日産シーマハイブリッドVIP G(FR/7AT)【試乗記】
起きるかシーマ“再”現象 2012.08.15 試乗記 日産シーマハイブリッドVIP G(FR/7AT)……845万2500円
「日産シーマ」が“フーガのストレッチバージョン”として復活。1モーター2クラッチ方式のハイブリッドシステムを携えた5代目は、初代のように“社会現象”を巻き起こせるか?
歴代のファンから要望を受けて
「日産シーマに乗っていただきたい」と編集部から電話。「はい」と僕。いつもの仕事の打診である。いつもなら電話を切った後、あの話題のクルマか、そういや新しいエンジンを搭載してんだよな……などとひとしきり想像しながらiCalに日程を書き込むのだが、「シーマ」……、車名を聞いても一向にどんなクルマか思い浮かんでこない。
思い出すのはうんと昔、免許を取る前の、初代の「ケツ下げて、とんでもない加速をしてたよな」「セドリック版とグロリア版があったっけ」「ステアリングホイールのセンターパッドが固定されてたはず」「ウグイスみたいな色があった」という、遠い思い出ばかり。
1980年代後半、日本はバブルに沸き、カタギの人でも3ナンバー車を乗り回していいことになった。いや法的には前から問題なかったのだが、社会的に乗っていい雰囲気になった。ちょうどそんな時期に、いやそんな浮かれた日本に狙いを定めて、初代シーマは登場し、大ヒットした。
しかし、2代目からの印象がほとんどない。調べてみると、2代目はもっと豪華にV8エンジンを搭載。そういえばちょっとお尻がカッコよかった。2代続けてジャガーみたいだった。すっかりバブルもはじけていた頃に出た3代目以降は本当に思い出せないが、ともかく初代登場から24年たって登場した現行型は5代目。現代の「セドリック」「グロリア」たる「フーガ」のハイブリッドをベースに、ホイールベースをストレッチした後席重視のセダンだ。
かつてシーマは少なくとも価格的には国産オーナードライバーズカーの頂点にあるクルマだったが、新型は運転手付き、黒塗りの法人向け車両というイメージが強い。4代目あたりからそういう使命を帯びた。
ところが、日産に聞くと、確かに運転手付きのクルマとしての役割を担う割合は増えたが、オーナードライバーが買っていく割合もまだ相当あるという。4代目が生産中止となってから、「フーガ」が日産の頂点という状況が2年弱続いたことに対して、初代からのシーマファンからお叱りの声もあったようだ。
確かに歴代のシーマに乗り続けた人が次に買うクルマがなかった。メルセデス・ベンツやジャガーを買えばいいじゃないかと思う人がいるかもしれない。外国かぶれの僕もそう考えたが、日本には国産の高級車じゃなきゃダメという人が結構いるらしい。
低速域を重視したセッティング
ただし、その声はフーガとは見た目からしてまったく異なるボディーの開発を決意させるほどの数ではなかったのだろう。シーマはフーガのストレッチバージョンだ。このクルマの購入層が喜びそうな、メッキを多用した立派なフロントグリルが装着されるなど、専用のディテールは随所に見受けられるが、ひと目でフーガがベースだとわかる違いにとどまる。これでは、後ろに座る人はともかく、オーナードライバーにとってはフーガハイブリッドとの違いを感じにくく、消化不良なのではないだろうか。
歴代シーマは、初代から3代目までは専用ボディー、4代目では(存在としてはシーマよりひとつ上の)「プレジデント」と共有するボディーを使った。今回は(存在としてはひとつ下の)フーガと共有するボディー。このことを歴代シーマファンはどう評価するのだろうか。
成り立ちばかり書いていてもしかたないので試乗する。今回、編集部はショーファー経験のある男性を運転手として連れてきてくれるという粋なはからいをしてくれた。好意に甘えて、リアシートへ。ホイールベースの延長が後席の空間拡大に充てられているのに伴い、リアドアが大きい。アクセスは上々だ。座ると膝前に広大なスペースが広がる。「膝前に拳がいくつ入る」なんてリポートを時々見かけるが、拳じゃ足りない。スイカが入る。
シートは大げさにリクライニングするわけではなく、調整は座面が前へ15cm程度せり出し、それに伴って背もたれがわずかに寝る程度。セミアニリン仕上げのレザーシートは柔らかく、「ティアナ」のレザーと違うということは、触れればすぐわかる。
「やってくれたまえ」のひと言で、クルマはするすると前へ進む。乗り心地には厳しい条件の首都高へ。目地段差はまあ上手にいなすが、感動するほどではない。ショックの少なさでいえば、「メルセデス・ベンツSクラス」のほうが確実に上だ。コーナーの連続などでの揺れ戻しも、記憶の中のSクラスより大きい。
Sクラスに付く装備はシーマにもほぼ付いていて、サイズもほぼ同じだが(全長はSロングより10cmほど短い)、このあたりが数百万円違うということなのだろう。シーマは「後ろが広いフーガ」の域を超えていない。ただし、スピードを下げれば下げるほど乗り心地は快適になるから、そこへ乗り心地のピークをもってきているのだろう。使われ方を考えれば納得できる。
パワートレインはフーガハイブリッドと同じ3.5リッターV6エンジン+モーターのハイブリッドシステムを採用する。クラッチがエンジンとモーターの間と、トランスミッションとプロップシャフトの間にあり、「モーターのみでの駆動」「エンジンのみでの駆動」「両方での駆動」などをシームレスに使い分ける。この直列的な配置によって、ハイブリッドといっても、乗ってるほうは特別なものを動かしている印象はなく、大きなトルクのエンジンのようなフィーリングを味わうことができる。
注意深くタコメーターを見ていると、状況次第で結構な速度でもエンジンが止まっていることがわかる。ただ、ハイブリッドは特に高級感の増幅には寄与しておらず、社会の目を除けば、後席の住人にプラスがあるわけではない。ハイブリッドということなら、「レクサスLS」もそうだし、「Sクラス」でも「BMW 7シリーズ」でも選ぶことはできる。
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シーマならではの何かが欲しい
ちょっとしか支払ってなかったのか、ショーファーは東京の外れで降りて帰っていった。しかたなく運転席へ移動。東名高速へ足を伸ばす。運転席まわりも当然ながらフル装備で、前車を追従するクルーズコントロールでもオンにしておけば、快適に移動できる。が、決して楽しくはない。このクルマにファンを求めるのは間違いだ。自分で買うことを目指すクルマではなく、後席に座ることを目指すクルマなのだから。
クルマの価格は正直で、フーガを運転している以上のものは感じない。それでいいのだ。会社の規模はさまざまだ。すべての社長が経理にSクラスを認めてもらえるわけではないし、業績を考えると無理な場合もあるだろう。国産車縛りがあるかもしれないし、取引先との関係からおのずと車種が決まってくるケースもあるかもしれない。
試乗した「VIP G」の価格は840万円。この個体ではガーネットブラックという特別色が選ばれており、さらに吸音・消臭機能付きのエグゼクティブフロアマットがディーラーオプションとして装備され、しめて856万8000円(編集部注:スペック表の価格845万2500円にはディーラーオプションを含まない)。自分で運転するためのクルマしか買ったことがない僕にはわからないが、この値付けにもきっと意味があるのだろう。
これ以上、ハードについて語るべきことを思いつかないが、一日、前後のシートに乗った限りにおいては、一般のクルマ好きが欲しがるクルマではないと感じた。だが、造って売る方としては、当然ながら手を抜くわけにはいかない類いのクルマだ。なぜなら、このクルマに乗る立場の人、つまり多くの場合、社会的に影響力のある人々が日産を評する材料となるクルマだからだ。
仮にその立場になったと想像してみたが、シーマからは日産の本気があまり見えなかった。「GT-R」に感じる鬼気迫る造り込みも、「ジューク」に感じる遊び心も、はたまた昔のシーマに感じた迫力も、感じることができなかった。今の時代に即した“現象”を起こすくらいのクルマであってほしい。それくらいのビッグネームだと思う。
(文=塩見智/写真=高橋信宏)
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塩見 智
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