ボルボXC90 2.5T AWD/T6 AWD(5AT/4AT)【海外試乗記】
ボルボの4WDシステムに関する考察 2003.02.13 試乗記 ボルボXC90 2.5T AWD/T6 AWD(5AT/4AT) ボルボのフラッグシップ「S80」をベースとした同社初の本格SUV「XC90」。ボルボ独自のセイフティ機構が組み込まれたそのクルマは、4WDに関しても、従来のビスカスカプリングに変え、電子制御多板クラッチを用いる「ハルデックスユニット」を採用した。自動車ジャーナリスト、笹目二朗によるレポート。
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微小回転差域での伝達率
ボルボ初の本格SUV「XC90」は、4WDシステムとしてハルデックス社の電子制御による駆動力分配ユニットを用いる。ボルボのこれまでのAWD(All Wheel Drive=4WD)は、ビスカスカプリング(VCU)を使用していたが、2003年モデルからは、「V70クロスカントリー」も「XC70」と改名されて、このハルデックス型を使うことになった。
ハルデックスユニットとVCUは、どちらも前輪がスリップした時にその回転差分のトルクを後輪に配分する。いわゆる「スタンバイ」4駆である。FF(前輪駆動)ベースの4WDの場合、駆動輪にエンジンをはじめとする駆動系の重さが接地荷重として作用するから、通常95〜100%は前輪を駆動するトルクとして使われる。ボルボがVCUからハルデックス型に変更したのは、後輪へトルクを移すレスポンスを重視したため、と説明される。
ハルデックス型とVCUの違いはトルクの伝達方法で、前者は多板クラッチを電子制御によって圧着させ、後者は粘断特性を利用する。ハルデックスユニットは、前輪の、1/7回転といわれる微小のスリップによっても油圧ポンプが作動し、多板クラッチを圧着させる。電子制御といっても、このオン/オフする圧着部分を制御しているに過ぎない。が、たしかに泥や氷のようにミューが低い路面では、立ち上がりの早い方が後輪に駆動力を伝達するありがたみがある。
一方、ビスカスカプリングは、目に見えるほど空転が大きくならないと作動しないかにみえる。しかしこれも特性を理解した使い方をすれば効果は大きい。VCUの粘性抵抗は回転差ゼロのところからの連続性があるからだ。ところが、ハルデックスは、回転差ゼロのところは真にまったくゼロ。後輪の駆動力が「0」か「50」(直結)しかない「オン/オフ」型である。この微小回転差域での伝達率が、両者の特性の違いである。
VCUの使い方として成功例を挙げるならば、「ポルシェ911ターボ」や「カレラ4」、そして「ランボルギーニ・ムルシエラゴ」がある。彼らはビスカスカプリングの特性を理解し、回転差感応型であるそれを積極的に利用すべく、タイヤサイズを前後で変えるなど、最初から回転差を与えて使用している。つまり、常にわずかながら駆動力を(ボルボとは反対に)前輪にも伝え、フルタイム4WDとして、強大なトラクションを安定して路面に伝えているわけである。
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ハルデックスユニットの気になるところ
「ボルボは4WDに何を求めるのか?」という観点から機構の変更をおこなった理由を考えると、緊急脱出時の容易性を求めたためと考えられる。ハルデックス型は操縦性に寄与しているとは思えないからだ。
XC90のステア特性は、前輪が滑っている状態はアンダーステアであり、その状態で後輪からの押す力が加われば、更にアンダーを強めるだけだ。そのアンダーをステアリング操作や故意にパワーを与えることにより、なんとかリバースさせたとしても、オーバーステアに至る前に後輪への駆動力は断たれてしまう。よって旋回を助ける方向にはない。
試乗会ではムース(ヘラジカ)回避テストとして、緊急回避的な車線変更を試す機会があった。ボルボの誇るDSTC(基本的に「ESP」同様、各輪のブレーキを個別に電子制御する)には、ロールオーバー(転倒)に対する危険予知を感知し、敢えてアンダーステアに導くよう、ブレーキで制御するプログラムが組み込まれている。DSTCで使うジャイロのアウトプットには、ヨー成分(回転方向)だけでなく、ロール成分も取り出せるからそれを利用しない手はないからだ。
たしかに急激なハンドル操作によって、故意に高い横Gを発生させても、XC90が転倒する不安はまったくなかった。ところが、転倒を逃れた後の次の操作として、元の走行レーンに戻ることはできなかった。DSTC、4WDシステムともに、アンダーステアを強くする方向にあるからだ。こうなるとアンダーステア化は必ずしもすべてに安全とはいいがたく、むしろ2舵目で相当に速度は落ちているから、スピンさせるくらいにオーバーステアを強め、強制ブレーキでその場に停止させてしまう方が安全とも思われた。
もうひとつ、ハルデックスユニットを搭載したXC90をテストしていて、気になる点があった。直進及び微小に蛇行するような、路面のミューが低い状態での安定性を観察すると、ハルデックス型のオン/オフによる悪影響が見られたのだ。クルマがチョロチョロして、直進性が悪い。これは、多板クラッチのレスポンスを上げれば上げるほど顕著になると思われる。ハルデックス型の不連続性の特徴が、悪い方向に出たわけだ。ちなみに、ボルボ以外のハルデックスユニットを搭載した別のクルマでも、同様の現象を経験した。
FF仕様もある
思うに、自動車技術者は「電子制御」という言葉に弱いのではないか。何でもやってくれる魔法の技術のように思っているフシがある。メカでは不可能な部分を滑らかに繋げるとか、利用法を考えないで最初から全部を頼りにすると、無理な面がでてくる。ハルデックス型のすべてを否定する気はないが、XC90においては、自動車技術の根本に立ち返って、さらなるチューニングを期待したいと思う。
ボルボの偉いところは、そうした弱点も自覚しているようで、このXC90の場合にも、ちゃんとFF仕様が用意されている。SUVとしての特徴はそのまま残してあるから、前輪だけで駆動している事実を素直に認める人にとって、動きだしてしまえば、FF仕様は4WDモデルより100kg以上軽い重量による軽快な運動性能が約束されている。
(文=笹目二朗/写真=ボルボカーズジャパン/2002年10月)

笹目 二朗
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