第166回:日本の名機は、まだ元気! 〜「ゼロ戦エンジン始動イベント」の会場から 【Movie】
2012.12.04 エディターから一言第166回:日本の名機は、まだ元気!〜「ゼロ戦エンジン始動イベント」の会場から 【Movie】
アメリカで保存されている日本のゼロ戦が、久しぶりの“里帰り”。その様子を、お披露目の舞台となった所沢航空発祥記念館からリポートする。
17年ぶり、3度目の来日
バスン、バスン、バララン! バラバラバラ……
どこかハーレーダビッドソンを思わせる、OHVエンジンならではの音。
仕事がら貴重なレーシングカーのエンジンサウンドを耳にする機会は多いけれど、今回の取材対象も相当なレア物だ。
なにせ、目の前でアイドリングしているのは、あの「ゼロ戦」なのである。
しかも、いまだに空を飛べる機体と知らされれば、緊張も一段と高まるというもの。
これ、ホンモノなんだなぁ……!
![]() |
![]() |
![]() |
2012年12月1日、埼玉県所沢市にある所沢航空発祥記念館で、「海軍零式艦上戦闘機五二型(通称:ゼロ戦)」のエンジン始動イベントが開かれた。
今回の試みは、同記念館が今年8月から開催している特別展「日本の航空技術100年展」の“目玉展示”として行われたもので、取材日の12月1日のほか、翌12月2日にも実施。明けて2013年3月の30日、31日にも予定されている。
イベント会場は、ときどき小雨がパラつくコンディションではあったが、どっこい、大勢の観客が詰めかけた。
でも、そうした熱心な航空ファンならずとも、ゼロ戦のことは日本人なら誰でも知っているに違いない。戦争に関するドキュメンタリー映像や書籍を通じて名前に触れる機会はたびたびあるし、その高性能が「優れた日本のものづくりの象徴」として語られることも多い。
さて、今回のデモンストレーションに使われた機体は、富士重工業(スバル)の前身である中島飛行機の小泉製作所で1943年に製造された。1944年に戦地で米軍の手に渡り、戦後、1957年にアメリカ・カリフォルニア州にある航空博物館「プレーンズ・オブ・フェイム」が所蔵。その後はレストレーションを重ねつつ、さまざまな航空ショーで飛行を続けている。
日本に里帰りするのも、実はこれが3回目になる。1978年と1995年の過去2回は実際に母国の上空を飛んでみせたが、今回はエンジンの始動のみ行われる。とはいえ、貴重な機会には違いない。いつも自動車イベントで往年の名車に会うときもそうだが、神妙な心持ちで見学に臨んだ。
![]() |
![]() |
世界でひとつだけの“音”
アメリカ人スタッフの手でアイドリングを始めたエンジンは、27.9リッター星型14気筒。クランク軸を中心として14本のシリンダーが放射状に並ぶ。スーパーチャージャーで過給され、最高出力1100馬力を搾り出す。
軽量で空力性能に優れた機体とあいまって、当時としても輝かしい高性能を発揮したというのだが――それほど有名なゼロ戦が今や1機しかないというのは、なんとも寂しい。
名車だったら、まだ残る。クルマと兵器を一緒にはできないけれど……。センチメンタルな筆者に、所沢航空発祥記念館の館長 坪井健司さんが応じてくださった。
「“飛べるゼロ戦”は、いまでも世界に十数機あるんですよ。ただ、オリジナルの栄(さかえ)二一型エンジンを搭載しているのは、この1機だけなんです」
修復がままならず、多くは形状の似たアメリカ製エンジンに乗せかえられてしまっているのだそうだ。
貴重な機体と言われると、音だけでは物足りなくなるのも人情……。でも、飛ばすには“年を取り過ぎている”ということなのでしょう?
「いや、とんでもない。この機体は、まだまだ元気に飛べますよ!」
と、坪井館長。
「場所(空港)の手配も必要になりますから、そう簡単にはいきませんけど。アメリカでのメンテナンスも非常によく行き届いていますし、いまでも飛行はできる。」
「今回はエンジン音をお聞かせするにとどまりますが……1911年に産声を上げてから、たった30年で世界の最高峰まで登りつめた、日本の航空機産業のすごさ。それをこの音から感じていただけたらと思っています」
いつになるかはわからないけど、飛んでる姿もリポートしたい。
(文と写真=webCG 関顕也/取材協力 所沢航空発祥記念館)
![]() |
![]() |
■ゼロ戦エンジン始動イベント(所沢航空発祥記念館)

関 顕也
webCG編集。1973年生まれ。2005年の東京モーターショー開催のときにwebCG編集部入り。車歴は「ホンダ・ビート」「ランチア・デルタHFインテグラーレ」「トライアンフ・ボンネビル」などで、子どもができてからは理想のファミリーカーを求めて迷走中。
-
第842回:スバルのドライブアプリ「SUBAROAD」で赤城のニュルブルクリンクを体感する 2025.8.5 ドライブアプリ「SUBAROAD(スバロード)」をご存じだろうか。そのネーミングからも想像できるように、スバルがスバル車オーナー向けにリリースするスマホアプリである。実際に同アプリを使用したドライブの印象をリポートする。
-
第841回:大切なのは喜びと楽しさの追求 マセラティが考えるイタリアンラグジュアリーの本質 2025.7.29 イタリアを代表するラグジュアリーカーのマセラティ……というのはよく聞く文句だが、彼らが体現する「イタリアンラグジュアリー」とは、どういうものなのか? マセラティ ジャパンのラウンドテーブルに参加し、彼らが提供する価値について考えた。
-
第840回:北の大地を「レヴォーグ レイバック」で疾駆! 霧多布岬でスバルの未来を思う 2025.7.23 スバルのクロスオーバーSUV「レヴォーグ レイバック」で、目指すは霧多布岬! 爽快な北海道ドライブを通してリポーターが感じた、スバルの魅力と課題とは? チキンを頬張り、ラッコを探し、六連星のブランド改革に思いをはせる。
-
第839回:「最後まで続く性能」は本当か? ミシュランの最新コンフォートタイヤ「プライマシー5」を試す 2025.7.18 2025年3月に販売が始まったミシュランの「プライマシー5」。「静粛性に優れ、上質で快適な乗り心地と長く続く安心感を提供する」と紹介される最新プレミアムコンフォートタイヤの実力を、さまざまなシチュエーションが設定されたテストコースで試した。
-
第838回:あの名手、あの名車が麦畑を激走! 味わい深いベルギー・イープルラリー観戦記 2025.7.5 美しい街や麦畑のなかを、「セリカ」や「インプレッサ」が駆ける! ベルギーで催されたイープルラリーを、ラリーカメラマンの山本佳吾さんがリポート。歴戦の名手が、懐かしの名車が参戦する海外ラリーのだいご味を、あざやかな写真とともにお届けする。
-
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。