メルセデス・ベンツA180ブルーエフィシェンシー/A180ブルーエフィシェンシー スポーツ【試乗記】
大ヒットの予感 2013.02.02 試乗記 メルセデス・ベンツA180ブルーエフィシェンシー(FF/7AT)/A180ブルーエフィシェンシー スポーツ(FF/7AT)……327万3000円/386万3000円
7年ぶりにフルモデルチェンジを受け、「新世代スポーツコンパクト」として生まれ変わった「Aクラス」。メルセデス・ベンツのエントリーモデルはどんな進化を遂げたのか。
ワイド&ローのプロポーション
「書生やめました」というのが新型「Aクラス」のコンセプトである、なんてことをメルセデスはひとことも言っていないし、ドイツ語に「書生」という言葉があるのかどうかも知らないが、「新世代スポーツコンパクト」という公式キャッチフレーズを意訳すれば、そういうことだと思う。
初代Aクラスが登場したのは1997年。メルセデス・ベンツ初のFFコンパクトにとどまらず、前傾した横置きエンジンを衝突時にはそこへもぐりこませるサンドイッチフロア構造など、実験的ともいえるキャラクターをまとった最小メルセデスとして2世代を経てきた。
しかし、今度の3代目はいわばゼロリセットのオールニューAクラスである。車台はひと足先に国内デビューしている「Bクラス」と共通。FFプラットフォームだが、二重構造の高床式ではない、どころか、Bクラスより全高を12cm下げ、一転、ワイド&ローのプロポーションで売る。
パワーユニットはBクラスと同じ直噴1.6リッター4気筒ターボ+デュアルクラッチの7段自動MTが基本だが、Aクラスには直噴2リッターターボも用意される。「フォルクスワーゲン・ゴルフ」でいえば「GTI」にあたる上級モデル用だ。そう、この3代目に至って、欧州Cセグメントの激戦区に初めて本格参戦したのが新型Aクラスである。
あとから出るものほどイイのは当然だが、新生Aクラスの第一印象は、カッコイイ! これほどストレートにカッコイイと思ったメルセデスは初めてだ。サイドに彫りの深いプレスラインが入る5ドアボディーのデザインは、ガルウイングの「SLS AMG」を手がけたマーク・フェザーストーン。ボディーのスリーサイズは「BMW 1シリーズ」や「アウディA3スポーツバック」とほぼ同じだが、もっと立派に見える。カッコイイだけでなく、メルセデスの“押し出し”を忘れていないところがウマイ。
90分ひとコマの試乗会で乗ったのは、「A180」と「A180スポーツ」の2台。「A250 SPORT」(こっちは“シュポルト”と読ませる)は試乗車の登録が間に合わず、今回はおあずけとなった。
試す価値のある走り
最初に乗ったのは、スポーツサスペンションを備え、18インチホイールを履くA180スポーツである。変速機のセレクターはセンターフロアにはなく、ハンドル右側から突き出すレバーで行う。パドルシフトは全車に付く。
走り始めてからの第一印象もすばらしかった。これが実用メルセデスかと思うほど、足まわりが軽快だ。最近のドイツ車の例にもれず、ステアリングもペダル類も軽い。
パワーユニットはBクラスですでに経験していたが、そのときの印象に輪をかけてシャープに思えた。122psの絶対値からもわかるとおり、ばか力があるわけではない。高速道路の追い越しでフルスロットルを与えても、ガツンとくるような瞬発力はない。そんな点ではやはり低CO2ユニットを実感させるが、小さいものが見事にバランスして高速回転しているかのような緻密なフィールは十分に“スポーツ”である。4気筒離れしたスムーズさをもつこのエンジンは、A180シリーズの大きな魅力だと思う。アイドリグストップ機構のマナーも文句なしだ。
身のこなしは軽快だが、けっしてカルくはない。エンジンも足まわりもフリクションが少ない。そのために乗り味が上質で洗練されている。走りながら、既存の欧州Cセグメントの何に似ているだろうかと考えてみたが、何にも似ていない。それだけでも一度試してみる価値がある新しいユーロプレミアムコンパクトである。
次に乗ったのはA180。試乗車は40数万円のオプションが付いて、素のA180スポーツに近い値段になっていたが、これが新型Aクラスの標準モデルにあたる。
質感の高いインテリア
ノーマルサスペンションに17インチホイールのA180で走り出すと、スポーツといちばん違うのは乗り心地だ。平滑な舗装路では問題ないが、荒れた路面だとこちらのほうがアシがバタつく。とくにリア。柔らかいというよりも、締まりがない感じで、乗り心地はスポーツのほうが明らかにいい。そういえば、この関係はBクラスのノーマルとスポーツでも同じである。
標準モデルでも内装の質感は高い。ドアの開け閉めのときに感じる“クラス感”なども、ライバルよりワンランク上に感じた。そうかと思うと、AMGモデルのイメージを狙ったシルバー盤面の計器類は、徹底して若者狙いである。
過去2代のAクラスオーナーが喜ぶのは、微妙に高い床による乗り降りのしにくさがなくなったことだろう。サンドイッチフロア構造の現世御利益は薄かった。
後席の上屋はクーペ的なデザインだから、座ると暗いし、多少の圧迫感もある。リアシートで人をもてなすなら迷わずBクラスへ、という関係が新しいABのすみ分けだ。
新型AクラスのライバルはBMW 1シリーズとアウディA3スポーツバックと、メルセデスは言っている。つまりプレミアムCセグメントということだろうが、284万円のスターティングプライスはフォルクスワーゲン・ゴルフの牙城も脅かすことになりそうだ。
試乗会だから、走っていると、しばしば同じAクラスとすれ違う。そのたびにオッ! と思った。コンパクトとは名ばかりで、メルセデスの「CLS」や「SL」に見まがうほどの存在感がある。大ヒットの予感を覚えた。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=高橋信宏)
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下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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