第157回:実車の走りをバーチャルに再現!? これがトヨタ流「新たなクルマの楽しみ方」
2012.09.10 エディターから一言第157回:実車の走りをバーチャルに再現!?これがトヨタ流「新たなクルマの楽しみ方」
「実際にドライブしたクルマの動きを、テレビゲームやスマートフォンの画面上で再現する」――そんな新システムが完成したという。
一体どんなものなのか? 富士スピードウェイで試してみた。
実車とゲームをデータでリンク
最初は何を取材しに行くのかさっぱり分からなかった。「『トヨタ86(ハチロク)』と『グランツーリスモ』を連携させるシステムが体験できるそうです」と『webCG』の編集スタッフに言われても、一方はリアル、もう一方はバーチャル。それがどうすれば連携できるのかと、もうすぐ50代に突入する僕はチンプンカンプンだったのだ。
でも現場に行って関係者の話を聞いたら、ちょっと理解できた。
現在の自動車は「86」に限らず、高度にコンピューター制御されている。トヨタが「VSC」と呼ぶ横滑り防止装置などは、縦横Gやアクセルペダル開度、ステアリングの回転角度など、あらゆる情報をセンサーでモニタリングし、「CAN(Controller Area Network)」と呼ばれるシステムで統括して、作動をコントロールしている。
だからこのCANにGPSを介して得られる位置データを組み合わせれば、サーキットなどでの走行データが採取できる。それをUSBメモリを介して家庭用ゲーム機「プレイステーション」に取り込んだり、Bluetoothを使ってスマートフォンに送れるようにしたプラットフォームが、トヨタとデンソーが共同開発した今回の主役、「CAN-Gateway ECU」だ。
トヨタとデンソーではこのプラットフォームを、まず2013年春から、86でレースを行う関係者にモニター提供し、同年末に正式発売を予定しているという。似たようなプロダクトが、アフターマーケットに存在しなかったわけじゃないけれど、メーカー自らが開発した例は初めてではないだろうか。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
意外な開発の裏舞台
この日は富士スピードウェイのコースで86を走らせたあと、走行データをグランツーリスモでチェックするというメニューが組まれていた。意外だったのはその前のプレゼンテーションで説明を担当したのが、リアルな86のチーフエンジニアを務める多田哲哉氏だったことだ。
多田氏によれば、86では「iPhone」のように、ハードウエアそのものだけでなく、アプリでも楽しめるような環境を用意したかったとのこと。そのためにはどうすれば良いか考えているうちに、CANのデータを使うという発想が生まれたという。リアル部門のチーフがバーチャルも担当していることを含めて、いい意味でトヨタらしからぬ柔軟な発想にちょっと驚かされた。
富士スピードウェイを走るのはひさしぶり。しかもクルマはテールハッピーなことで知られる86ということでちょっと緊張したけれど、結論から先に言えば、高速コースでも安全に、そして存分に楽しめる魅力的なスポーツカーだった。
でもこの日の主役は86ではない。いい汗かきつつピットに戻ると、メカニックがグローブボックスを開け、USBメモリを差し込み、ボタンを押してデータの吸い出しを始めた。作業は1分ぐらいで完了。早速そのUSBメモリをプレイステーションに差し込んでチェックする。こちらの吸い出しも速かった。映像そのものを記憶させているわけじゃないから、容量はそんなに大きくなさそうだ。
ソフトで広がるクルマの楽しみ
映像はコースカメラ、車体後方からの俯瞰(ふかん)、コックピットからの前方視界など数種類を、コントローラーで自由に選択できる。ほんの数分前までリアルに走っていたシーンが、バーチャルで再現されるのだ。「初音ミクに初めて出会ったとき」並みの感動!? しかも、自分の運転はどうなのかが手に取るように分かるから勉強にもなる。
そもそもこれをすべてリアルでやってのけようとしたら、大変なことになる。コース上や車内に何台もビデオカメラを設置し、計測機器やソフトウエアをいくつも買い集めなければならない。それが、86とプレイステーションさえ用意すればできるのだ。
しかも将来的には、データを介してレーシングドライバーと走りを比べたり、世界のどこかにいるユーザーと“対戦”したりもできるとのこと。スロットル開度やギアボジションなどさまざまなデータを表示できるから、エコランのために役立たせることも可能だろう。
このプラットフォーム、現在の対象車種は86だけだが、他のトヨタ車も同様のCANを用いているから、ECUの装着さえできれば、どんなモデルでも今回体験したような楽しみ方ができるという。これがあれば、デジタル世代にもクルマを操る喜びを伝えられるかもしれない。知れば知るほど将来に期待を抱かせてくれる技術だった。
(文=森口将之/写真=高橋信宏)
実走行シーンと再現映像の比較動画
走行データを元にしたバーチャル映像では、実際の運転がどれくらいリアルに再現されるのか? 開発中のデモ用動画でご覧ください。

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
第858回:レースの技術を市販車に! 日産が「オーラNISMO RSコンセプト」で見せた本気 2026.1.15 日産が「東京オートサロン2026」で発表した「オーラNISMO RSコンセプト」。このクルマはただのコンセプトカーではなく、実際のレースで得た技術を市販車にフィードバックするための“検証車”だった! 新しい挑戦に込めた気概を、NISMOの開発責任者が語る。
-
第857回:ドイツの自動車業界は大丈夫? エンジニア多田哲哉が、現地再訪で大いにショックを受けたこと 2026.1.14 かつてトヨタの技術者としてさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さん。現役時代の思い出が詰まったドイツに再び足を運んでみると、そこには予想もしなかった変化が……。自動車先進国の今をリポートする。
-
第856回:「断トツ」の氷上性能が進化 冬の北海道でブリヂストンの最新スタッドレスタイヤ「ブリザックWZ-1」を試す 2025.12.19 2025年7月に登場したブリヂストンの「ブリザックWZ-1」は、降雪地域で圧倒的な支持を得てきた「VRX3」の後継となるプレミアムスタッドレスタイヤ。「エンライトン」と呼ばれる新たな設計基盤技術を用いて進化したその実力を確かめるべく、冬の北海道・旭川に飛んだ。
-
第855回:タフ&ラグジュアリーを体現 「ディフェンダー」が集う“非日常”の週末 2025.11.26 「ディフェンダー」のオーナーとファンが集う祭典「DESTINATION DEFENDER」。非日常的なオフロード走行体験や、オーナー同士の絆を深めるアクティビティーなど、ブランドの哲学「タフ&ラグジュアリー」を体現したイベントを報告する。
-
第854回:ハーレーダビッドソンでライディングを学べ! 「スキルライダートレーニング」体験記 2025.11.21 アメリカの名門バイクメーカー、ハーレーダビッドソンが、日本でライディングレッスンを開講! その体験取材を通し、ハーレーに特化したプログラムと少人数による講習のありがたみを実感した。これでアナタも、アメリカンクルーザーを自由自在に操れる!?
-
NEW
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
NEW
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
NEW
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。 -
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】
2026.1.17試乗記BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。 -
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る
2026.1.16デイリーコラム英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。
