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第14回:リーフだから味わえること

2013.01.21 リーフタクシーの営業日誌 鈴木 真人

第14回:リーフだから味わえること

“特別な人”斉藤さん

黒塗りの「日産セドリック」は俺が担当し、この日、リーフタクシーを運転して仕事にでたのは斉藤孝良さん(第10回参照)で、その彼から電話が入ったのは、小石川植物園の裏手にある食堂でアジフライ定食を食べ終えたときだった。リーフタクシーとは関係ない話だが、この食堂、まったく人目につかない場所にある地味な店なのだけれど、魚が美味い。だからアジフライも美味い。

「斉藤っス」
昼休みどきだし、コーヒーでもどうだという誘いの電話だと思ったら違った。例の大仰な口調で、ついさっき降りたばかりの乗客との会話を話しだした。

「『遠くに旅行してきたでしょう?』って、お客さんにいきなり言われたんッスよ。ほら、伊勢神宮に行ってきたばかりじゃないスか。だから『はい』って答えたら、そのお客、『そこで何か特別なことがあったでしょう』って。ずばり当てられちゃって、気持ち悪いっスよ〜」

と喋り続けた斉藤さんの話を要するに、つまりは以下のごとくになる。

病み上がり(第11回参照)の斉藤さん、仲間とお伊勢参りにでかけ、伊勢神宮にいくつもある(らしい)不思議な石のひとつ、外宮にある『三ツ石』に手をかざしたところ「しびれるような感じ」(斉藤談=話半分に聞かなければならない)を受けた。斉藤さんのリーフタクシーに乗った乗客は、お伊勢参りのことを知らないはずなのに、それら一連の出来事を言い当て、挙げ句、「『運転手さん(=斉藤さん)は特別な人だから特別な体験をしたんです』と言った」(斉藤談=自分の都合のいいように解釈している可能性あり)、と、こういうことなのだ。

斉藤さんの“思い込み”や話を面白くしようとする意図を差し引いても、確かに乗客の話は少しばかり不可解だ。

「でしょう」
「『特別な人』って、どういう意味なんスかね?」

会社認定の“必死さが足りない運転手”(10回参照)って意味じゃないっすかね。

ところで斉藤さん、久しぶりでリーフを運転した感じは?
「新幹線みたいっス」


第14回:リーフだから味わえることの画像 拡大
リーフタクシーの担当ドライバーである斉藤孝良さん。
リーフタクシーの担当ドライバーである斉藤孝良さん。 拡大

リーフは新幹線!?

斉藤さんのリーフ評は、ことバッテリー問題に関しては俺より遥かに辛辣な言葉でこき下ろし、リーフがタクシーとしていかに不向きなクルマであるかを訴える。

「やってられないっスよ。40km(=冬場の走行可能距離)じゃ仕事にならないっス」
「水揚げ(売上げ)? 急速充電に1回行って8000円(注:斉藤さんと同じ昼勤の水揚げは2万円前後が一般的)でした。2回行く気力は失せたっス」

そんな斉藤さんだけれど、こと、リーフの走りっぷりには大満足なのである。
「リーフの加速感、当たり前っスけど、他のタクシーじゃ絶対に味わえないっすよね」
「アクセルを踏み込んでいるとき、新幹線に乗ってるような体感を覚えるっス」

斉藤さんが引き合いにだすのは、いつも決まって新幹線である。そう、第12回で書いたとおり、リーフはめっぽう速いのだ。
「新幹線みたいっスよね?」
いや、俺が受けた第一印象は「モノレールみたいだな」だった。

リーフを発進させるとき、ほんの短い時間だけれど、運転手だけが気がつく程度の、かすかなモーター音が聞こえる。「ウィーン」とか「ムーッ」とか、とにかく、文字では表現できそうにない音が聞こえる。

その音を聞くたびに、羽田空港から浜松町に向かう東京モノレールが「整備場駅」を走り始め、左の車窓から眼下に見える運河の景色、という実に限定的な風景が、なぜだか妙に鮮明に浮かんでくるのである。

「マニアックな印象っスね」
そうっスか?
「どっちにしても、浮かぶのは電車ってことスね」
そうっスね。

(文=矢貫隆/写真=荒川正幸)

鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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