アウディRS 5/S5クーペ/S5スポーツバック【試乗記】
恐るべきスーパーモデル 2012.08.26 試乗記 アウディRS 5(4WD/7AT)/S5クーペ(4WD/7AT)/S5スポーツバック(4WD/7AT) ……1308万6000円/909万円/894万円アウディのハイパフォーマンスモデル「RS 5」がマイナーチェンジを受け、日本に上陸。富士スピードウェイで行われた試乗会で、“超”スポーツクーペはどんなパフォーマンスを見せたのか??
体感以上の速さにアセる
富士スピードウェイ。ヘアピンカーブを抜けると、息の長い高速コーナー「300R」が待っている。タイムアタックでは、ピリピリとした緊張で腕が縮こまるセクターだが、自由なペースで走れるとなるとハナシが違う。「アウディRS 5」の左回りのヨーをステアリング中立で一度消してから、右、左と視界の先のゼブラを捉えながら緩い右カーブで速度を乗せていく。どうもスピードが出るのにフラストレーションがたまる富士スピードウェイにあって(運転者の技術的な問題か!?)、しばし爽快な気持ちでアクセルを踏める区間だ。
軽い下りの先にはシケインたるダンロップコーナー。その手前でブレー……、ウッ、ワアァァッ! 体感以上に速度が出てたぁ!! 心臓が口から飛び出しそうになりながらもブレーキペダルを踏みつけて、事なきを得る。ヘルメットの中で赤面しながら、右、左とステアリングホイールを回してテクニカルなセクションへと向かう。「アウディRS 5」、恐るべきスーパーモデルである。反省……。
アウディのスポーツモデル開発部門「クワトロGmbH」が手がける“超”スポーツクーペ、「RS 5」がマイナーチェンジを受けた。多くの追従者を生んだ「アウディ顔」のシングルフレームグリルは、上端左右の角が落とされ、グレーの縁取りが付くようになった。これ以上強調しようがないほどの、アグレッシブな大口顔である。ヘッドライト周りは、流行のLEDランプで飾られる。
運転席に座ってステアリングホイールを握れば、マルチファンクション用コントロールスイッチが設けられたそれの、底辺部分がフラットになったことに気がつく。好き嫌いはありそうだが、スペシャル感が増したことは確か。
RS 5の機関類に変更はない。動力系は4.2リッターV8(450ps、43.8kgm)+7段Sトロニックの組み合わせで、もちろん「クワトロシステム」を介して4輪を駆動する。カタログ燃費も8.1km/リッター(JC08モード)のままだ。車両価格は1222万6000円。
理性的な走りが似合う
ピットで斜光を浴びるアウディRS 5を眺めていて「カッコいいなァ」と惚(ほ)れるのが、前後フェンダーの膨らみである。フロントフェンダーはアルミ製。ベースとなった「A5」の流麗なラインを崩すことなく四肢を踏ん張り、相対的にキャビンを小さく見せている。特にリアのブリスターフェンダーは印象的で、1980年代に登場したラリーカー「スポーツクワトロ」を思い出させる。
運転席に座れば、ヘッドレスト一体型にして大きなサイドサポートが張り出すスポーツシートが、少々仰々しい。けれども、サーキット走行では素晴らしいホールド性でドライバーを支えてくれる、頼れるバケットシートだ。
ピットレーンで、軽くアクセルを踏むだけで、ガッシリとしたボディーは軽々と運ばれる。試乗車はオプションの電動パノラマサンルーフ(20万円)を装着していたので、車重は20kg増しの1830kgとなっていたはずだが、それでも450psの最高出力で割ると、4.1kg/psという優れたパワー・トゥ・ウェイト・レシオを誇る。0-100km/h加速は4.5秒。「ポルシェ911カレラ」をしのぐ速さである!
アウディ得意の四輪駆動システムは、トルク配分を前:後=70:30から15:85まで自在に変更できるもの。また、内輪に軽くブレーキをかけることで旋回性を高めるトルクベクタリングシステムを搭載。“ヨンクの鈍重さ”を、“オン・ザ・レールの旋回性能”に変換している。RS 5は、スロットルのオン・オフで積極的に姿勢を作って“曲がり”を楽しむ、というより、じっくりタイヤのグリップを生かしてカーブを回り、ヨンクによる怒濤(どとう)の加速で次のコーナーへ向かう、ちょっとストイックな走らせ方が合っているように感じた。
アウディRS 5、高速道路では向かうところ敵なしだろう。ただし驚異的に高い走行安定性ゆえ、ボンヤリしていると思わぬ速度に達してしまう恐れがある。サーキットと違い、こちらは赤面するだけでは済まされない。要注意。
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エンターテイナーなクルマ
アウディRS 5の試乗に先だって、「S5クーペ」「S5スポーツバック」にも乗ることができた。言うまでもなくS5は、A5シリーズのボディーに3リッターV6スーパーチャージャー付きエンジンを搭載したさらにスポーティーなモデル。
A5系もデビューから5年がたち、日本国内でのラインナップが整理された。2リッター直4ターボの「A5」、3リッターV6スーパーチャージャーの「S5」、そして4.2リッターV8の「RS 5」。NA(自然吸気)の3.2リッターV6が落とされ、わかりやすく、気筒ごとにモデルが分けられたわけだ。
短時間の試乗のお相手は、ミラノレッドに塗られたS5クーペ。「RS 5の引き立て役か!?」と思いきや、とんでもない! ベース価格889万円と、お値段はRS 5の約3分の2なれど、6気筒エンジンからは44.9kgmと、RS 5を1.1kgm上回る最大トルクを発生する。しかもスーパーチャージャーの特性を生かして2900rpmの低回転域から5300rpmまで、広い範囲で骨太の駆動力が供給される。速い。そのうえ、クールな外観に似合わず、派手な排気音とシフトダウン時の精緻なブリッピングでドライバーを喜ばせてくれる。S5クーペ、なかなかにエンターテイナーなクルマである。
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今回、レースコースに入ることができたのは、5ドア版のS5スポーツバック。A4のシャシーを60mm切り詰めたA5クーペと異なり、こちらは2810mmとA4と同寸のホイールベースを持つ。同じ4枚ドアでも「セダンじゃちょっと……」と感じる洒落モノが選ぶ5ドアハッチ、というか4ドアクーペである。
「線路が敷いてあるような」と言いたくなるアウディ車特有の直進安定性は、当たり前だがサーキットでも同じ。ホームストレート、3速で140km/h、4速で200km/hに達しようかという速度でも、ヨンクのスポーツバックは余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)だ。ラグジュアリーな内装ゆえ、シートのホールド性はRS 5に譲るが、S5スポーツバックの本籍はアウトバーンと考えれば、目くじらを立てることでもあるまい。
自動車専門誌的な比較対象からは外れるけれど、「今度の『メルセデス・ベンツCLS』は、ちょっとゴツくなり過ぎて……」とお思いの旧CLSオーナーの方。一度、アウディS5スポーツバックを試してみても、おもしろいかもしれません。
(文=青木禎之/写真=田村 弥)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。