ホンダ・アコードセダン(プロトタイプ)【試乗記】
「スムーズ」&「スーパー」! 2002.09.11 試乗記 ホンダ・アコードセダン(プロトタイプ) 2002年9月9日、北米モデルがデビューを果たしたホンダ「アコード」。気になる国内版アコードの発表に先立ち、ホンダのテストコースで、webCG記者がプロトタイプに乗った!!日欧共通ボディに
「ホンダ・アコードセダン」のプロトタイプに乗った。北海道は鷹栖にあるホンダのテストコースで、2種類のセダン、そして比較対照として旧型(2002年9月10日現在では、まだ現行モデルだが)のステアリングホイールを握ることができた。
7代目となる新型アコードは、「クオリティスポーツセダン」を標榜し、「スマート&アジャイル(agile:俊敏な、活発な)」をキャッチフレーズに開発された。
プレスブリーフィングで、ホンダのエンジニアの人が、縦軸に「エモーショナル」、横軸に「ラショナリティ(rationality:合理性)と書いたグラフを提示し、左上から右下がりに、「アルファ156」「BMW3シリーズ」「メルセデスベンツCクラス」「アウディA4」、そして「フォルクスワーゲン・パサート」と、ライバルと目す車名を並べた。つまり、アルファロメオは、「情熱的だけれど実用性は低い」。一方のVWパサートは、「合理的だがツマラン」ということである。ホンダのニューアコードは、156と3シリーズの中間に位置づけられる。つまり、かなり“アツい”クルマというわけだ。
「やけに難しい英単語が並ぶなァ」と思っていたら、理由があった。先代アコードは、「地域最適発想の開発」を掲げて「日欧米」それぞれの専用モデルをリリースしたが、今回は、大柄なボディをもつアメリカ市場向けは別途、2002年9月9日に先行デビューを果たしたものの、ヨーロッパと国内モデルは基本的に同じボディとなる。壇上のエンジニア氏は、「国内専用モデルとの決別」と胸を張る。新しいアコードは、グローバルスタンダードにのっとった、と言いたいのだ。いきおい、英単語も増えるというもの。意地の悪いリポーターは、「わが国でのセダンカテゴリーの冷え込みと、5%を切るヨーロッパのシェアを鑑みての判断だろう」などと考えるのだが……。
ちなみに、アメリカではセダンとクーペ、日欧ではセダンとワゴンがラインナップされる。
スムーズで大人
日欧アコードのボディサイズは、全長×全幅×全高=4665(+30)×1760(+65)×1445(+25)mm(カッコ内は現行比)と、いわゆる「5ナンバー枠」に縛られない大きさである。それでも、北米アコードよりひとまわり以上コンパクトだ。ホイールベースは、5mm延びて2670mmとなった。
エンジンは、2.4リッター(200ps)と2リッター(155ps)、そして同じ2リッターながら、ハイパフォーマンス版「ユーロR」用の220psバージョンが用意される。いずれも直列4気筒DOHC「i-VTEC」。組み合わされるトランスミッションは、前2者が5段AT、ユーロRは6段MTのみとなる。
最初に乗ったのは、「2.4リッター+5段AT」の上級グレード。ウグイス色とでも呼ぶのか、上品な薄いグリーンに塗られる。シャープなフェイスをもつボディは、アンダーボディの整流に配慮がなされ、「cd値=0.26」という空気抵抗の低さがジマンだ。日欧米に分けられた先代は、日本向けモデルが「ガッカリするほど古くさい」と思ったものだが、今回も「先進個性のエクステリア」とホンダが自賛するほどは、新しさを感じなかった。「オーソドクス」といったところでしょうか。
シートはいい。運転席側のみ電動で、ランバーサポートも備わる。オシリが包まれる感じで、「スポーツセダン」を謳うだけあって、サポートも悪くない。ステアリングホイールを握ってドライビングポジションをとると、広い。特に横幅が。左側のドアが遠い。数値上は、室内幅は+75mmだという。細かいことだが、インストゥルメントパネル各部の合わせが甘いのは、プロトタイプゆえであろう。足もと左右のペダルは、ヨーロッパ調に(?)段差が大きい。
テストコースは、高速周回路(凸凹路面含む)とハンドリングコースを順に試すというもの。2.4リッターモデルは、走りはじめるとスムーズで、静か。100km/hではタコメーターの針は2000rpm付近と控えめ。これなら、高速巡航も疲れにくいのではないか。全体に、大人な雰囲気だ。
試乗のあとに担当エンジニアの方にうかがうと、エンジンマウントの配置を「南北」から「東西(+北)」に変えたり、室内への侵入音を選別、主に高周波音を抑えたのが効いているのでは、とのこと。リポーターは、「全体の静粛性が上がったため、相対的にエンジンからの共鳴音が目立つようになった」と述べたが、あまりピンと来なかったようだ。ホントは、トヨタの連続可変バルブタイミング&リフト機構(VVTL-i)付きエンジン、1.8リッター「2ZZ-GE」ユニットにフィールが似ている、との感想を抱いたのだが、口には出さなかった。
スーパーな「ユーロR」
比較用として、旧型SiRを乗せていただいたのだが、困ったことにコレがヨカッタ。1997年のデビュー時には、「FF(前輪駆動)のBMW」と勝手に評したクルマだが、ブランニューモデルの直後に乗ると、さすがに古い。エンジンがズッと突出している感じで、つまりは足まわりのふところ具合がいまひとつ。わざと逆バンクにしたり、奥の曲率をきつくしているテストコースを行くと、けっこうコワいのだが、だがしかし、“遅い”シャシーをドライバーがスロットル操作やブレーキで補う行為がわかりやすく挙動に反映され、楽しい。守旧派リポーターは、すぐにエキサイトした。
サスペンションしなやかな新型は、不安感なくコースをこなす反面、電動パワステに加えて「フライ・バイ・ワイヤ」(スロットル操作とエンジンを電気的に結ぶ)が採り入れられ、先入観もありましょうが、万事ダイレクト感に欠ける。ちょっと上品に過ぎる……との思いは、ネイビーの「ユーロR」に乗ったとたん、ブッ飛んだ。
ドライバーズシートに座って、タイヤが転がったとたん、「ムッ!?」という“ただ者ならぬ感”が漂う。ノーマルモデルからして、先代“曲げ”で13%、“ねじり”で17%の剛性アップを果たしたボディが、さらに鍛えられたかのよう。他社のクルマばかり引き合いに出して恐縮だが、「スバル・インプレッサSTi」に通じる気合いの入り方だ。
リッター110ps(!!)の2リッターユニットは天知らずに回り、ハイリフトカムのハイノートがドライバーを鼓舞する。6スピードマニュアルを繰ると、ロウで60km/h、セカンドで100km/h、サードで130km/hに達する。しかも100km/hでの回転数は3000rpm前後だから、ことさらハイギアードではない。クロースしたレシオである。
タイヤサイズは、2.4リッターモデルの「205/55R16」から「215/45R17」にグレードアップされ、4輪ダブルウィッシュボーンのサスペンションは相応に硬められる。街乗りでの乗り心地はわからない。テストコースでは、よい面しか見えない。ニュー「ユーロR」は、ドライバーの操作を素直に受けとめヴィヴィッドに応える反面、ピッピとテイルを振る旧SiRと比べ、後ろ脚は落ち着いて路面をとらえ続ける。そのうえ、ハンドリングは素晴らしい。速い! まさにスーパースポーツセダン!!
ユーティリティ面でミニバンに太刀打ちできず、保守的なヨーロッパ市場においてもピープルムーバーが勢力を伸ばしつつあるなか、セダンの活路は、むしろ「R」方面にしかないんじゃないか、と短い試乗を終えて思った。当面、「ユーロR」は欧州市場では販売されないが、ホンダの持ち味を活かしたモデルこそ、グローバルスタンダードたりえるはずだ……と、上気したリポーターは、いつになく大上段に考えるのであった。
(文=webCGアオキ/写真=本田技研工業/2002年9月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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