トヨタ・プリウス G “ツーリングセレクション・レザーパッケージ”(FF/CVT)【試乗記】
洗練された定番 2012.08.06 試乗記 トヨタ・プリウス G “ツーリングセレクション・レザーパッケージ”(FF/CVT)……343万3555円
マイナーチェンジしてはや7カ月あまり。補助金と減税の追い風を受けて、月3万台ペースで売れている日本の大定番カー「プリウス」にあらめて乗ってみた。
「ハイブリッド車が人気」なのではない
ちょこっと都内を走っただけで、「プリウス」というのは、実はこんなにたくさん走っているクルマだったんだと、あらためて感心してしまった。
今回、プリウスに試乗するに当たり、かなり意識して探すようにしていたら、気がつけば視界に2台、いや3台入っていたなんてことすらあった。いったいどれくらいの台数が売れると、これだけ頻繁に見かけるようになるのだろうか。
今回試乗したマイナーチェンジモデルが発売されたのは2011年12月19日(エコカー補助金の対象日初日の前日だ)。翌2012年1月から同年6月までの販売台数を調べてみれば、約18万1000台と、実に月販3万台ペースで売れていたのだった。
過去数年を振り返ってみれば、2011年は約25万2000台(月販2万1000台)、2010年は約31万5000台(同2万6000台)と、バブル期のカローラに匹敵する勢いで売れていた。どおりで見かけるわけだ。
エコカー補助金とエコカー減税で、未曾有(みぞう)の上昇気流に乗るハイブリッド車――そうまとめれば、読み物としてはまとまりがいいかもしれない。しかし、コトはそれほど単純でもない。“プリウスキラー”の鳴り物入りで登場した「ホンダ・インサイト」も、同じトヨタの「SAI」にしても、販売ランキングのベスト20位にすら入っていない。ハイブリッド車の中にも、はっきりとした「勝ち負け」がついてしまっているのだ。
まずはハイブリッド車として高い基本性能を備えること、そして税金や補助金の面で後押ししてもらえるかどうかが、販売上の勝敗を決める大事な要因であることにちがいはない。しかし、プリウスが一人勝ちしている状況を見るにつけ、ハイブリッド車とて「ブランド」の有無がビジネスの勝敗を決めるフェーズに入っていることに気づかされる。つまり消費者は、ハイブリッド車を買っているのではなく、プリウスを買っているのである。
「通常のマイチェン」に見えるが……
売れているクルマに対して大きく手を加える必要はない。そう判断したか、2011年12月のマイナーチェンジでは、プリウスにそれほど大きな仕様変更はないように見える。内外装デザインの一部変更と、静粛性の向上、および走りのブラッシュアップがその主眼という、マイナーチェンジとしてはごくありきたりなメニューにとどまっている。
具体的には、フロントバンパー、フロントグリル、リアコンビネーションランプなどのデザインに変更が施されている。ヘッドランプユニットのクリアランスランプがLEDに改められたのも新しい点だ。
機能面では、歩行者に対して車両の接近を伝える車両接近通報装置(「ヒューン」というモーター音を模した音が約25km/hまでの領域で発せられる)が全車標準装備となった。また、吸音材の追加などによって室内の静粛性が高まり、さらにボディー剛性の向上により、乗り心地と操縦安定性が改善されたとアピールされている。
もちろんハイブリッドシステムまわりも、当然のことながら周辺技術の進歩に応じて、より緻密で高効率な制御へとステップアップしていることと思われる。しかし、少なくともカタログレベルの情報だけでは、それらをうかがい知るのは難しい。1.8リッターエンジンやモーターのスペック、あるいはJC08モードで32.6km/リッター(Lグレード)をうたう燃費も変わらず、バッテリーもニッケル水素の使用にとどまっている。
室内の静粛性が増した
いざ走りだすと、トヨタの主張どおり、静粛性が高まっていることが体感できた。webCG編集部の社用車となっている三代目プリウス(マイナーチェンジ前の前期型)と比べると、特に日々多用する60km/h以下の速度域で、室内へ透過してくるエンジン音が抑えられていることがよりはっきりと実感できた。
エンジン音が小さくなったので、周囲が騒々しい都市部ではエンジンの起動と停止が認識しづらい場面がますます増えた。エンジンとモーターの駆動力の“バトンタッチ”は振動面だけでなく、聴覚の面でもよりスムーズになっている。洗練度が高まっている。
ついでに言えば、ドア内部のインシュレーションも従来モデルより念入りになったようで、ドア(特に後ろ)を開け閉めしたときに、いかにも鉄板でござい! というような薄っぺらい音がしなくなっていた。テスト車にはオプションの「JBLプレミアムサウンドシステム」が付いていたので、その“デッドニング”のおかげ? 他の仕様も試してみたいものだ。
またプリウスというと、これまでこの価格帯(試乗した「G“ツーリングセレクション・レザーパッケージ”」ともなると、車体だけで300万円超級である)のクルマにしてはロードノイズの遮断が甘めで、その改善に課題を残していたように思えたが、この点についても日常的な速度域ではだいぶ抑えられた印象を持った。
ただし、乗り味の上質感をアピールできる域に達したかというと、もう一息という感じだ。目の粗い舗装を通過すると、まだそれなりに騒々しく、荒々しさが残る。
ロードノイズはタイヤ(テスト車はトーヨー・プロクセスR30を装着)だけではなく、クルマの足まわりや骨格によっても伝達され、増幅されるものであり、その根本的な解決はプリウスが次世代のアーキテクチャーを用いるまでの宿題になっているのかもしれない。少しでも室内の静かさを高めたければ、荷台のラゲッジカバー(トノカバー)は閉めるべき。これだけでも、だいぶ印象が変わる。
今回の試乗は、都内から箱根まで往復して328kmを走り、16.4リッターのガソリンを消費。いわゆる満タン法で単純に計算すれば20.0km/リッターとなった(距離計誤差は未修正)。プリウスの燃料タンク容量は45リッター。都内から箱根へ2回、場合によっては3回往復できるプリウスの低燃費ぶりは、この時代、やはり大いに魅力的だ。
あれこれ考えながらも、最後にやはりそう痛感した次第である。
(文=webCG 竹下元太郎/写真=小林俊樹)
