トヨタ・ヴェルファイア3.5Z“G’s”(FF/6AT)【試乗記】
家族を選ぶミニバン 2013.03.13 試乗記 トヨタ・ヴェルファイア3.5Z“G's”(FF/6AT)……526万2100円
スポーティーなクルマは数あれど、ミニバンではまれなもの。果たして、トヨタがスペシャルチューンを施した「ヴェルファイア “G's”」の走りは? そして乗り心地は?
未体験のフィーリング
「トヨタ・ヴェルファイア」の「G's」に試乗すると聞いていたので、ちょっと身構えて集合場所までの道を急ぐ。「G's」とはGAZOO Racingのテストドライバーたちがチューニングを担当した、トヨタのスポーティーなライン。キツめのメイクアップと、ビシッと引き締まった足まわりのチューニングがウリだ。
なぜ身構えていたのかといえば、やはり『webCG』の取材で試乗した「マークX“G's”」のコワモテに引いた経験があるからだ。ハンサムなマークXがあれだけ怖い顔になったのだから、ドヤ顔のヴェルファイアはさぞかし迫力を増しているのではないか。映画『アウトレイジ ビヨンド』に出てきそうな悪人顔でも決してひるむな、と自分に言い聞かせる。
ところがどっこい、集合場所で待ち構えていた「トヨタ・ヴェルファイア3.5Z“G's”」は、そんなにおっかない顔ではなかった。じっくり見ると、ヘッドランプからバンパー、ラジエーターグリルまでアクの強い形と色に変わり、フォグランプの隣にはLEDの光り物も輝いている。けれども、これといった違和感はない。
マークXのG'sには衝撃を受けたのに、なぜヴェルファイアはすんなりと受け入れられるのか……。その答えは、すぐに見つかった。佐藤浩市部長が眉毛をそったら事件だけれど、清原和博が眉をそっても「あ、そう」で終わる。と、外観には驚かなかったものの、走りだしてびっくり。
カーブを曲がる時に、ステアリングホイールの操作に巨体は遅れることなくついてくる。そこでのロール(横傾き)もごくわずか。目線の高いスポーツカーというか、とにかく体験したことのない不思議なフィーリングだ。
じゃあ乗り心地はガチなのかといえば、それほどでもない。確かに路面からのショックは大きいし、そのショックをオブラートに包まずダイレクトに伝えてくる。けれどもがっちりしたボディーがそうしたショックをガッチリ受け止め、30mmローダウンしたGAZOO Racing謹製の強化サスペンションが車体の揺れをぴっと一発で収める。
なんて男らしい乗り心地。このクルマは、男の中の男だ。キヨハラ、いいぞ!
後ろの席までスパルタン
ところが、ここで事件! “目線の高いスポーツカー”を堪能していると、2列目シートに座った『webCG』編集部のSくんからクレーム噴出。
「すいません、2列目、がったがたで超ツラいんですけど……」
なに!? 運転席はそこまでひどくないぞ。Sくん、君は体が弱いんじゃないか。これが男のミニバンだよ。
とはいえ、その主張を無視するわけにもいかず、ここで運転席と2列目シートをトレード。運転席の後ろにどっかと座ってみる。
トレード後、5分。
すみません、私が間違っていました。確かに2列目はツラい。段差を乗り越えるたびに、ガン!というショックがシートから伝わり、それがお尻→腰→背中を経由して、脳天に響く。
試しに3列目シートに座ってみる。リアタイヤに近いせいか、突き上げはさらにキツく、そこにタイヤのざらざらした感触とロードノイズが加わる。三重苦を味わいながら、目を閉じてこれは世界初のミニバンではないか、と記憶をたどる。あれは1995年――
その年、ルノーが発表したコンセプトカー「エスパスF1」は衝撃的だった。運転席が一番エラいミニバンなのだ。あれから18年、ついに市販モデルとして形になったのがヴェルファイアのG'sではないだろうか。
それにしても、家族に不平不満を言わさず、このクルマを楽しめるおとーさんはある意味すごい。家族から尊敬されている立派なおとーさん、あるいは家族に一切の口答えを許さない独裁おとーさんのどちらかだろう。このクルマに似合うおとーさんとして真っ先に思い浮かぶのは、星一徹である。
カタログにはトヨタ・ヴェルファイア“G's”にどれだけの補強が施されているかが図示されている。溶接のスポットは増やされ、クロスメンバーが追加され、サスペンションの取り付け部分が補強されている。3列目シートでこの写真を眺めながら、大リーグボール養成ギブスを思った。ボディー全体を補強したギブスは、確かに引き締まったドライブフィールに貢献している。
ここまできたらエンジンも……
星一徹以外に、このクルマに似合うおとーさんはいるだろうか。3列シートのミニバンに試乗する時の常として、磯野家&フグ田家で家族旅行に行く場面を思い描く。磯野家&フグ田家で楽しく旅行に出掛けられるなら、ミニバンとして合格なのだ。
目を閉じて想像してみる。運転席がマスオさん、助手席サザエさん、2列目がフネさんと波平さん、3列目はタラちゃん、ワカメちゃん、カツオくんだ。しばらく行くと、2列目のフネさんと波平さんから、「マスオさん、少し乗り心地がごつごつしませんか?」という声があがる。するとマスオさんは「は、お父さん、すみません!」と意気消沈してしまう。ドライブは一気に盛り下がる。
見かねた波平さんが、運転の交代を申し出る。すると3列目のタラちゃんから、「おじいちゃん、キモチ悪いでしゅー」という悲痛な声が。それを聞いた波平さんは、へなへなになってしまう。
どうもこのクルマ、♪みんなが笑ってる〜とは行きそうもない。
磯野家&フグ田家だったら、ヴェルファイア“G's”を乗りこなせるのはサザエさんか。
といった具合に、運転好きがステアリングホイールを握るぶんにはいいミニバンであるけれど、乗り手を選ぶのは間違いない。でも、どうせここまでやるなら、エンジンにも手を入れてみてはどうか。
ここまで、エンジンとトランスミッションについてひと言も書いていない。それは、V6の3.5リッターエンジンと6段ATが完全に黒子に徹しているからだ。そのパワーとスムーズさ、そして静かさには不満はない。軽くアクセルペダルに力を込めるだけで、2.3トンのボディーを粛々と加速させる。
けれども、どうせここまでアシを固めたのだから、エンジンもマニアックであっていいのではないか。当てに行くバッティングではなく、キヨハラ並みの豪快なフルスイングが見たい。
家に帰ってから、『YouTube』でエリック・ベルナールが駆るルノー・エスパスF1の動画をじっくり見る。当時のウイリアムス・ルノーのF1エンジンがほえ、ベルナールはマシンを真横に向ける! ぜひこれくらいのエンジンを積んで、ヴェルファイア“G's”には和製エスパスF1を目指してほしい。
(文=サトータケシ/写真=荒川正幸)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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