プジョー208プレミアム(FF/4AT)【試乗記】
控えめの魅力 2012.12.13 試乗記 プジョー208プレミアム(FF/4AT)……216万円
プジョーの新型コンパクトカー「208」の走りや、いかに? 1.6リッターの5ドアモデル「プレミアム」で確かめた。
インテリアは近未来的
方向音痴にとってはカーナビは命の綱であるから、パニックになってしまった。「プジョー208」を受け取って取りあえず走りだしたはいいものの、カーナビを起動させるスイッチが見つからないのだ。
信号待ちをするたびにあれこれ試すが、どうしてもナビ画面にならない。仕方なく路肩に寄せていじくり回しても同じ。取説を引っ張りだして、ようやくもともとカーナビが装備されていないことを知った。インストゥルメントパネルのど真ん中に位置する7インチのスクリーンは、オーディオやトリップコンピューターを操作するためのタッチスクリーンだったのだ。
デザイナーの意向で、タッチスクリーンをセミフローティングスタイルにすることで存在感を強調したという。そこにナビ機能をデフォルトで搭載しないというのは、日本では考えにくい発想である。ある意味、斬新だ。平準化したといっても、外国車に乗ると時にこういう不意打ちに遭うのが面白い。
そもそも、インテリア全体に未来感をたたえた新奇さがある。小径の楕円(だえん)ステアリングホイール越しに見えるメーターパネルもコンパクトで、タッチスクリーン同様浮き上がって見える。上部はツルンとした素材でシンプルな面になっており、クールな印象を漂わせる。ピアノブラックとシルバーをメインにした内装はソリッドな空気を演出している。暗くなって柔らかなブルーの光が現れると、SF映画に出てくる近未来のクルマのような雰囲気が満ちてくる。
外見にも表れたダウンサイジング
“ちょっと未来な感じ”は、エクステリアにも貫かれている。208の一番のトピックは前モデル「207」からのダウンサイジングなのだが、それが外見にも新しさをもたらしているのだ。全高が変わらないまま全長が85mm短くなっているので、横から見たプロポーションは大きく変化した。凝縮されたカタマリ感が強くなり、力強さも増している。
サイドには複雑な曲面で陰影が描かれ、生体を模したようなフォルムを形作る。インテリアと意匠をそろえた「フローティンググリル」もさることながら、ボンネット先端に設けられた凹部がルーフへと続くラインが表情にリズムを与えている。
小型車を得意とするプジョーにとって、「2」シリーズはブランドを象徴する存在といっていいだろう。とはいっても各世代でコンセプトは大きく移り変わってきている。前輪駆動になってからでも、「204」と「205」はまったく趣が違うし、205から「206」の変化も大きい。大ヒット作である206を継承した207が、むしろ珍しいケースだったのだ。
ダウンサイジングは、パワートレインにも及んでいる。新開発の1.2リッター3気筒エンジンを採用したのだ。ただ、今回試乗したのは従来の1.6リッター4気筒の自然吸気エンジン搭載モデルである。上下に1.2リッターエンジンと1.6リッターターボを積むモデルがあり、それぞれMTで3ドアだ。中間に位置するのが、1.6リッター自然吸気エンジンにATで5ドアという構成になっている。あくまで量販モデルはこちらなのだろう。装備や内装によってベーシックな「プレミアム」と上級版の「シエロ」に分かれる。
内装と外装が呼応する
ベーシックと言ったが、もちろん安っぽいという意味ではない。冒頭でも触れたとおり、近未来感をまぶした内装がいいあんばいなのだ。うっかりすると子供っぽい安手な装飾になりがちなところを、うまく大人向けのあつらえに仕上げている。ファブリックのシートに収まるとコックピットにいるかのような気分になるのに、エンジン始動はキーを回すことによって行う。
サイズを縮小した恩恵はテキメンで、明らかに狭い場所での取り回しが楽になった。ホイールベースは2540mmで207と変わらないが、フロントオーバーハングは770mmと75mmも短くなっている。この違いは数字以上に大きく、ボディー前端がおぼつかない感じにはならないのはうれしい。
それに加え、運転席からの眺めもクルマとの一体感を高めることに寄与している。小径ステアリングホイールとコンパクトなメーターパネルが視野の中心に簡潔にまとまっていることで、人とクルマとが直接的につながっている感覚が生じるのだ。外装と内装のデザインが、深いところで呼応しあっている好例と言えるだろう。
自然吸気の1.6リッターということで、動力性能に過度の期待はしていなかった。しかし、なかなか活発な走りを見せた。パワーの出方が望外のスムーズさだったことが、印象を良くしている。今時これがほめ言葉になるのかわからないが、実にモーターっぽい。ピストンの上下運動が影を潜め、回転運動が前面に出てくる。街中でのストップ&ゴーで扱いやすいのは、このスムーズさのおかげだろう。ありがたいことに小径ステアリングホイールが腕の動作を最小限に抑えてくれるので、交差点を曲がるだけでもキビキビとした動きができているような気分にさせられる。
出来のいいトランスミッション、なのに……
高速道路を走っても、モーターっぽい感覚は続いていた。加速がずばぬけているというわけではないが、やはりスムーズさが心地よい。軽やかにスピードが増していくのが喜びとなる。これにはトランスミッションの出来のよさも少なからず貢献しているはずだ。しかし、このクルマに与えられているのは、ごく当たり前の、というよりは古くさいといったほうがいい4段ATである。散々悪評を被ってきたあの「AL4」なのだ。
しばらくこのATと縁がなかったので、進化ぶりには面食らった。変速の流儀が人間の感覚に合わないなどと言われていたのに、そんな欠点はかけらも残っていない。4段ATなんて時代遅れかと思っていたが、仕立て方によってはまだ十分役に立つのだ。ただ、208にこのATが組み合わされるのは、それほど長い期間ではないらしい。遠くない将来、新たなトランスミッション、おそらくはDCTが採用されるという話だ。せっかくよくなったのにお役御免とは、AL4はなんとも不幸な星の下に生まれたものである。
正直言って、クルマ好きの興味を集めるのは、208の場合このモデルではないだろう。新開発のダウンサイジングエンジンを載せた「アリュール」とハイパワーな「GT」がどうしたって目立つ。
しかし、208ユーザーの裾野を広げる役割を担ったこのプレミアムだって、骨格のしっかりしたいいクルマだった。ボディーが小さくなったことは、取り回しの良さだけでなく、さまざまな面でメリットを生み出している。軽量化にもつながっているし、デザインにも緊張感を与えた。野放図な大型化は、もう言い訳のしにくい段階にきている。小さくなったのに室内は十分なスペースがあり、トランク容量は15リッター増加したというから苦労のかいはあった。
207の派手なルックスが苦手だった向きにも、208は受け入れやすいはずだ。自己主張は抑え、あらゆる面で控えめを心がけた。すると、魅力が増したのである。きっと、人間だって同じこと。見習いたいものだ。
(文=鈴木真人/写真=峰昌宏)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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