マセラティ・クアトロポルテV8(FR/8AT)【海外試乗記】
官能的な新世代マセラティ 2013.01.30 試乗記 マセラティ・クアトロポルテV8(FR/8AT)マセラティのラグジュアリーセダン「クアトロポルテ」がモデルチェンジを受け、2013年1月のデトロイトショーで初公開された。3.8リッターV8ターボエンジンを搭載する新型の出来栄えを南仏ニースからリポートする。
節目のモデルチェンジ
2003年秋のフランクフルトショーでのワールドプレミアから数えれば9年にわたって販売された6代目「クアトロポルテ」は、間違いなくマセラティにとって史上最大のヒットとなった一台だ。懸案だったアメリカ市場での成功や、隆盛する新興市場への参入など、このクルマが長期にわたり商業的成功をおさめることができたのは、「デザイン」「クオリティー」「パフォーマンス」のいずれもが見事にマセラティの世界観を表現し、さらにその三位一体感にあったのだろう。
くしくも2013年は、初代クアトロポルテの登場から50周年の節目となる。マセラティはこのタイミングに合わせるかのように、満を持して全面刷新した7代目クアトロポルテをデビューさせた。
ひとまわり大きくなった新型クアトロポルテのサイズは、ライバルにたとえると「メルセデス・ベンツSクラス」や「アウディA8」のロングボディーと同等。よって居住性や積載力は劇的に改善されており、シートバックのフォールディングも可能なトランクスペースは容量にして80リッター、後席のレッグスペースは100mm以上のプラスとなる。
一方で、モノコックは軽量化と高剛性化を両立する最新設計となったほか、ボディーシェルの60%強をアルミ化するなどの材料置換が施されたこともあり、その車重は前型と比べで最大100kg減となった。
マセラティもダウンサイジング
搭載されるエンジンは前型のV8自然吸気ユニットに代わり、マセラティが設計、フェラーリが生産という、まったく新しい3.8リッターV8と3リッターV6で、いずれも直噴ツインターボとなる。
V8とV6とは主要部品を共有化するモジュール設計となり、パフォーマンスリーダーであるV8は6800rpmの高回転域で530psを発生し、売れ筋となるだろうV6は410psの出力とともに1750rpmから550Nm(56.1kgm)のトルクを誇る……と、車格や用途に見合ったパワーやフレキシビリティーを備えるようチューニングがなされた。
ちなみに前者の最高速は307km/hとマセラティの量産モデルとしては過去最速。0-100km/h加速は4.7秒となる。後者においても285km/hの最高速と5.1秒の0-100km/h加速は、先代「クアトロポルテS」を上回るものだ。一方で、CO2排出量はダウンサイジングの効果もあり、先代比で20%以上改善された。
エンジン背後にマウントされるオートマチックトランスミッションは、従来の6段ATより4kg軽量化されたというZF製の8段AT。V6モデルではこのトランスミッションにマグナシュタイア製の電子制御センターデフシステムを組み合わせた4WDモデルの選択も可能だ。駆動ロジックは通常で前0:後ろ100、必要に応じて0.15秒以内に最大50%の駆動力が前輪側に最適に配分される仕組みとなっている。
クアトロポルテならではのバリエーション
豊富なバリエーションから選択が可能な内外装の仕立ては、クアトロポルテの見せ場のひとつ。新型でもベースに8色のボディーカラーを用意するほか、19インチ〜21インチと3サイズ設定されるホイールには5種類の意匠が与えられ、ブレンボ製キャリパーのペイント仕上げも5色から選べるようになっている。V6モデルとV8モデルでステッチのグラフィックを違えるシートは、標準レザーの他に3種類の表皮が選択可能。もちろん中にはポルトローナフラウ社製のセミアニリン染めレザーも含まれている。
タッチパネル式のインフォテインメントシステムは、ナビゲーションやオーディオなどのコントロールはもちろん、車載装備のコントロールを行うことも可能。これによってスイッチ類が集約されたことにより、インテリアの印象はすっきりしたものとなった。
さらにオーディオはオプションでBowers&WilkinsのHi-Fiシステムへとグレードアップも可能。16チャンネルのクラスDアンプにより15スピーカーを1280Wの出力でドライブするそれは、リアシェルフに積まれた楕円(だえん)形の大型サブウーファーを「レーストラック」と名付けるなど、マセラティらしい遊び心も添えられている。
途切れることのない加速感
プリプロダクションの最終段階というタイミングもあり、試乗はV8モデルのみとなったが、エンジンのフィーリングは530psという強烈な数字と相反して扱いやすいものだった。ごく低回転域からずぶとく立ち上がるトルクと高回転域までタレることなくキッチリついてくるパワー感とをきちんと両立しているだけでなく、操作に対してのリニアリティーもしっかり織り込まれているため、日常的な速度域でもスロットルワークにはことさら気遣うこともない。
一方、ひとたびアクセルを踏み込めば放たれるパワーは猛烈のひと言。8段ATのステップ比もあって途切れることのないその加速感は、メルセデス・ベンツでいえばAMG級と思わせるほどだ。
大パワーを洗練されたマネジメントで扱いやすく手なずける一方、新型クアトロポルテでは従来型が備えていた、サルーンとは思えないほどの突き抜けた刺激がやや丸められてもいるのも事実。
はたで聞いていれば相変わらずのたけだけしいサウンドもボリューム自体は若干絞られたようで、車内にいれば会話を妨げない程度に静寂が保たれる。これは恐らくショーファードリブンとしてのニーズや、世界的に厳しくなる騒音規制への適合に配慮してのものだろう。また、後々用意されるだろう派生モデルでは、官能性を強調した仕立てが施されることになるかもしれない。
スポーティーなフットワーク
昨今のマセラティに乗ると感心させられるのが、時々刻々と状況が変わる公道でも安心して踏んでいける懐深いシャシーのセットアップだ。アーキテクチャーが一新された新型クアトロポルテでもその点はしっかり受け継がれている。タイトなワインディングロードでもアシの動きは至極スムーズでライントレース性も抜群。3メートルを優に超えるロングホイールベースのサルーンに乗っているとは思えないほどに、キビキビとコーナーで向きを変えるのには驚かされる。
操作系は若干軽めな印象だが、インフォメーション自体はしっかりと帰ってくるため、タイトターンでグングンとアクセルを一歩踏み込んでいくにも恐怖を感じさせない。加えて、この軽妙感に効果あらたかなのは軽量化だ。その多くを上屋から稼ぎ出すこともあって、揺り返しでのボディーの動きの収まりは実に素早い。
なんならサーキットにでも足を運びたくなるスポーティーなフットワークを、日常的な速度域での快適性をそぐことなく実現――と、新型クアトロポルテのダイナミックレンジは相当に広い。最新世代のスカイフックダンパーを用いたサスは、20インチオーバーの大径タイヤをものともせず、低速域では努めて優しくしなやかに豪華なキャビンを支える。ショーファードリブンの適性は居住性だけでなく走りの面でもしっかり向上しており、新しいユーザー層をつかむのに十分な魅力となり得ている。
まったく新しいアーキテクチャーが描く新世代マセラティの第1弾にもあたる、新型クアトロポルテの日本上陸はこの春の予定。彼らの新しいキャラクターということになるだろう、その洗練された官能性を味わえるのはもう間もなくである。
(文=渡辺敏史/写真=マセラティ ジャパン)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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