【スペック】全長×全幅×全高=4615×1815×1430mm/ホイールベース=2715mm/車重=1650kg/駆動方式=4WD/2.5リッター直5DOHC20バルブターボ・インタークーラー付き(300ps/6000rpm、35.7kgm/1850〜6000rpm)/車両本体価格=615.0万円(テスト車=650.0万円/18インチアルミホイール=25.0万円/メタリックペイント=10.0万円)

ボルボS60R(5AT)【試乗記】

ヤルときゃやる 2003.06.29 試乗記 大澤 俊博 ボルボS60R(5AT) ……650.0万円 フォードグループの“プレミアムメーカー”ボルボのハイパフォーマンスシリーズ“R”に、第2弾が登場した。電子制御シャシーに300psを発するパワーユニットを組み合わせたセダン「S60R」に、『webCG』記者が箱根で乗った。


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エンジンは、KKK社製ターボをアドオン。合計2個のインタークーラーや、吸排気系の両方にバルブコントロール「CVVT」が備わる。

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安全と走りを両立

“フライング・ブリック”なんて懐かしいアダ名もあったけれど、ボルボといえば“草食動物系”のイメージが強い。でも、怒ったゾウにはライオンも太刀打ちできないように、ノンビリ草をはんでいてもヤルときはやる。むしろ、そうなると手が付けられないくらい強い。ボルボのハイパフォーマンスモデル「S60R」に乗って、リポーターはそんな風に感じた。

「S60R」はワゴン版「V70R」とともに、2002年の「パリサロン」で発表された。1995年に台数限定でつくられた「850T-5R」に継ぐ「Rシリーズ」の第2弾。BMWの「M」、アウディにおける「S」または「RS」や、フォルクスワーゲンの「Rライン」に相当するスペシャルバージョンである。
搭載されるツインターボの2.5リッター直5は、“ボルボ史上最強”という300ps/6000rpmの最高出力と、35.7kgm/1850〜6000rpmの最大トルクを発生。ギアトロニック付き5段ATと組み合わされ、電子制御多板クラッチで前後にトルクを配分する、つまりヨンクである。
日本では、2003年5月22日から販売が開始され、S60Rは200台、日本で人気の高いエステート版のV70Rは700台が販売される(の予定だったが人気が高かったため、6月20日にV70Rのみ、150台追加されることが発表された)。

しかし、Rを“R”たらしめるのは、300psのエンジンよりも、「FOUR-C」と呼ばれるシャシーコントロール技術にある。これは、ダンパー内部のバルブを電子制御して減衰力を変化させる、いわゆる「アクティブサスペンション」で、ボディ各部の動きや舵角、アクセル開度などをモニターし、状況に応じた最適な減衰力を選択するシステムだ。「CONFORT」と「SPORT」、そして「ADVANCED(MORE SPORT)」という3つのモードを、センターパネル上部のスイッチで選択できる。さらに、車両を安定させるDSTCと連動し、ボルボのフィロソフィー「安全」と“R”の走りを両立させたと謳われる。



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これがFOUR-Cのモード切替スイッチ。コンフォートとスポーツはインジケーターがグリーンだが、アドバンスドのみオレンジ色を使う。電子デバイスは、他に車両安定性を高める「DSTC」が備わる。

これがFOUR-Cのモード切替スイッチ。コンフォートとスポーツはインジケーターがグリーンだが、アドバンスドのみオレンジ色を使う。電子デバイスは、他に車両安定性を高める「DSTC」が備わる。 拡大

「ありえない」感覚

試乗会の基点となったホテル駐車場に並ぶ「R」は、一見すると街を走る“普通の”ボルボと変わらない。空力向上とエンジン冷却を主目的に、フロントマスクには専用デザインが与えられ、“R”の刻印が打たれたアルミホイールに薄いタイヤを装着する。が、エクステリアは総じて“おとなしい”感じ。ノーマルと較べて全長が40mm長く、前後トレッドが5mm拡大されてはいるが……。
運転席に座っても、印象は変わらなかった。しっとりした艶のある「ダークブルー」のスポーツシートは、確かにサイド&ショルダーサポートが張り出してはいるが、ボルボらしいユッタリサイズで、座り心地は柔らか。盤面が青く輝く専用メーターパネルも上品だ。シートカラーはこれと「ベージュメタリック」に加え、最高級レザーを用いた「ナチュラルアリニン」が、20.0万円のオプションで用意される。一方、325Wアンプ+13スピーカーを備えるオーディオをはじめ、“プレミアム”なアイテムにはコト欠かない。

まずは、コンフォートモードで、西湘バイパスを経て箱根ターンパイクに向かう。300psとはいいながら、1850rpmの低回転から6000rpmまで、35.7kgmものトルクを紡ぎ出すフラットトルクにより、粛々と走れば普通のボルボそのもの。一方、スロットルをガバっと開ければ、0-100km/h=5.7秒のスペックを痛感できる、強大なトルクによる加速が味わえる。しかも、FOUR-Cは1秒間に500回の頻度でダンピングを調節し、加速時のスクワットや減速時のノーズダイブをリアルタイムで押さえる。AWDシステムがトルクを4輪に配分。トルクステアを感じることも、クルマが暴れるそぶりも見せない。
継ぎ目の段差がヒドいことで有名な(?)西湘バイパスだが、FOUR-Cは、従来のS60と次元が違う乗り心地を提供してくれた。235/40ZR18サイズの超スポーティタイヤを履くため、突き上げはやや感じるが、4つのサスペンションがボディを常にフラットに保つ。リポーターが今までに乗ったボルボでは「ありえない」感覚である。

軽量スポーツカーのよう

スポーツモードでも、コンフォートと乗り心地はそれほど変わらない。この2つのモードは、ボディをフラットに保つ、つまり乗り心地方向に振った「スカイフック制御」(バネ下だけが動き、ボディを揺らさない)を行うためだ。

しかし、よりスポーティなアドバンストモードに入れたとたん、まさにスイッチを入れた瞬間に、状況は一変した。アドバンストはタイヤの路面追従性を追求し、乗り心地は考慮されない。まるで、足をガチガチに締め上げた軽量スポーツカーのように、段差の継ぎ目をビシバシ拾い、ボディ全体が揺すぶられる。同時に、シフトパターンが高回転を使うスポーツモードに、エンジンマネージメントはアクセルに敏感に反応するセッティングに変わり、1650kgの車重が100kgほど軽くなったかのようにイキイキと走り出す。山道でコーナーに飛び込めば、先の2つのモードからは想像もできず、失礼ながらボルボとも思えないほど機敏な動きで走りまわり、コーナリングが想像以上に速い! 面白い! ボルボに馴染んだ人ほど、この豹変振りに驚かされるのではないだろうか。

興味深いのは、リアルタイムでダンピングを制御するFOUR-Cは、コンフォートとスポーツでも、ハンドルの切り方やコーナリングスピードでシャシー特性を変えること。安楽なコンフォートでも、勢いよくステアリングを切れば、即座にサスペンションが調節され、ドライバーの意思に合わせてスパっと曲がる。それでいて、ロールを抑えたフラットライドを崩さず、知らぬ間に“普通のボルボ”に戻っている。エキサイティングと安全、快適を両立した、というボルボの主張は、確かに実現されていると思った。

台数の限られた“R”シリーズだが、ボルボの広報氏によれば売れ行きはかなり順調。既存の“R”オーナーで、新型を待っていた人が多いため、そのほかの人にはなかなか行き渡らないかも、というのが、ボルボのウレシイ心配だ。

(文=webCGオオサワ/写真=清水健太/2003年6月)

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