日産ジュークNISMO(4WD/CVT)【試乗記】
NISMO印の痛快マシン 2013.03.20 試乗記 日産ジュークNISMO(4WD/CVT)……319万7250円
日産のモータースポーツ事業を担う「NISMO(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル)」が、パワーユニットから内外装に至るまで、くまなく手を加えた「ジュークNISMO」。よりヤンチャに、より痛快に仕上げられたその走りを確かめた。
中身も外見もかなりのヤンチャ
日産の新作「ジュークNISMO」は思わずワハハ、なかなか愉快痛快なんである。抑揚たっぷりの迫力に愛嬌(あいきょう)も混ぜあわせた「ジューク」は、若者狙いのはずだったのに、街で見かけるオーナーには、30歳代とおぼしき男性も少なくない。毎日の会社勤めを実直にこなす中で、プライベートなクルマぐらい、ちょっとだけ勇気ふり絞って「こんなの、買っちゃった」みたいな感じだ。それはそれで素敵(すてき)な選択だが、もう少し翔んでごらんという提案がNISMO。
おおまかな輪郭を紹介すると、「ジューク16GT FOUR」が基本。そのMR16DDT型4気筒1.6リッターターボを190ps/5600rpmから200ps/6000rpmに強化し(トルクも24.5kgm/2000-5100rpmから25.5kgm/2400-4800rpmに増強)、ヨーロッパを徹底的に走り込んで仕上げた専用スポーツサスペンションで支えたのが新しいNISMO。たくましいSUV的スタンスを保つため車高は落としてないが、全長は30mm長く、全幅も5mmだけ広がった。抵抗軽減とダウンフォース確保のため、あたかもグラウンドエフェクトカーの気流取り込み口のように中央部を持ち上げた専用フロントバンパーが全長の差。トレッドは変わらないが、215/55R17 94Vから225/45R18 95Yへとサイズアップされたタイヤを覆うため、フェンダーに専用のリップが追加されたのが全幅の差。これだけで、けっこうヤンチャに見えるのは本当だ。
インテリアの雰囲気もしっかり盛り上がっている。その中心はスエード調の表面材で覆われた、両サイドの深い専用フロントシート。ステアリングホイールも本革とアルカンターラ(人造皮革)で巻かれ、確実な握り心地を保証する。その他センタークラスターからコンソールはもちろんシフトノブにまでNISMO専用のカラーリングが施され、要所要所にNISMOを象徴する真紅のアクセントが配されている。このあたりは、名うてのアドレナリン・ショップNISMOの得意技のオンパレードだ。
フットワークに表れる素性
その効果はてきめんで、走りだした瞬間から、全身に元気がみなぎってくるのがわかる。最初の段差を踏み越えただけで、ガシッと来る剛(こわ)い感触によって、クルマ全体の性格付けを直感させられる。路面の凹凸を受け止めるというより、強化されたスプリングとダンパーで有無を言わさず踏みつぶす感触だ。市街地を普通に流す程度では、少し硬すぎると思うかもしれない。ところがペースを上げるにしたがって、まるでタイヤをアスファルトに刻み込むようなフラット感が増す。伝統的なスポーツカー感覚を愛するドライバーなら、このへんでニヤリと納得の表情を浮かべるに違いない。
コーナリングは、どう試みても安定一本槍。それもそのはず、ベースとなった16GT FOURからして自慢のオールモード4WDだけでなく、クルマの姿勢変化を読み、ドライバーの意思に先回りして左右の後輪それぞれへの配分を自在に増減するトルクベクタリング機構を備え、腕前など関係なく、常に狙ったラインをたどれてしまうのだから、もっとロールが小さく(余分な荷重移動が少なく)、4輪それぞれが余裕で路面を捉えるNISMOなら、安定したままでいられないわけがない。それどころか、最もベーシックな2WD(FF)仕様でさえ、ジュークは安定感と俊敏さを巧みに融合させたシャシー性能の持ち主なのだ。
思わずニヤける気持ち良さ
一方、完成度の高いスポーツ4WDというだけでなく、そんな完璧な走りを、さもドライバーが自ら演出したかのように感じさせてくれるところがジュークNISMOの楽しさ。ぎりぎり間際までブレーキングを遅らせてコーナーに飛び込む時、切ったら切っただけタイムラグなしに鼻先が向きを変え、その先ちょっと切り増したり戻したりしても、あるいはアクセルを踏み増したり放したりしても、安定感を保ったまま、その都度ピクッと応えてくれる。まるで、お釈迦様の手のひらを飛び回り、いい気になっている孫悟空みたいだ。
そんな反応の良さは、専用チューンのエンジンにも助けられている。ことさらムードを盛り上げるサウンドでないのは、大メーカーの製品の一角を占めるだけに仕方ないだろう。しかし、過給圧を制御するソフトウエアを深く描き直してあるため、数字以上にベース仕様との違いを実感する。この系統のエンジンは、もともと高回転でのピークパワーより、中速域でのトルクの余裕による扱いやすさを重視した性格で、それはジュークNISMOにも受け継がれている。だから、CVTの7段疑似MTモードを必要以上にシフトして、3000rpm、4000rpmあたりからタコメーターの針が駆け上がる快感を味わい尽くしたくなってしまう。それにはコンソール上のシフトレバーを前後にフリップするのだが、どうせならシフトパドルを付けてくれれば良かったと思う。
ともあれ、どうしても笑顔になってしまうジュークNISMOは、年齢、性別いずれも不問、さっそうと駆け回る行動派のための、またとない相棒たる資格、十分にある。
(文=熊倉重春/写真=中村宏祐)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

熊倉 重春
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。