ベントレー・コンチネンタルGT V8(4WD/8AT)【試乗記】
V8こそベントレーと言おう 2012.08.07 試乗記 ベントレー・コンチネンタルGT V8(4WD/8AT)……2471万2100円
4リッターV8エンジン搭載の「コンチネンタルGT」が上陸。W12シリーズで培われた世界は、V8モデルにどう受け継がれたのか。箱根で試した。
開会式で何を見たか
初夏の箱根で新しい「コンチネンタルGT」に乗った翌々日の未明。テレビの前で最初はポカンと口を開け、そのうち“らしいんじゃないかな”と、無理して自分を納得させた。そう、ロンドンオリンピック開会式のオープニングショーのことだ。
英国にまつわることは、知れば知るほど底が見えないというか、一筋縄ではいかない印象を抱いていたけれど、それにしたってオリンピックの開会式といえば、国威発揚のために派手で大げさに元気良く押し出すか、あるいは平和と平等と人間の絆のようなテーマで一般受けを狙う“公の”舞台と捉えるのが、まあ定石だろう。
にもかかわらず、グラストンベリーの丘に始まって、産業革命から階級社会、保険制度をネタにしたミュージカル仕立ての出し物から、パンクロックや007にミスター・ビーンまで、自分たちの国と民族の来し方をドタバタ劇のように詰め込んであれほどあからさまに見せるなんて。しかも、即位60年を迎えた女王陛下をはじめ、世界中から集まったお歴々の目の前で。
だいたい観客や世界の人々はどのように見て、どの程度内容を理解していたのだろうか。もちろん私にも意味不明なものはたくさんあった。「湖水地方をめぐるイギリス7日間」の旅に行き、本場のアフタヌーンティーを味わってからじゃないと死ぬ訳にはいかないわ、と前々から言っている叔母さんにどう説明したらいいかと考えると、実に気が重い。
自らをも笑い飛ばせる成熟した文化の余裕なのか、単なるあまのじゃくなのかはしれないが、英国を単純な言葉で言い表せないことだけはあらためて感じた。あるいはそれこそ狙いだったのかもしれない。もし東京で次の次のオリンピックを開催する事になっても、あんな脚本が許されないことは確かである。
グランドツアラーの意味
ベントレーは、そんな裏表のさらに裏があるような世界でもっともクラッシーな国で、ブランドアイデンティティーや世界観などというマーケティング用語が発明されるずっと前に、ごく限られた特権階級のために生まれた自動車であり、創立からわずか10年ほどの間に、ルマン24時間レースを5度制覇、ついでにイギリスから海を渡ってルマンまで自走し、レースを戦って再び自走して帰ってきたという逸話を残し、タフで高性能なグランドツアラーという名声を確立したメーカーである。その歴史を見逃しては、捉え方が薄っぺらくなってしまうかもしれない。
その「GT」にしても、最近では随分と安売りされている例も見かけるが、もともとは極めてノーブルな単語である。今では大旅行とか長距離旅行というぐらいの意味で使われている“グランドツーリング”は、もともと英国の上流階級の子弟が見聞を広めるために欧州大陸を旅する遊学、視察旅行を指す。それに使われる自動車がグランドツアラーだから、当然、タフでパワフルで機械的にも高品質でなければならない。
しかもそれがおよそ90年前ということを考えれば、まさしく飛び抜けたスーパーカーだったと言うほかない。「コンチネンタルGT」という名称はもちろん当時の権威を踏まえたもので、端っから庶民には縁がなくて当たり前なのである。
それゆえ、いきなり値段や燃費や加速データ、あるいはライバルと比べてどこがどう優れているかなどと下世話な話をする前に、偉大な先駆者たちが創り上げた歴史と伝統への敬意を払うのが、礼儀正しい日本人のマナーではないかと思う。
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どう変えないかが大切
とかなんとか言っても、英国貴族だってかすみを食べて暮らすわけにはいかないし、ベントレーも時代の波には逆らえない。マーチ卿がグッドウッド・フェスティバルを始めたのはそもそも広大な領地と館(やかた)を維持するためであり、紆余(うよ)曲折を経て今ではフォルクスワーゲン・グループの中のれっきとした自動車メーカーとなったベントレーも、年間1万台に満たない生産台数とはいえ、社会的要請に応えなければならない。燃費を40%も改善したという新型直噴V8ツインターボを搭載したのはそのためである。
普通の試乗記であれば、新しく搭載された4リッターV8ツインターボエンジンが、これまでの6リッターW12ツインターボエンジンとどのように違うのか、それによって実際の走りっぷりはどう変わったのか、というあたりが要点になるのだろうけれど、忌憚(きたん)なく言えば、ベントレーに限ってはあまり重要ではないだろう。いや、正確に言えば、どのぐらい変わらないのか、ということのほうがはるかに大切なはずだ。
それについては心配無用と即答できる。エンジンのスペックはW12の575ps/6000rpm、71.4kgm/1700rpmに対して、V8は507ps/6000rpm、67.3kgm/1700rpmとわずかに下回っている。公表された性能数値も0-100km/h加速が4.6秒から4.8秒に、最高速度も318km/hから303km/hに低下している。だが、これだけのレベルで互いのわずかな差異をうんぬんするのは意味がない。問題は“触感”だが、V8は依然として重々しくパワフルであり、直接乗り比べなければ実感できないはずである。
無論、細かく言えばV8の回転フィーリングはより軽快で滑らかであり、W12の大波が押し寄せるようなパワーの盛り上がりとは種類が異なるが、8ATに進化した変速機も含めて従来のコンチネンタルGTとしての統一感に影響するものではない。また新ユニットのトピックのひとつである可変シリンダー機構、すなわち低負荷時に4気筒に切り替わるシステムの作動具合もまったく感知できなかった。
その重ささえ忘れなければ、確実な手応えと高いスタビリティーを利して驚くほど飛ばせるハンドリングも同様、V8のほうがほんのわずか鼻先が軽い気がするが、個体差でないとは言い切れない、そんなレベルである(車重はV8が25kgだけ軽い)。
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そうそう、参考までに、箱根の山道で車載の燃費計は平均5.5km/リッター前後を表示していた。ええっと驚かれる人はこのクルマが2.3トンの4WDであることを思い出してほしい。同じような場所でW12は2km/リッター前後を示していたのだから、長足の進歩と褒めてあげたいぐらいだ。
価格はW12の2415万円に対して2166万円と、約250万円安いが、これにはちょっと異議を唱(とな)えたい。いずれW12はハイパフォーマンスモデル専用になるのかもしれないが、V8がエントリーモデルであるような誤解を招かないためにも、こんな価格差ならつけないほうがいい。何より環境に対する価値に金を払うという姿勢こそクラスに伴う責任であり、ベントレーが伝えるべきメッセージではないだろうか。
(文=高平高輝/写真=高橋信宏)

高平 高輝
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