シトロエンDS4シック(FF/6AT)【試乗記】
さよならセミオートマ 2012.12.14 試乗記 シトロエンDS4シック(FF/6AT)……347万円
セダンの快適性とSUVの気持ちよさ、クーペのデザインを融合したというシトロエンのクロスオーバー「DS4」に、トルコン式6段AT仕様が登場。販売が継続される6段EGS仕様と比較して、その仕上がりを確かめた。
待望の“ふつうの”AT
これは日本市場にとって待望だろう。「シトロエンDS4」に、いわゆる普通のオートマチックモデルが追加された。PSA(プジョー・シトロエン)では最新の、アイシン第2世代の6段型。この6ATモデルのフットワークチューンやトリムグレードはこれまでの2ペダルセミAT(6段エレクトロニック・ギアボックス・システム=6EGS)と同様の「シック」となり、つまり、DS4ではトランスミッションの異なる2台のシックが、しばらく併売されることになるという。
エンジンも既存の2モデルと基本的に同じ直噴ツインスクロールターボだが、厳密に言うと、これまでにない専用チューンとなっている。プレスリリースの言葉を借りれば「トランスミッションとのマッチングを考慮したプログラミング変更」だそうで、従来の6EGS(やその他のPSAの同エンジン車)の156psより6psアップの162ps。最大トルク24.5kgmは変わりないが、その発生回転数が1400rpm(156ps版のそれは1400-3500rpm)となった。純粋に数字だけで考えれば「最高出力を引き上げたかわりに、トルクバンドがせまくなった」ということになるが、まあ、この程度の数字のちがいは、私も含めた一般人はほぼ体感できないと思う。
繰り返しになるが、新しい6ATと既存の6EGSはともに同じ“シック”というトリムグレードなので、トランスミッション以外に実質的な差異はない。ただし、機械レイアウトの都合なのか、パーキングブレーキ形式がこの6ATのみ電気式から機械式に変更になっていて、見慣れたパーキングブレーキのレバーが復活。巨大なコンソール収納がなくなるなど、センターコンソールの風景はちょっとフツーになってしまった。
あと、6EGSのシックでは装着不可だったシートヒーター付き各種レザーシート(今回の試乗車はクラブレザーシートがついていた)が、同じシックでも新しい6ATではオプションで選べるようになった。
クルマとの対話が楽しめたEGS
シトロエンのセミATの“EGS”は、普通のMTを構造そのままに油圧自動化したものだ。このタイプは日本でどうにも人気がないのだが、私は個人的に嫌いではない。いや、今をときめくツインクラッチのDCTも含めて、既存の2ペダルギアボックスのなかでは積極的に好ましいとすら思う。
この種のセミAT否定派の主張は「どうしてもギクシャクして不快」、あるいは「シフトダウンはともかくシフトアップでの空走感が許せない」、そして「どうせ自分でマニュアル操作しないとギクシャクするなら、普通のMTのほうがマシ」といったものだろう。だが、誤解を恐れずに言えば、この種の自動MTをアタマから否定する方々には「その前に、あんたの身勝手運転をなんとかしろ!」と言いたい私である。
現在、世界で最も完成度の高い自動MTを供給しているのはおそらくフィアットグループだが、シトロエンの6EGSも決して悪いデキではない。よく言われているように、絶対的な変速スピードはダウンもアップも、少なくともアマチュアのMT操作より数倍速い。それでもギクシャクや空走感が気になるのは、ドライバーがクルマとの対話を拒絶して、自分勝手にスロットルを踏みつけて、気持ちばかりが先走っているからだ。
シトロエンの6EGSでも、その変速プログラムの意図やクセを少し意識して、きちんと対話をしながら半日もドライブすれば、変速タイミングは自然と予測できるようになり、右足の力加減でシフトアップを促したり、あるいはシフトダウンを誘ったり……と、自由にギアを選べるようになる。あとは変速の瞬間のスロットル操作をうまく緩和するだけでいい。
クルマとの対話がそこまで深まれば、もうこっちのもの。セミAT特有のけなげな作動が逆にクセになり、つかみどころのないCVTや変速がキレすぎてコツコツするDCT、滑らかすぎる普通のトルコンATが物足りなくなること請け合い(?)である。
走りの完成度の高さはそのまま
とは言うものの、頻繁な加減速やストップ&ゴーを強いられる日本では、トルコンATのほうが、扱いやすく快適なのは否定できない。6ATを得たDS4が一般的な意味での商品性をぐっと引き上げたのは間違いない。
スペックから想像できるように、200psの「スポーツシック」でなくとも、DS4の走りはちょっとしたスポーツハッチと言っていい。DS4の新しいパワートレインは、エンジンチューンの微妙な差異こそあれ、基本的には同じシトロエンなら「DS5」や「C5」と同じ。ギアレシオも全車共通で、C5やDS5も十二分に活発に走らせる心臓部を、DS5より170kg、そしてC5セダンより240kg(ツアラー比では300kg)も軽いDS4に積んでいるのだから、そりゃ遅いはずはない。
6ATのギアレシオは巡航用の6速と5速は6EGSとほぼ同等であるものの、 4速以下は下のギアにいくほど6ATのほうがレシオが低い。よって6EGSより新しい6ATのほうが全体に活発に走る印象があるのは、エンジンパワーや変速プログラムというより、このギア比の恩恵が大きいだろう。高効率を売りにする最新ATをもってしても、カタログ燃費は残念ながら6EGS(11.7km/リッター)より落ちるが。
シャシー関連での明確な変更点はないので、フットワークはもちろんいつものDS4だが、「C4」も含めたシトロエンの“4”シリーズでは、操縦性や乗り心地はこのシックが最もモダンで完成度が高いと思う。地上高もボディー本体の全高もC4より大きく、同時にスポーティーテイストも売りにするDS4は、C4よりロール剛性が高く、常にフラットで上下動の少ない挙動を重視したチューン。意図的にハイドロ風のふんわり上下動を演出するC4よりモダンで、しかし200psのスポーツシックほど強引にロールを抑制する硬さもない。
前記のように、今回のシック6ATにはこれまでスポーツシック専用だったレザーシートが新オプション設定されたが、従来の6EGSではこれまでどおり選べない。車両価格もわずか1万円差だから、今後はこの6ATが販売の中心になっていくんだろう。そうなると、レザーシートの設定から見ても、6EGSは今後フェードアウトする可能性がある。セミAT好きの私はちょっとさびしい。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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