第155回:25年ぶりのリターンライダーの独り言 「トライアンフ・タイガーエクスプローラー」試乗記
2012.07.30 エディターから一言第155回:25年ぶりのリターンライダーの独り言「トライアンフ・タイガーエクスプローラー」試乗記
年齢は今年で知命。これからが男盛りだ! と威勢を張ってはみるものの、大学に上がった息子とはトンと会話がなくなってしまったし、妻は妻でいろいろ忙しいみたいで、最近ちょっと寂しいのが本音。わが家の「ミニバンの季節」はもう終わってしまったようだ。いっそのこと「トヨタ86」にでも乗って、峠に通うか? いや、若いときに果たせなかった夢がある。そろそろワタシも、ビッグバイクに乗っていい年齢になったらしい。
アドベンチャーツアラーの決定版
いや威張るわけではないが、四半世紀もバイクから離れていると、何から何まで浦島太郎である。その昔、こういうバイクはイメージの源をパリダカに求め、ビッグオフローダーとか、略してビッグオフなんて言ったもんだが、今ではアドベンチャーツアラーなどと呼ぶらしいじゃないか。
確かに、BMWの「GS」シリーズにしろ、ヤマハの「スーパーテネレ」にしろ、かつてパリダカで勇名をはせたバイクに、もはや砂漠を行くワークスマシンのイメージはない。リアに四角いパニアケースを背負って、ロードバイクより行動範囲が広いツアラーにくら替えしてしまっている。学生時代、ガストン・ライエが駆るマルボロカラーの「R80GS」に憧れて、「ホンダXL250Rパリダカ」にアチェルビスのハーフカウルを付けていたワタシとしては、ちょっと寂しい気もしている。まあ、それもこれも時代であるからして、しょうがない。
今回の主役であるトライアンフの「タイガー」にしたってそうだ。つい最近まで、ラリーレイドを意識したようなスタイリングのバイクだったが、いつの間にか今をときめくアドベンチャーツアラーに進化し、この分野の雄であるBMW GSに真っ向勝負を挑むまでになっていた。
そのタイガーシリーズの、最新にして、最大・最強の一台が「タイガーエクスプローラー」だ。エンジンは現代のトライアンフのアイコンとなっている並列3気筒で、排気量は1.2リッター。そのパワーは同じく1.2リッター級のアドベンチャーバイク、「BMW R1200GS」や「ヤマハXT1200Zスーパーテネレ」よりも強力な、137psと12.3kgmを生み出す。車量は259kgなので、パワーウェイトレシオでいうと実に1.89kg/ps。740psをうたうフェラーリの最新スポーツカー「F12ベルリネッタ」ですら2.06kg/psなのだから、この数字は相当なものである。
さて、そんな今どきのスーパーツアラーにまたがって、果たしてブランク歴25年のリターンライダーは、試乗会場にリターンできるのだろうか? 正直言ってワタシは不安だ。
バイクは体で記憶するもの!?
遠目に巨大なタイガーエクスプローラーは、近くで見てもやはり巨大であった。特にヘッドライトまわりのボリューム感は相当なものだ。最近、足腰がちょっと怪しくなってきている知命のワタシにとって、最大の懸念は259kgという車重である。重心高の高いデュアルパーパスマシンで、しかも250kgを超える車両が、いったいどのような操縦体験を強いてくるのか? 想像が付かない。なにせワタシのXLは、その半分の130kg程度しかなかったのだから。
しかし、何のことはない、いったん動き出してしまえば、タイガーエクスプローラーの足取りは想像以上に軽快であった。しかも、ワタシのようなノービスライダーのぎこちない荷重移動に対しても、すっと自然かつ素直に反応してくれるので、何となく乗りこなせている気分にさせてもらえるところもうれしい。コーナーのひとつひとつに、ほどよい楽しさを感じさせてくれる、言うなればとても面倒見のいいバイクである。
2kg/psを切る強烈なパワーウェイトレシオがもたらす加速にしても、ありがたいことに、「これはもはや手に負えない……」と絶句するほど激辛の味付けではなかった。もちろんスロットルを荒くあおれば、ここ一番の加速はしっかりとしがみついていないと振り落とされそうなほどすごい。しかし、ごく普通に流しているかぎり、印象に残ったのは大排気量ユニットならではの柔軟性と、あくまで直線的に、なめらかに吹け上がる洗練された速さであった。これなら1日500〜600km程度のツーリングなら軽々とこなせそうだ。
そして、ここが大事なのだが、タイガーエクスプローラーにはライダーにとって忘れがたい「鼓動」があった。ツインユニットほど荒々しくなく、かといってマルチのようにスムーズすぎて物足りなく感じることもない、3気筒ならではの適度なビート。四輪車だとエンジンの振動は「不快だ」と一蹴されることが多いが、二輪車では必ずしもそうではない。バイクというのは振動を通じて、体で記憶するものというのが、せんえつながらワタシの持論である。誤解を恐れずに言えば、振動のないバイクは、得てして記憶に残らぬバイクである。
とまあ、知命のワタシは、25年のブランクを経てタイガーエクスプローラーでアドベンチャーに出掛ける気にすっかりなってしまった。あとは、「トヨタ86」や「マツダ・ロードスター」に届きそうな車体価格を家族にどううまく説明するかだ――ワタシさん、それが一番大変なのでは? 健闘を祈ります。
(文=webCG竹下元太郎/写真=小林俊樹)

竹下 元太郎
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