日産シルフィ G(FF/CVT)【試乗記】
実家の父にオススメしたい 2013.01.25 試乗記 日産シルフィ G(FF/CVT)……238万9800円
長年受け継いできた「ブルーバード」の名を捨て、新たな出発を切った新型「シルフィ」。「60代の男性」をターゲットに掲げ、オーソドックスなセダンの本懐を磨いたというその仕上がりを試した。
外見はハンサム、中身はオーソドックス
もし実家の親父(おやじ)がこれに乗っていたら、息子としては安心かも……。
というのが3代目となった新型「日産シルフィ」を見ての第一印象だった。
全体のフォルムがのびのびとしていて、ハンサムなセダンにまとまっている。ヘッドランプとリアのコンビネーションランプにはLEDが配されていて、トレンドも押さえている。リタイアした親父が、身なりや流行に気を配って若々しさを保ってくれるのはうれしいことだ。
伸びやかなデザインを実現するためには、全幅を従来型より60mm広げる必要があった。新型シルフィの全幅は1760mmになり、3ナンバーとなる。ただし運転した限りでは、車両感覚がつかみやすいこともあって幅が広すぎて困る場面には出くわさなかった。
現代にあってのセダンは、ある種のスタイルを表現する“ええかっこしぃ”の乗り物だ。だからカッコのためにこのくらい幅が広がるのには目をつむりたい。カッコより取り回しが大事だという向きには、そういうクルマがたくさんある。
横方向にすっと広がるデザインによって広々として見える以外、インテリアに驚くべき点はない。自動車ライター泣かせというか、実にオーソドックスな造りだ。
それでもつまらないと感じないのは、ドアトリムやシフトノブ、空調のスイッチ類など、実際に手が触れる部分の感触がいいからだ。いい素材を使っている。リタイアして大型セダンから乗り換えても、寂しい思いをすることはないだろう。ちなみに後席の広さは特筆モノで、後ろに座る人が寂しい思いをすることもないはずだ。
中央のスタートボタンを押して、エンジンを始動する。
黒子に徹するパワートレイン
「シルフィ」のモデル構成はシンプルで、エンジンは新開発の1.8リッター直列4気筒ユニットのみ。装備に応じて3つのグレードが用意されるなかで、今回試乗したのは16インチのタイヤを履きインパネに木目調のパネルを使う上級仕様の「G」である。
プレス向け試乗会ということで上級グレードに乗ったけれど、装備を見た限りではベーシックグレードの「S」でもまったく不足はない。これで十分だと思える「S」グレードに200万円を切るプライスタグが付けられるのは、驚きである。年金暮らしのウチの親父でも、なんとか手が届きそうだ。
新しい1.8リッターユニットは空気のような存在で、音やパワーで自己主張するつもりは一切ないようだ。うっかりするとそこにいるのを忘れてしまいそう……、というのはこのクルマの性格からいくとホメ言葉で、それだけ静かで滑らかだということだ。
発進加速から十分に力持ちで、市街地を20〜40km/h程度で走る場合のアクセルのオン/オフに対する反応も気持ちがいい。エンジン単体だけでなく、CVTとの連携もうまくいっているようだ。
黒子に徹して粛々と仕事をこなすエンジンは、高速でも力強く、洗練された印象も低速時と変わらない。走行性能をとっても、大型車からダウンサイジングした方でも満足できるだろう。
ただし発進時、軽くアクセルを踏んでも「ワッ!」と過敏にスロットルが開く傾向にある。そこだけは、品がよくて温和なクルマの性格にはふさわしくない。
温和と書いたけれど、首都高速の中速コーナーの連続で、新型「シルフィ」は少し違う顔を見せてくれた。
意外やファン・トゥ・ドライブ
コーナーの入り口でステアリングホイールを切り込むと、軽いロールを伴いながらしっかりと曲がる。その印象は想像よりはるかにスポーティーで、意外と言っては失礼だけど、ファン・トゥ・ドライブなのだ。試乗車が16インチを履く「G」グレードだったことはあるにせよ(他のグレードは15インチ)、その足取りは確かだ。
乗り心地もいい。ふわんふわんするような柔らかさではなく、路面からのショックをしっとりと受け止めて、車体をフラットな姿勢に保つ。安定したコーナリングと快適な乗り心地が両立しているあたり、丁寧にチューニングされていることが伝わってくる。
「想像よりはるかにスポーティー」と書いたけれど、それは先代シルフィのユーザーの平均年齢が60歳を超えているという先入観のせいだ。リタイア世代向けの、よく言えば穏当な、悪く言えば枯れたクルマだと勝手に想像していたのだ。
けれども「シルフィ」は、世界130カ国で販売されるグローバルなモデル。「セントラ」の名称で売られる北米市場では、「日産マキシマ」の弟分という位置づけになる。
現行の「マキシマ」は“4ドアのフェアレディZ”と呼びたくなるほどスポーティーなルックスが特徴だから、「シルフィ(≒セントラ)」のドライブフィールやデザインが若々しいのも当然かもしれない。
だから世界的に見れば、「シルフィ=リタイア世代向け」ということは一切ないのだけれど、日本市場はミニバンとコンパクトカー(含む軽自動車)に二極分化している。「シルフィ」ユーザーの年齢層が高くなるのは間違いないだろう。
それでもリタイアした親父が老け込まずに、ちょっとしゃれていて運転しても楽しいクルマに乗っていることは、悪いことじゃない。
(文=サトータケシ/写真=峰昌宏)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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