マツダRX-8(6MT)【海外試乗記(後編)】
断崖絶壁もコークスクリューも怖くない! 2003.01.23 試乗記 マツダRX-8(6MT) デトロイトショーで市販モデルが披露された「マツダRX-8」。“4ドア4シータースポーツ”を謳うロータリーモデルはどうなのか? 自動車ジャーナリスト河村康彦による「RX-8試乗報告」後編は、北米はラグナセカレースウェイでのテストドライブ!
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ロータリーらしさ
「マツダRX-8」の国際プレス試乗会は、コークスクリューで知られる北米カリフォルニアはラグナセカレースウェイで行われた。テスト車として用意されたのは、左ハンドル/ヨーロッパ仕様の「RX-8」。
低いボンネットフードに収まった2ローター・ユニットに火を入れる。ロータリーエンジン特有の、圧縮を感じさせない、何となくけだるいクランキング(クランクシャフトはないけれど……)というプロセスはあい変わらずだ。
エンジンが始動すると、そのサウンドは想像していたよりダイレクトに耳に届く。周波数成分をチューニングし「心地よいサウンドになるよう心がけた」というだけあって、たしかにそのドライな音色は、これまでの歴代ロータリーエンジン搭載車のなかで、最も澄んでいる印象。ちなみに、すくなくともドライバーズシートに座っているかぎり、排気音の方はあまり意識にのぼらない。ただし、日本は加速時の車外音量の規制が特に厳しいといい、(6MT車の場合の)測定ギアである第3速のギア比を、欧米仕様車に対してわずかにハイギアード化することでエンジン回転を下げる細工が施されている。
「日産シルビア」や「トヨタ・アルテッツァ」用と基本構造を共にするというアイシンAI社製の6段MTで第1速ギアを選び、ちょっとばかり妙なループ型デザインのハンドブレーキ・レバーを下げてから、ごく一般的な重さのクラッチペダルをエンゲージしてスタート。クラッチワークに気を遣うというほどではないが、やはりスターティングトルクは強大とはいえない。
短いシフトレバーはスポーツカーらしく手首の動きで操作ができるし、その位置も適切だが、素早いシフトではときに引っかかり感があったのはちょっと残念。微低速走行時にアクセルの「ON-OFF」を繰り返すと、ガクガクとスナッチ現象が生じる“ロータリーらしさ”(?)も、レベルは穏やかになったとはいえ、完全には克服されていなかった。
1万1000rpmにしなかったわけ
センターピラーレス構造ゆえ、ボディの剛性感を心配する人がいるかもしれない。が、その点は「まったく問題ナシ」と報告できる。RX-8のボディ剛性感は、最新のスポーツカーと呼ぶにあいふさわしい水準にあり、それもあってか乗り心地も悪くないのだ。サスペンションのストローク感はあまりないが、フラット感はそれなりに演じられ、バネ下の動きも走り出した瞬間から軽やか……と、そんな感触だ。
足まわりはダンピングよく、振動の収束はなかなか素早いのだが、しかし路面状況によるロードノイズの変化が過敏気味。周波数によってはキャビン内で共鳴することがあり、快適性を損なう傾向がある。ブリヂストンのポテンザRE040タイヤは、50km/h以下ではパターンノイズが大きめだ。せっかく気合いを入れて共同開発したというBOSE製オーディオが発するサウンドを堪能するためには、もう一歩、静粛性の面で頑張ってほしい。
アクセルペダルを踏み込むと、大幅なリファインが施された13B型ユニットは、スムーズに回転を上げる。低いギアではレブリミットが引かれた9000rpmまで苦もなく回る。が、7000rpm付近から上は何となく排圧が高いようなフィール。パンチ力という点で、ターボパワーに慣れてしまった人には、ちょっと物足りなく感じるかもしれない。
ちなみに、ロータリーユニット自体は、まだまだ高回転化が可能で、1万1000rpm(!)程度まで回すことで、さらにパワーのアップするポテンシャルが残されているという。それを行わなかったのは、そこまでの高回転化を行うと、「発電機や空調コンプレッサーなどの補器類の耐久性に不安が生じるため」とのこと。ATと組み合わされるのが、より低回転で“打ち止め”になる「スタンダードパワー」エンジン搭載車のみなのも、同じ理由だそうだ。
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ちょっとガッカリ
ハンドリングはさすがに軽快だ。前後重量配分やヨー慣性モーメントの最適化に留意した「フロントミドシップ・レイアウト」による、いかにも軽い身のこなし。ウェストコーストぞいの断崖絶壁のワインディングルートでも、名物“コークスクリュー”を備えるラグナセカのレースコースでも、そんな好印象は変わることがなかった。
アコード用と同じデザイン(そして同メーカー製)というモーターをラックマウント方式としたEPS(電動パワーステアリング)も、低速大操舵時にわずかにイナーシャ感が大きいことを除けば自然で、感心した。
ただし、ブレーキに関してはちょっとガッカリ。一級スポーツカー用としてはややダイレクト感に欠ける減速フィールも、細身スポークのホイールからのぞく“少々しょぼい”キャリパーのルックスも、だ。RX-8の優れた基本パッケージをベースとすれば、ブレーキは世界随一の「ポルシェ並レベル」だって達成できるはず。「小気味よい加速のテイスト」を重視するのであれば、それと同じだけ「心地よい減速の味」が重要視されて然るべきだろう。
(文=河村康彦/写真=マツダ/2003年1月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。