ポルシェ・カイエンGTS(4WD/8AT)【海外試乗記】
温厚ときどき凶暴 2012.08.09 試乗記 ポルシェ・カイエンGTS(4WD/8AT)……1249万円
クルマは見かけによらぬもの。見るからにどう猛そうな新型「カイエンGTS」だが、意外や普段は穏やかという。しかし、ひとたびスポーツモードに切り替えると……。オーストリアからの第一報。
自然吸気シリーズ最強の「カイエン」
「ポルシェ・カイエン」シリーズに今回新たに加わった「GTS」は、「カイエン」(V6)、「カイエンS」(V8)、「カイエンSハイブリッド」、「カイエンディーゼル」(日本未導入)、「カイエンターボ」に次ぐ6つめのモデルだ。ポルシェは「自然吸気エンジンを搭載した最もハイパフォーマンスなカイエン」と定義している。ちなみに「GTS」モデル自体は、先代型のモデルライフの後半時期になって設定され、累計で1万5766台販売されたそうだ。これは、同時期に販売されたカイエン全体の17%に相当するという。
新型も、コンセプトそのものは先代型を踏襲している。つまり、エンジンとシャシーを強化し、より多くのオプションへ対応させ、総合的なパフォーマンスを向上させるという手法だ。悪路走破性よりも、むしろオンロードでの速さを追求している。
4.8リッターのガソリンV8エンジンは、同排気量のV8を搭載する「カイエンS」と比較して20psと1.5kgmずつ強化されているが、パワーアップのために採られた手段が意外にアナログ的で面白い。まず、吸気バルブのリフト量を1mm増やした。リフト量が11mmとなったことで、吸入される混合気の量が増え、出力向上につながった。と同時に、カムプロファイルもシャープなものに変更され、バルブスプリングも強化された。もちろん、エンジンの電子制御も幅広く見直されている。
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シャシーも独自の設定となっている。車高はカイエンSより24mm(日本仕様の同士の比較では22mm)低く、リアトレッドは17mm広い。車高が5段階に切り替えられるオプションのエアサスペンションを選べば、車高はさらに20mm低くすることができる。タイヤは20インチが標準。試乗車はオプションの21インチを履き、エアサスペンションも装備していた。
ちなみに、GTSでは「スポーツステアリングホイール」が標準装備となるので、自動的にシフトパドルが付いてくる。ATは8段のティプトロニックSだ。また最近、多くのメーカーが積極的に採用している、内輪と外輪の回転差を利用したコーナリング安定デバイスも「PTV Plus」(ポルシェ・トルク・ベクトリング・プラス)の名でオプション設定されている。さらに、ここにはすべて記すことができないほど豊富なオプションが用意されており、特にアダプティブクルーズコントロールなどのドライバーアシストシステムが充実してきていることもこのモデルの特徴となっている。
見かけによらず普段は穏やか
オーストリア南部の街、クラーゲンフルト郊外のヴェルター湖畔に並べられたカイエンGTSは、離れたところから見てもすぐにそれとわかった。車高の低さもさることながら、黒いベゼルを持ったヘッドライト、大きなエアインテーク、黒い窓枠、専用デザインの20インチホイール、赤くペイントされたブレーキキャリパーなどの専用エクステリアデザインパーツが迫力を醸し出していたからだ。筆者は、オプションの21インチタイヤとエアサスペンションを装備したカイエンGTSに乗り込んで走りだした。
その見かけほど走りが荒々しくないのは、先代型と変わらない。カイエンSと変わらぬ感触で、湖畔の一般道をゆっくりと抜けていく。
エアサスペンションには電子制御ダンパーのPASM(ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネージメント)が組み込まれているので、「ノーマル」から「コンフォート」へと切り替えてみた。すると、70km/h程度で走っていても改善が著しい。路面からのショックを柔らかく受け止める一方で、いつまでも続くかのように思われた上下方向の振動がしっかり抑えられている。ノーマルモードでもショックの吸収は十分で、“角”はすべて丸められている。とても快適な乗り心地だ。
しかし、ドライブトレイン開発責任者のトーマス・キャスパー氏は「GTSは最もエモーショナルなカイエン」と言ってはばからない。フルモデルチェンジによって最も大きく進化した点は、やはりスポーツモード選択時のパフォーマンスとキャラクターだろう。
迫力のスポーツモード
まず、スポーツモードのボタンを押すと、エンジンのレスポンスが鋭くなり、シフトアップポイントがより高回転域に移動していくのがハッキリとわかった。シフト時間の短縮は、今回のモデルチェンジにおける大きな課題だったという。
また4.8リッターのV8ユニットは、スポーツモード選択時の音についてもかなり念入りに調律されている。具体的には、ふたつの音響チャンネルが組み込まれた「ツインフロー・サウンドシンポーザーシステム」なるデバイスが、吸気音を排気音と同じくらいの音量で聞こえるように、積極的に室内に導いている。
また、リアマフラーとテールパイプカバーの間にはエキゾーストフラップが二つ設けられ、スポーツモード時に車速、エンジン負荷および回転数、選択されているギアを判断し、フラップを開けたり閉めたりするようになっている。同様のシステムは先代GTSにも装備されていたが、今度のは明らかに演出が強められている。低い回転数から強く踏み込んだ時の排気音のボリュームが全然違う。
もちろん、ハンドリングの良さも新型の見どころだ。小さなコーナーが連続するミニサーキットでも試乗したが、「PTV Plus」や、同様にオプションのアンチロールシステム「PDCC」(ポルシェ・ダイナミック・シャシー・コントロール)などの効果も大きく、大きく重いクルマを振り回しているという実感が小さかった。ひと昔前のSUVでは考えられないほどのスピードと最小限の姿勢変化でコーナーをクリアしていくのが印象的だった。
そしてもうひとつ明確な進化点は、ティプトロニックSの制御が一段と洗練されたことだ。急な加速をしたい時、逆に緩やかに加速したい時、あるいは急減速している時、またはコーナリング中にシフトアップするべきか、するべきではないかなどを、ドライバーの意思を先読みしているのではないか? というほど的確に反映してくれる。
PDKを装備しているカイエン以外のモデルも含めて、最近のポルシェ各車の走行制御の賢さには舌を巻く。まずは迫力ある外観と音が際立つカイエンGTSだが、その内側の目には見えない「しつけ」についても、より高度なものになっていた。
(文=金子浩久/写真=ポルシェジャパン)

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