた260mm。一番後ろまでスライドさせると、膝前に拳5個以上も余裕があり、足を投げ出して座ることができる。さらに荷室にビックリ。ムーヴの場合、リアシートが一番後ろにあると、『webCG』が荷室撮影に使うプリマクラッセの帽子ケースが荷室からはみ出たが、タントは積み込めたのだ。
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小気味よい
ホイールベースが延び、重量が増えたことにより、乗った感じは“ゆったりしたムーヴ”。リアサスペンションが、ムーヴより硬めに設定されたというが、まったく気にならない。図体が大きくなったとはいえ、加速重視のギア設定により、60km/hくらいまで小気味よく走るから、街なかの動力性能に不満はない。
次に、ターボのベーシックモデル「R」に乗った。ムーヴのNAとターボモデルは、ボンネットにエアインレットを設けるなど、外観上の差別化が図られるが、タントの場合はまったく同じ。見分けるのはタイヤサイズをチェックするしかない!?
中低速トルクを重視したターボチューンにより、「カメラマン+撮影機材」を積んだ状態でも、80〜100km/hまでストレスなく加速し、背高ボディから想像されるより速い。荷室の拡大で、「4人乗車+荷物」が現実的になったタントをフル活用するには、ターボエンジンがちょうどいい。
試乗を終えて、開発スタッフの方と食事を摂りながら、タントのターゲットユーザーについて聞いた。商品企画スタッフいわく、最近の不況とユーザーの割り切り、さらに軽自動車のクオリティアップによって、RVや登録車から軽への乗り換えが増えてきたという。そのうえで、タントを「広いクルマになれていらっしゃる、新しいお客様に訴求したい」。
ムーヴは、“カッコイイ系”を求めるお客さまが多く、売れスジモデルの価格も120万円前後と高め。タントは、もっと実用本位のユーザーを取り込みたい。目論見どおり、新規顧客を開拓し、しかもムーヴと食い合うこともなければ、メーカーにとって願ってもないことだろう。ハイトワゴンでは、スズキ・ワゴンRに先を越されたが、タントでは先んじたことに触れると「軽にこのカテゴリーはありませんから」と笑顔。「販売台数も迫ってきましたからね……」とつぶやいた。
スズキとダイハツ、乗用軽の販売台数は、01年がスズキ約40万台、ダイハツは36万台。02年は42万と36万だったが、03年1月〜10月までは、スズキの22.3万に対し、ダイハツ21.4万と肉薄している。2003年11月単月は、2万7178台と2万9129台である。
(文=webCGオオサワ/写真=峰昌宏/2003年12月)

大澤 俊博
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