日産フェアレディZロードスター・エンスージアスト(6MT)【海外試乗記】
ニュルブルクリンクとは別方向 2003.10.28 試乗記 日産フェアレディZロードスター・エンスージアスト(6MT) 北米の、日本の、そして世界のエンスージアストが待望していた“ズィーカー”こと日産フェアレディZ。発売時の熱狂が一段落した時分、燦々とふりそそぐ太陽光が嬉しい「Zロードスター」が登場。ジャーナリストの桃田健史がロサンゼルスで乗った!デザインのキーポイント
「350Z」。フェアレディZを、NNA(Nissan North America)ではそう命名した。しかし巷では、単純に「Z」と呼ばれることが多い。それも「ゼット」ではなく、いかにもアメリカンイングリッシュ的に、「ズィー」と発音されている。
ご存じのように、ズィーカーこと「日産フェアレディZ」復活のきっかけは、アメリカにあった。カリフォルニア州サンディエゴ郊外にあるNDA(Nissan Design America)。彼らの夢の再現作戦は、全米のZオーナーズクラブなどからの強力なバックアップを受け、独自開発のコンセプトモデルを完成させるに至る。その熱いプレゼンテーションが、リバイバルプランを掲げてニッサンの将来像を模索していた仏日経営陣の心を「GO」へと導いた。新生フェアレディが2002年7月30日に発表されてからの内外の熱狂ぶりに、改めて触れる必要はないだろう。
そして、「Z」にはオープンボディがよく似合う。2003年夏、フェアレディZのソフトトップバージョンが「350Zロードスター」と命名され、アメリカ市場でデビューを飾った。
2003年4月、ニューヨークモーターショーでメディアへのお披露目があった。その際、ニッサンのデザインを統括する中村史郎常務は筆者に対して、「クーペとはまったく別モノとして扱っています。ですから、2車を同時進行でデザインすることはしませんでした」と語り、ロードスターの独立性を強調した。エクステリアデザインで最も気にかけたのは、ドアの後方の縦ラインと垂直に交差する、幌開閉ハッチのつなぎ目部分だったという。
約16秒でロードスターに
ニッサン350Zロードスターを、カリフォルニア州ロサンゼルスでテストする機会を得た。北米では、ベーシックグレード「エンスージアスト」と上級版「ツーリング」がカタログに載り、今回、ステアリングホイールを握ったのは前者である。
先行してリリースされたズィーカーのクーペは、前後のライト位置が高く、フロント、リアとも、タイヤハウスが大きく張り出すグラマラスなボディをもつ。350Zロードスターを前にすると、ルーフを思い切ってカットしたことによって、「車全体上部への無限大のボリューム感が生まれた」ように感じた。
インテリアは、クーペのそれを継承する。だが、Tスポークのデザインを採るステアリングホイールやシフトレバーなどのシルバーカラー部に太陽光線を直接受けると、クーペとは違ったインパクトを受ける。Z“ロードスター”ならではの醍醐味である。
意外と背の高いボンネットを開けると、その中央に3.5リッタ−V6DOHC「VQ35DE」ユニットが収まる。ヘッドカバーを大きく跨ぐように、ストラットタワーバーの姿。米国仕様の最大出力は287ps/6200rpm、最大トルクは37.9kgm/4800rpmとなる。トランスミッションは、もちろん5スピードのオートマチックも用意されるが、試乗車は6MTだった。
さて、ロードスターの存在意義は当然のごとく、幌開閉装置。その作動手順を追ってみる。サイドブレーキを引き、フットブレーキ踏み、センターコンソールの真上に位置するストッパーの中央を軽くプッシュして、ソフトトップのロックを解除。ステアリングホイールの斜め左下側、トラクションコントロールON/OFFスイッチの左側に位置する「開閉スイッチ」を、上のOPEN側にカッチリと押し続ける。すると、左右窓が全開し、助手席が5cmほど前傾。リアハッチがワァーンと直角まで立ち上がり、幌後部がクチャッと畳まれたかと思うと、頭上の幌がリアへ吸い込まれていく。一連の動作が終了すると同時に、助手席のリクライニング角度は復元される。作動時間は窓の開閉時間の除くと(作動前に全開状態の場合も多いため)16秒ほどで完了する。作動中のモーター音などは決して大きくはない。
豪快かつ華麗
350Zロードスター最大の魅力は、サウンドエンターテインメント。室内オーディオシステムのことではない。ロードスター本体から湧き出してくる、音のクリエーションのことだ。
スターターを回し、エグゾーストがドライバー直下を駆け抜けて行く。「クワァーン」と、刺激的演出の度合いが大きい。そして、走り出す。
2000-3000rpmではマフラー音よりは、「シュキーン」とレーシィなトランスミッションサウンドが先行する。エンジンからリアタイヤにいたる、駆動系自体の音が静かとはいえないのだが、ことスポーツカーの場合、それが大きな欠点とは感じない。
つづく3500-4000rpmでは再び乾いたエキゾーストサウンドが目覚める。5000rpm超までスムーズに回る、3.5リッターV6にしては軽いタッチの回転フィールが心地よい。ただし、あまりに酔いしれてシフトアップを怠ると、レッドゾーン開始の6600rpmでの、派手なリミッターサウンドでわれに返る。ちなみに、眼前の回転計は、8000rpmフルスケールタコメーターである。
ひとつお断りしておきたいことがある。Zロードスターを含めて、「350Z」の真のライバルは「シボレー・コーベット」だ。事実アメリカでは、コーベットの市場(乗換え需要と購入希望層)を「350Z」が激しく荒らしている。日米の自動車メディアでは、(日産の開発陣が公言したこともあり)ライバルとして「ポルシェ・ボクスター」を挙げてきた。そのため、ニューZは、辛口の自動車評論家諸氏からは、「大味」だと手厳しい批判を受けることが多かった。
だが現実には、新しいフェアレディは、ボクスターとコーベットの真ん中より、かなりコーベット寄りを意識して商品開発されてきたと思える。ガッシリと重みのあるステアリングは、フリーウエイでの安定したライントレースを。中回転域でのたっぷりトルクを味わいながら、少々重めのクラッチを踏み込み、カチカチというより、ドッカンドッカンを豪快にぶち込むシフト感。まさに“男の乗り物”といえる。(と思うのだが、道ですれ違う350Zには女性の姿がやたらと多い。AT仕様も多いと思うが、アメリカ人女性は力強い!?)。
Zロードスターは、ボディ補強のためクーペに比べて約100kg重いが、重量バランスがいいのだろう、低速コーナーでの旋回性は、むしろクーペより優れている印象さえ受けた。「ニュルブルクリンク信仰」とは別の方向性の、グランドツーリング路線を採る「350Zロードスター」は、最近では珍しい、豪快かつ華麗な日本車だ。
(文=桃田健史/2003年10月)

桃田 健史
東京生まれ横浜育ち米テキサス州在住。 大学の専攻は機械工学。インディ500 、NASCAR 、 パイクスピークなどのアメリカンレースにドライバーとしての参戦経験を持つ。 現在、日本テレビのIRL番組ピットリポーター、 NASCAR番組解説などを務める。スポーツ新聞、自動車雑誌にも寄稿中。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。